水明のまにまに……………
ぱちり、と目が開く。
ぐっすり夢の中だった様な気もするけど身体は素直なもので、美味しそうな香りに反応しどうやら釣られて目が覚めたらしい。
隣で寝ていたであろうこの家の主、キバナが居ない事から朝食の準備をしているんだなと感じ取り、ベッドから起き上がり伸びをひとつ。
さすがにパンツ1枚で彼の元へ向かうのは、と思い適当に畳んで置いてあった彼のTシャツを拝借し、だいすきな香りを身にまといながらリビングへと足を進めた。
「おはよう。キバナ」
「あらま、起きちゃった?おはよダンデ」
ふにゃりとした何時もの優しい笑顔をこちらに向け、料理を作っていたであろう手を止めて「オレさまの可愛いマイハニー」とふざけながら軽めのハグとちゅっ、と可愛いリップ音をさせたキスを落としてくる。
誰よりも大きな彼が、こんなポケモンの様に甘えてくるのはきっと世界中を探してもオレだけなんだろうなと思うと愛おしさで気持ちが満たされ、自然と笑みがこぼれた。
そんなキバナを撫でながらそう言えば朝食を作ってくれている最中だった、ということを思い出し視線を台所に向ける。
「朝ごはん作ってくれてるのか?」
「あ、そうだった。もうちょいで出来るよ。座って待っててくれる?」
「オレも手伝うぜ?」
「えー、いいよ。ダンデ昨日遅かったじゃん。休みの日くらいゆっくりしてな」
ぽん、と頭を撫でられそう言いながらオレを椅子に座らせようとする。
忙しいのは、それはキミも同じだろうに。
と思いながらも口には出さず、「そうか……」と呟くとそのしょんもりしたオレの気持ちが察せられてしまったのかキバナが「それなら」と思い出したかのように声を出した。
「だったらお風呂場、軽く洗っておいてくんない?」
それしたら家の掃除が全部終わるし、朝食たべたら久々に2人で出かけようぜ。とキバナからの提案だった。
久々の、2人でお出かけ。
最近はオフの日がなかなか重ならず一緒にお出かけができるのは数週間ぶりの事だった。にへへ、嬉しい。
「わかったぜ!」と返事をしてオレは軽やかな足取りでキッチンを後にした。
「さて!」
お風呂場にやってきたオレの気合いは充分だ。
手早く綺麗に掃除を済ませ、キバナの作ってくれた朝食を食べ、そしてお出かけ!
どこに行こうか考えながらひとまず浴槽を洗おうとスポンジを手に取る。
何度もここのお風呂場を借りてはいるが、いつ見ても相変わらず立派だ。自分も身体はでかい方だが、キバナはもう一段落大きい。そんなオレたちが2人で入ってもゆとりのあるくらい立派な風呂場である。
そんな大きな浴槽を眺めながら取り敢えずスポンジを濡らそうと手元は見ずに水栓をひねる。が、それが最後。
しまった、と思った時と蛇口を反対にひねった瞬間は多分同時で、ザァァ…と物凄い勢いで頭の上からシャワーの水を盛大にかぶってしまう。予想外の水の冷たさに、思わず「うおぁっ?!」と大きな声が出てしまった。
「なに?なに?!どした??!」
オレの声が聞こえたのかバタバタとお風呂場に駆けつけてきたキバナ。
バチりと彼と目線が合い、「やってしまったぜ…………」とへにょりと笑って誤魔化そうとする。そんな頭の上からつま先までびしょ濡れにったオレを見たキバナは急にぶっ、と吹き出し笑い始めたのだ。それもゲラゲラと、いわゆる大爆笑というやつだ。
は、心配ではなく爆笑?
ここで予想外のリアクションをされて少しだけ悔しくなり、ゲラゲラと笑いがとまらないキバナの手を掴みコチラ側へ思い切り引っ張っる。
もちろん勢いよくシャワーの水は出っぱなしだ。
「ば、冷たっ!オマエなにすんだよー…」
「水も滴るいい男だな、キバナ」
引っ張られたキバナも不意をつかれた様で、一緒にずぶ濡れだ。2人でシャワーの水にうたれながらお互いの目線がぶつかり、思わず同時に笑いが零れてしまう。
不覚にも水に濡れたキバナは何とも言えない程に男前だ。ズルいなと思いながら彼の顔にかかってしまった濡れた髪に手を伸ばし、それをかきあげ頬に触れる。
「もしかしてオレさま、煽られちゃってる?」
「いや、煽ってきたのはキミだろう」
彼の頬に触れたオレの手を取るようにその上からキバナ自身の手を重ねられ、そして彼のもう片方のあいた手がオレの後頭部に回されて、そこでようやく逃げ場を無くされた事に気がついた。
目線を上げればにやりと笑ったキバナの顔が、ゆっくりと近づいてきて思わず反射的に目をぎゅっと閉じてしまう。
口と口が触れ、軽いキスから徐々に深いものへと変化していく。酸素を求めて口を開ければ、そこからキバナの生暖かい舌が器用にオレの口内に侵入し、くちゅくちゅといやらしい水音を立てられながら舐め回され、気が付けば身体中の力がゆるゆる抜け、彼の支え無しでは立ってられない状態だった。
何度も解放を促す様に口を離そうとしても、その度に頭を押さえ込まれる力が強くなり、舌を更に押し込まれてしまう。それに応えようと必死に合わせながら舌を動かしてみるものの、苦しいのと、気持ちいいのと、酸素が足りてないのと、いろんなものが混ざりあって頭がくらくらする。
ぐじゃぐじゃに混ざり合った、最早どちらかのものかわからない唾液を飲み込みようやく彼は唇を解放してくれた。
息も荒く、力も入らなくなったオレはキバナに体重を預けて息を整える。
器用にオレを支えながらキバナは手を伸ばし水栓を閉め、そこでようやくオレたちに降り注ぐシャワーの水は止められた。
「オマエ、定期的に洋服着たままシャワー浴びてるよね」
「仕方ない。オレの家とはシャワーと蛇口のひねる水栓が逆なんだぜ」
ふは、と笑うと確かに。オレさまも何度かそっちの家でやりかけたな〜とけたけた笑い返すキバナ。
そう言いながら濡れた服を脱ぎ捨て、バスタオルに手を伸ばし体を拭いていく。
「ほらバンザイ。ダンデも脱いで。風邪ひくぞ」と促され、キバナが器用にオレのTシャツを脱がし、ふかふかなバスタオルで身体を包んでくれた。このバスタオルからもだいすきな彼の香りを感じられ、幸せな気持ちで心が満たされる。
「なにニコニコしてんの」と聞かれて「なんでもない」とはぐらかすと、まぁいいけど〜と言いながら優しくオレの髪を拭いてくれる。
「ふふ、くすぐったいんだぜ」
「ダンデが動くからだろー。じっとしてて」
くすぐったいのは拭かれてる髪もあるが、心もそうだ。彼のこういう優しさに触れる度に心がぎゅっとなりじんわり温かくなる。
言葉で伝えるのは難しく恥ずかしいから、それを隠す様にキバナが頭に掛けていたタオルに手を伸ばし、少し屈ませる様な体勢をとらせて彼の唇に軽くキスをする。
「どーした?今日は積極的じゃんね?」
「キバナと過ごせる休日が思ってたより嬉しいみたいだ」
少し目を見開いて驚いたような表情をするキバナだったが、すぐにまたいつものゆるりとした表情に戻り、「嬉しいこと言ってくれるじゃん」とハグされる。
キミと過ごせる今日はどんな1日になるだろうか。
そんな思いに胸を踊らせながら、2人でじゃれ合いながらお風呂場を後にしたのだった。
……
第153回 // お題『水・水タイプ』
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