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    ユウキ

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    ユウキ

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    元の世界に戻った晶くんとフィガロの話。謎時空。
    6月5日の晶くんオンリー3にて公開していたネップリ小説です。

    ポさんの夜は…静…にから着想を得て書きました!

    ##晶フィ

    叶うなら、きみと二人でもう一度。 深夜。灯りだけを灯すランプの下で、俺はラジオから聞こえてくる柔らかな声に耳を澄ませる。
    『もっと近くまでおいで』
     誰にも気付かれないくらいに小さな、小さな声で密やかにフィガロは囁く。秘密を共有するような声色に特別な意味合いを感じ取って、雨の音に混じり部屋の隅から聞こえてくる声の元へ俺はなるべく足音を立てないようにしながらそうっと近づいた。
     賢者としての役目を終えて元の世界に戻ってきた俺を待ち受けていたのは安物のラジオから聞こえてくる聞き慣れた愛しい人の声だった。どういう原理かわからないけれど些細なきっかけでラジオ越しに声が届くようになった俺たちは毎晩他愛もない話をしている。気を抜けばすぐにでも消えてしまいそうな脆弱な繋がりは、何の因果かまだこうして繋がりを保ち続けていた。
    『やあ、賢者様。元気にしてた?』
    『フィガロ、こんばんは。俺は元気ですよ。フィガロも元気そうでよかったです』
    『はは、それはよかった。……今日もきみの話を聞かせてくれる?』
     俺の声が聞こえるうちはどこにも行かないと言ってくれたあなたのことを結局は俺の方が先に置いていってしまったけれど。それでも、だからこそ今またこうして繋がっていられる奇跡にありったけの感謝を示したい。
     未だにフィガロのことを忘れられなかった俺は、ようやく戻ってきたこの世界での出来事を幾度となく彼に話した。その度にフィガロはいつも通り穏やかで優しい声で柔らかな相槌を返してくれる。それがどうしようもなく嬉しい。
     もう二度と会えないと思っていた。だからこうしてお話出来るだけでもすごく嬉しいのに、やっぱり、直接会って話したいという想いが日を増す毎に膨らんでいく。目を見て、手を握って、体に触れて話がしたい。お互いに声だけしか届けられない今の距離感は、心を重ね合わせていた頃と比べるとひどくもどかしかった。
     最初は声を聞けるだけで満足していた。それだけで十分幸せだと思えた。姿が見えなくても、触れ合えなくても、ラジオのスピーカー越しにでもこうして彼を感じられるだけで胸には幸せな気持ちが宿る。けれど、幾度となく積もり積み重なったそれはいつしか俺の心に我儘な欲望を連れてきてしまっていた。互いの近況を報告し合ったり、他愛もない話をしながら日々を過ごしているうちに、いつの間にか欲望はどんどん膨らんでいくばかりで。どう足掻いても止めることなんて出来やしなかった。
     もう一度、一目だけでもあなたの姿を見られたら。穏やかに瞳を細めて幸せそうに微笑むあなたに触れられたらどれほど幸せか。もしまたそんな奇跡が起こったなら、今度こそ俺は強く彼を抱きしめて離さないだろう。
    『――賢者様。賢者様、聞いてる?』
    「あっ…! は、はいっ! すみません!」
    『大丈夫? なんだかぼーっとしてたみたいだけど』
    「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて……」
    『……それって、もしかして俺のこと? 会いたいとか、触れてみたいとか思ってた?』
     どう返答しようか考えあぐねていると、唐突に先程までの考えを見透かされたような言葉を返されてますます混乱する。言葉に詰まって「う…」とか「えっと…」などその場しのぎの繋ぎにすらならない意味を成さぬ声を吐き出す俺にフィガロは早々に助け舟を出す。
    『だって俺も今同じこと考えてたから、たぶん、そうかなって……。どう? 正解?』
     そう言ったフィガロの声には柔らかな温かさが滲んでいた。こうしてただ話しているだけでも楽しくて幸せなのは、きっと彼も同じなのだろう。そして、それだけでは足りないことも。そう考えると、さっきまで胸の中にひしめいていた重苦しい感情たちが波にさらわれる砂のようにすうっと綺麗さっぱり消えていく。
    「はい……正解です。フィガロはすごいですね」
    「あはは、まあね。こういうのイシンデンシンって言うんでしょ?」
     いつの日か教えた言葉を嬉しそうに話すフィガロの笑い声が恋しい。
    「やっぱり、フィガロには何でもお見通しなんですね」
    『当然さ。きみのことなら何だってわかるよ』
     試してみる? と聞き慣れた声色でフィガロは言う。その声に確かな喜びの片鱗を感じ取って俺はまた頬を緩めた。
    「あはは、ぜひ」
     笑いながら咄嗟に伸ばし掛けた手をじっと見つめる。もうここでは彼に手を差し伸べられないこと、冷たい手を取って温めてあげることが出来ない事実を思い出してしまったから。
     今はもう届かない、触れられない手。その代わりに自分の手をきゅっと握りしめる。食い入るように見つめた自分の手はあまりにも無力で小さなものだった。
     過ぎ行く時の中で変わってしまったものは数多くあれど変わらないものだって確かにある。失ってしまったものの方が多いけれど、今、ここには確かにあなたが存在している。一日の終わりに俺たちはこうしてまた何度でも会える。
     だから。だから、きっともう寂しくなんてない。
    「……会いたい、なぁ」
     ぽつりと呟いた後でふと見上げた夜空には綺麗な満月が浮かんでいた。
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