部屋へ戻ったライオネルは扉にもたれかかると、そのまま顔を覆って座り込んだ。
頭の中を神父の声が響き渡る。
「お前は本当にどうしようもない悪い子供だ!一人では何もできない、しようともしない。周りの人間に迷惑ばかりかけて、生きている意味があるのか」
ライオネルは常に自分のことを否定していた。
自分のやることは間違っているし、判断も正しくない。でもみんな優しいから彼を責めたりしない。そんな善良な人々に甘えきり、ぬるま湯に浸かって良い気分になっていたのかもしれない。
みんな口に出さないだけで、本当は初めから彼のことを鬱陶しく思っていたのかもしれない。
「悪い子にはお仕置きが必要だ」
神父はそう言って十四歳の彼を叩き、蹴飛ばし、そして。
「うぅ……」
ライオネルは呻いた。
植えつけられた劣等感、汚れきった体、歪みきった性格。
化けの皮が剥がれる。
罰を、自分に与えなければいけない。
ライオネルはいつまでもしゃがみ込んでいた。
翌朝、朝食の席でヒューとニコレッタはちらちらとライオネルのことを盗み見ていた。
表面上はいつもと変わらず挨拶もしたが、顔色の悪さ、目の下のクマで、彼が一睡もしていないことがわかる。
いつもこの時間、ヒューとニコレッタが他愛のない話で盛り上がり、エレナとライオネルは、それを穏やかに見守るのが常だった。
ただ今日はライオネルはずっと俯いたまま、何も聞こえないかのように機械的に食事をしている。
食事が終わる頃に、ライオネルは伏目にしたまま誰に言うともなく言った。
「今日は昼前から街の方へ行ってきます。色々と用事を済ませて、戻るのは夜になると思います」
「俺もついていこうか」
ヒューが思わず言った。
こんなに、まるで死にそうな顔をしているライオネルは初めてだ。
ライオネルは少しヒューを見つめたあと、疲れたように微笑んだ。
「大丈夫だ。色々と行くところもあるし、君はここにいてくれ」
「…………」
「ごちそうさま。今日もおいしかったよ」
ライオネルは穏やかに言うと、食器を洗い場持ってき、静かに洗い終わると、出て行った。
「ライオネルさんはどうしたの?」
エレナが真面目な顔で残った二人に聞いた。
ヒューとニコレッタは顔を合わせた。ニコレッタは泣きそうな顔をしている。
ヒューが昨夜のやりとりをエレナに話した。
「そうなのね…。あなたたちの言いたいこともわかるけれど、ライオネルさんはとても繊細な人よ。自分を責めているんでしょうね」
「それにしても反応が強すぎだと思う」
「そういうふうに育てられたのではないかしら」
エレナが考えるふうに言った。
「育てられたって、引き取ってくれた神父とかいう人に?」
「前にふとした拍子にライオネルさんが言ったことがあるの。自分は神父様にいつもお仕置きを受ける悪い子供だったって」
「…………」
ヒューは一度ライオネルとじっくり話さなければいけないと思った。
すべての原因がそこにある。