【シアターベル】夏祭りの裏側で しゅわ、しゅわしゅわしゅわ。
独特の形をした瓶から注がれた液体が、この日の為に借りたジョッキの中で泡を弾けさせる音がする。
「これを見ると、夏!って感じがするよネ☆」
「そうだねえ。ラムネと言ったら夏のイメージが大きいし、実際に飲んでも気持ちがいいからね」
「ぼん、聖人。見とれているのは構わないけれど、せっかくふたりに見てもらいたい試作品が出来上がらなくなっちゃうよ?」
「それは困るな。はい、創真」
「グラッツェ♡ 聖人。さて……」
バー・カンパネラの次のテーマは「夏祭り」。他のゴールド生にも手伝ってもらっていくつかの出店を用意するほか、お祭りの屋台で食べられそうなものをアレンジしたメニューを提供する。
「さっきのぼんのわたあめパフェは、日向くんが見たら喜びそうだねえ」
「デショ?! って言いたいとこだケド、あれは発案者がまひるんなんだよネ☆」
「ふっふっふ。お兄さんは知っているよ、その発案を受けてぼんは夜な夜な頑張っていたからねえ」
「もう、知ってたならわざわざ言わなくてもいいのに~!」
「ごめんよ、ぼん。創真のサイダーモヒートも、いつもとちょっと違うんだよね?」
「うん。夏祭りだから、聖人が実家で仕入れてくれたこのラムネにミントの葉を飾ってから……それっ」
「あ」
グラスの中に、とぽん、と投げ込まれた割り箸の先。透明に映える赤が見えて、聖人と望が声をあげた。
「もしかして、りんご飴?」
「その通り。夏の甘酸っぱさと爽やかさをかけあわせた、その名も『サマーナイトメモリー』さ♡」
「なるほど。これなら屋台の甘味をふたつ一気に味わえるってことか。考えたねえ、創真」
「褒め言葉をありがとうと言いたいところだけれど、これを始めに見せてくれたのはシキなんだ」
「ジャノっち?!」
「試作品を蛍に持っていったんだけど、部屋にいなくてね。代わりにシキに頼んだら、少し飲んでから隣に置いておいたりんご飴を、こう」
ジェスチャーで、どぼん、といれる振りをする創真が若干苦笑いを浮かべる。わからなくもない、と聖人も同じように笑った。
「独創的だったけど、やってみたら美味しかったからそのまま採用したんだ」
マドラー代わりにりんご飴が刺さったままの割り箸をくるくると回す。
「さあ、召し上がれ」
「いっただっきまー……ええっ?!」
「んん?」
ふたりの反応を他所に、創真は微笑んだままでとんでもない一言を口にした。
「言い忘れていたけど、聖人発案でロシアンルーレットとしても楽しめるようにしてあってね」
「おや。もしかして、引いてしまったかい?」
のんびりした声を遮るように、がん、とジョッキが少し強めに叩きつけられる音が響いた。
「もォ~! 梅干しも混ぜてるなら先に言ってよネ!!」
望の声が響く今は、バー・カンパネラの三日前。
個性豊かなメニュー達はこうした研鑽の末に出来上がり、当日お客様たちのもとへと届けられた。
バー・カンパネラはお客様を非日常へ案内する場所。
そう、たとえ――
「なんじゃこりゃあああ!!」
「すっっっぺえええええ!!」
こんな声が響き渡るほどに新世界への扉を開くようなことがあったとしても、である。