小さい時のことはあまり覚えていない。
いや、思い出すのをやめた、と言った方が正しいかもしれない。
確か僕にも普通の子供のように、褒められれば喜び、親や友達を失えば泣き叫ぶような情緒はあった。だけどいつからか、世界から色が薄れていくようになって、感情の動きが鈍くなって、もう、両親の顔すらわからなくなってしまった。
もっとも、年端もいかない子供を怪しい宗教組織に売り飛ばすような親だ。きっと碌な家庭じゃなかったんだろう。別に、そのことを恨んでるわけじゃない。柊に売られようが売られまいが、そう大層な人生にはならないことは変わりない。興味もない。全部がどうだっていいから。
一瀬グレンの話を初めて聞いたのはいつだったか。
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