春にしてきみを離れ「庭の桜が咲く頃には、僕はこの世にいないだろう……みたいな、使い古された表現があるんだよね」
開け放たれた障子の向こうで舞う雪を眺めながら、詠が呟く。今日はここ数日のうちで一番顔色がいい。昼間も敷かれたままの布団の上に座り、ぼんやりと庭の様子を見ていた。
「それは、自分もそうだって言いてえのか?」
思っていたよりも、堅い声が飛び出した。詠が発した言葉に苛立ちを覚えた証拠のような気がして、烏天狗は思わず舌打ちをする。十数年前までならば、そんな機嫌の悪そうな様子を見れば詠は怯えて逃げ出そうとしていただろう。今は、そうはしない。障子のすぐ近くに立つ烏天狗を見上げ、おかしそうに笑っている。
「寂しいからってそんなに怒らないでくださいよ」
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