コインランドリー おんぼろアパートに住む大学生には洗濯機を買う金なんてなく、行きつけのコインランドリーに今日も足を踏み入れる。ゴウン、ゴウン、と機械の音だけが鳴る深夜1時の薄暗い小ぢんまりとしたコインランドリー。その片隅でつまらなそうに本に目を落とす1人の男を観察することが、いつしか日課になっていた。
俺と、例の男と2人きり。深夜に近いこの時間に店内にいる人間はそれだけだ。適当に洗濯物を突っ込んで時間までスマホをいじってヒマを潰しつつ、男の観察をする。たったそれだけ。特に何か発見があるわけでもなければ面白いことがある訳でもないのに何故かその習慣を辞められずにいる。それは多分、名前どころか声のひとつも聞いたことがないその男に俺は不思議と惹かれているのだろう。
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