夜深リサイタル…………
少し肌寒く感じ、寝ぼけた頭で隣に寝ているはずの温もりを探す。
もぞりもぞりと布団の中をなんとなく探るものの、求めている温もりを一向に感じれる気配がない。重たい瞼を開けて身体を起こし隣を見ると、そこで寝ていたキバナの姿が見当たらない事にようやく気が付いたのだった。
「…、キバナ…?」
ぽつりと小さく名前を呼ぶと同時に、隙間風が漏れているせいなのかベランダへと続くリビングの大きな窓に付けてあるカーテンがひらひらとなびいてる事に気が付きゆっくりとそこへ足を進める。
部屋は真っ暗だが、その窓から漏れてくる月明かりがオレの足元をきらきらと照らしてくれていて、まるでそこへと導いてくれているようだった。
完全に覚めきってない頭と寝起きのゆったりとした足取りでベランダへ向かうと、ふと耳にしたことのある美しい歌声のような音色がそこから漏れてきている事に気がついた。
(この音の正体は、きっと。)
そう思いながら窓に手を伸ばしそのまま足を進めると、その音に耳を澄ませているキバナの姿と、そしてこの音色の主であるフライゴンがぱたぱたと羽をはためかせていたのだった。
「ごめん起こしちゃった?」
キバナがオレに気付いて優しく声をかけてくれる。
こっちにおいでと誘うような手招きもしてくれるものだから、吸い込まれるようにぱたぱたと駆けるような足取りでキバナの懐に飛び込んでいった。ぼふん、とキバナの胸に控え目にダイブして顔を見上げる。
「なにしてたんだ?」
「んー?目が覚めたからフライゴンの羽音を聞かせてもらってた」
コイツの羽音はどんな歌声よりも世界一美しいからな、と自慢気に話すキバナと静かな夜に響く心地の良いフライゴンの羽音に耳を傾けていると「っくし!」と自分のくしゃみが漏れてしまった。そろそろ季節も秋のようで、頬に触れる夜風が冷たい。
「相変わらずの薄着だな。風邪ひくぞ」
そう言いながらキバナはオレに体温をわけてくれるかのように、一回り大きな身体で包み込むように後ろからふわりと抱きしめ直してくれた。
「はは、温かいな…。ありがとう」
「オレさまも少し寒かったからこれでちょうどいいな」
求めていた温もりに安心感と心地良さを感じて全てを満たされていく感覚を味わいながら夜空を見上げた。そろそろ眠らなくては明日の朝が辛くなるような時間ではあると思いつつ、この時間を手離す事が名残惜しく思ってしまう。
でも、どうかもう少しだけこのままで。
フライゴンの透き通るような羽音に再び耳を傾けながら、この夜がもう少しだけ続いてくれますように。とささやかな祈りを夜風に溶かしたのだった。
……
第161回 // お題『寝坊・夜更かし』
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2023/09/30