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    無理太郎

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    無理太郎

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    X(Twitter)に載せている守護獣パロの恒刃小説第9話です。小説の語り手が場面ごとに変わって読みにくいかもしれませんすいません。

    森閑ああ、彼の白い髪が、長く白い髪が透けていってしまう。白い彼が霧の彼方に透けていく。俺の元から離れていく。
    そんなことはさせない。何処にも連れて行かせはしない。
    『もう其方を余の元から離さない。』

    目覚めると、俺は何かを捕まえるように手を真上に伸ばしていた。さっきの夢は何だったのだろう。応星さんに似た白い長髪の男性が、霧に消えていきそうになっていた。俺はそれを阻止しようとして、彼を掴もうとして、それで…俺じゃない別の誰かの声が脳内に響いた。酷く哀しみに満ちたような、怒りに満ちたような声だった。
    身体を起き上がらせると、俺の守護獣である水龍が俺の顔を覗き込んだ。普段は全く反応が無いのに珍しい。ふと、龍の頭を撫でてみる。冷たい。
    「あの夢の男性は誰だったんだろう」
    龍に聞いても答えが返ってくるわけでもない。…が、龍は静かに目を閉じた。何だか考え事をしているように見えた。
    「…こんなことをしている場合じゃない。今日は応星さん達と仕事をする約束があったんだ。」
    何でも聞いた話によると、今日のはなかなか危険な仕事らしい。俺は慌てて身支度を整えた。
    仕事の依頼内容は、森に潜んでいるらしい守護獣を討伐して欲しいという内容だった。今の時期のこの森にはきのこ狩り、キャンプや観光に訪れる人々でそれなりに賑わうらしいが、ここ最近、何人かが行方不明になる事件が多発しているという。行方不明になった人間は数日後には見つかるが、まるで生気を吸われたかのように廃人になっているというのだった。そんな類いのことができるのは主を喪ってもなお存在する強い守護獣ぐらいだという情報のみで、その守護獣らしきものを見た者は誰も居ないという。
    「はい!そんな危ない森には行きたくないです!」
    行く道中、カフカさんの運転する車の中で銀狼という少女は手を挙げて言った。この子とは何回か事務所で会ったことがあるため面識がある。
    「あとそんな話を走ってる車の中で話されても困る!もう逃げられないじゃん!」
    「ごめんごめん。まあ良いじゃない。ちょっとしたハイキングに行くと思えば」
    「そんな何人も廃人になってる危ない森でハイキングなんかしたくないんだけど!しかも森なんて電波通じないしネット使えなかったら私、何の役にも立たないよ!」
    やだー!と嘆く銀狼を慰めるつもりで俺は言った。
    「大丈夫だ銀狼。何かあっても必ず守る」
    「あ、大丈夫だよ丹恒。本気で怖がってるとかじゃなくて、私ただ単に森とか山が好きじゃないからこうやって喚いてるだけだから。」
    嘆いていた銀狼は急に真顔になって答えた。本気で嫌がっている訳では無いなら安心した。しかし彼女はまだ十代前半の子供であるわけだし、俺達が守らなければならないことには代わりはない。
    「今回は広い森だし元凶を手分けして探さなきゃならないから、人手が欲しかったのよね。四人ならちょうどいいでしょ?」
    「そんな適当な理由で呼ばれたんだ私」
    そんなこんなで森の出入り口に到着した。遭難する人間が増えていることからか、立ち入り禁止のロープがかけられている。立ち入り許可は勿論貰ってるから入っても平気よ。とカフカさんから付け加えられた。
    「ある程度は人の手が入ってるといっても森だからね。一応準備はしてきたのよ。基本的な物だけど簡易食とか懐中電灯とか方位磁石とか…はい、銀狼これ。熊避けの鈴」
    「え、ここ熊出るの?」
    「念の為よ。まあ、熊もおバカさんじゃないんだから私達の守護獣を見たら逃げると思うけどね…」
    野生の動物や虫も、守護獣の規模によっては逃げる者も多い。最近は野生の熊の出没情報が多発しているが、大抵は応星さんの大きな狼に吠えられただけで逃げるだろう。カフカさんの蜘蛛がいればどんな虫も近寄って来ないのと同じように。
    「…気を付けろよ」
    「えっ、熊に?」
    「違う」
    車の中でも無言を貫いていた応星さんが口を開いた。険しい表情をしている。
    「…森の付近に来てから、ずっと誰かに見られているような気配がする」
    「あら…私には何も感じ取ることができないけれど…この森に潜んでる守護獣かしら」
    「私の子も、なんか嫌な匂いがするって言ってる」
    言われてみれば、ひっそりとした森はまだ朝も早いというのに、妙に不気味な静けさを保っている。
    俺の龍は応星さんや銀狼の守護獣の狼のように、繊細な気配を感じ取ることができない。カフカさんの蜘蛛もこういった類いのことは苦手なようだ。狩るのに慣れてしまったせいか。
    そうだ、と俺は朝に家で用意したある物を三つ分取り出した。
    「応星さん、これを持っていてくれ」
    「…これは?」
    「俺の守護龍の鱗が入ってる袋だ。持っていてくれたら、はぐれて何か危険なことがあれば俺の龍でも探し出せる。銀狼とカフカさんにも、これを」
    「あら、ありがとう。まさにお守りね」
    「すごーい!龍の鱗とか超レアアイテムだ」
    「…ありがとう、丹恒。必ず手放さないよう気を付ける」
    そうして俺達は慎重に、森に入った。四人で何歩か森の中を進んだだけ、の筈だった。
    「…応星さん!?銀狼!?」
    「あらっもう居ない。おかしいわね。手分けして探す間もなくはぐれちゃうなんて」
    俺はつい二人を探して走り出してしまった。危ない。このまま一人で突っ走ってしまったらカフカさんともはぐれるところだった。
    「にしても化かすのが早すぎるわね。もう入口も見えなくなっちゃってるわ。私達を最初から狙ってたのは本当みたい」
    冷や汗と胸の鼓動が止まらない。姿を見せずに俺達を化かすなんて、どんな守護獣なんだ?


    「…丹恒?カフカ?」
    「えっうそ。もうはぐれちゃったの?なんで?森に入って数分ぐらいだよ?」
    さっきまで隣にいて話していた筈の丹恒とカフカが何処にも居ない。あり得ない。
    「…罠に嵌ったのか。俺達は…」
    「こんなこと出来るのもう妖怪とかでしょ…うわ、寒気してきた」
    荷物を四人でそれぞれ分散して持っていて良かった。カフカと丹恒が一緒にいる保証も無い。俺は銀狼の小さな手を強く握りしめた。
    「俺から離れるな」
    「うん」
    二人を探そうにも周りは鬱蒼とした木々ばかりで、目印になるものが何処にも無い。すぐ後ろにあった筈の入口すら無くなっている。無闇に歩き回るのも危険だが、元凶を見つけて退治しない限りこの森を出られない気もしてきた。方位磁石もぐるぐると回っているばかりで役に立たない。
    「やっぱしスマホの電波も通じないや、GPSでも付けとけば良かった。いや、電波も通じないからそれも無駄なのかな」
    「あまり余所見をするなよ。躓いて転けないように」
    銀狼に俺の動揺を悟らせたくない。銀狼が色々話しかけてくれるのは内心、心強かった。銀狼の熊避けの鈴がりんりんと鳴る。
    俺の守護獣に二人の匂いを探させているが、やはり分からないようだ。逆に進めば進む程に、何か嫌な匂いが鼻に伝わってくる。
    「なんか息苦しくないか。大丈夫か銀狼…銀狼?」
    あんなに強く握りしめていた小さな手の温もりが感じられない。軽やかな鈴の音もしない。嘘だろう。銀狼が居ない。俺は銀狼を一人にさせてしまったのか?
    「…銀狼!どこだ!銀狼!」
    森に虚しく俺の声が響き渡る。生き物一匹、虫すら居ない。何かの笑い声が聞こえたような気がした。
    「誰だ!」
    振り向いた途端に、そこから俺の記憶は途切れた。


    「銀狼!」
    「あれー!?カフカ〜丹恒〜」
    カフカさんと二人で元凶の守護獣を探していると、銀狼が見付かった。銀狼が此方に駆け寄って来る。
    「刃ちゃんは?」
    「手繋いでたのに突然いなくなったの。ってことは刃、今一人だよね?やばくない?」
    「応星さん!!」
    「刃ちゃ〜〜ん」
    大きな声で呼んでみても返事は無い。だんだんと鈍感な俺にも感じ取ることが出来るようになってきた。この森を支配する、強い悪意に。
    「…嫌な予感がする」
    「もしかして、この森にいる守護獣のボス的な奴に捕まっちゃったとか?」
    「まずいわね」
    「…応星さん!!」
    俺の脳内の血管がぷちんと切れたような音がした。今朝見た夢のように、応星さんが何処かへ消えてしまう。それが現実になるのだけは絶対に嫌だ。


    目を覚ますんじゃなかった。俺は今、まさに蛇に睨まれた蛙になっている。目の前には巨大な黒い蛇が居る。丹恒の龍と同じ大きさの蛇だ。その蛇の横には俺の守護獣がぐったりと横たわっている。
    「…貴様は…」
    『何者かと?その質問に答えてやる義理は無い』
    なんと喋った。経験上、生前の主の姿を模倣した守護獣以外が人間の言葉を喋るのは聞いたことが無い。いや、喋っているというより、脳内に人間にも分かる言語で声を伝えているのか?何方にせよ厄介そうなのには代わりはない。
    『貴様はここで我に喰われるのだからな』
    黒い大蛇は俺の狼をぺろりと舐めた。大きな生温い舌で舐められたような感触が俺にも伝わってくる。唾液が身体中に纏わりつく感覚がして、壮絶に気持ちが悪い。
    『最初から貴様だと目を付けていた。あんな矮小な犬など喰うに足らん。蜘蛛などまっぴらごめんだ。蛇の皮を被った龍には少々驚かされたがな』
    やはり俺達を見ていたのはこいつだったか。こいつからは前に出逢った大狐より、たちの悪い匂いがする。この蛇が悪さをして、此処の森の時空を歪めていたのだろうか。
    『貴様の犬は食いでがありそうだ。こやつを喰えば、我は更に力を増すだろう。いずれ龍にも成れる』
    行方不明になった人間はこいつに守護獣を喰われ、廃人と化してしまったのだろう。しかしよく喋る蛇だ。俺は顔を上げるだけでも精一杯だというのに。
    『もっと怯えてみよ。逃してくれ、助けてくれと我に泣いて媚びてみよ』
    蛇がもう一度、俺の狼を舐め回した。俺は懐に入れていた、丹恒の龍の鱗が入った袋を力強く握りしめる。するとバチッ!と強い電流が流れたような音がして、大蛇は俺の狼から遠ざかった。
    『小癪な!たかが龍の鱗ぐらいで…』
    『応星…!』
    脳内に声が響き渡った。丹恒の声に似ているが、はっきりと違うことが分かる。夢の中に出てくる、丹恒の龍の声だ。あの大蛇には聴こえていないらしい。
    急にざあっと強い風が吹いた。まるで、何か大きな長い物が凄い速さで横切ったような風だ。
    地面が割れるような音が響き渡ったような気もする。まるで怒り狂った龍のような…
    『龍が捜しまわっているな』
    丹恒の龍が、凄まじい速さで森の中を飛び回っているのが分かる。脳内でそんなイメージが突如湧いたのだ。
    『しかしどれだけ捜そうとも、我の結界を破れるわけが無い。貴様はあの龍が目を付けた獲物だったようだな。己の獲物がじっくり喰われる様を見せてやれないのが残念だ』
    大蛇はなお嗤っている。あまり煽らない方が良いんじゃないのか。嗤っているのが丹恒の龍に伝わっているのか分からないが。


    俺は必死だった。なんとしても応星さんを無傷で探しださねばならない。龍を飛び回らせ、木々を薙ぎ倒す。俺はがむしゃらに自分の龍と共に走り回っていた。
    「凄まじい剣幕ね。龍の逆鱗に触れるってこんな感じかしら」
    「木、いっぱい倒してるからどっかから怒られそう。ついていくので精一杯なんだけど」
    応星さんの身に危機が迫っているのが分かる。龍の鱗が教えてくれた。狼を舐める大蛇の姿を。どうやら相手は結界を張っているらしい。要はその結界さえ破れば良い。何処かにある筈だ、時空の割れ目のようなものが。
    …時空の割れ目なら、作る方が早い。俺の龍を全力で咆哮させた。

    『…なんだと!?』
    大蛇が驚いている。俺だって驚いている。急に時空が歪んだように捻じれ、丹恒の龍が出てきた。
    『せめて貴様を道連れに…』
    大蛇が俺の狼を咥える。全身に痛みが走る。丹恒の龍が怒り狂っているのが分かる。見たことの無い眼をしていた。
    「あれを消せ」
    静かな丹恒の声が響く。龍は大きく口を開き、水の塊を大蛇に向けて吐き出した。
    俺の狼にも水の塊がぶつかった筈なのに、冷たさも痛みも何ともない。水の塊をぶつけられた大蛇が俺の狼を口から離すと、龍は大蛇に噛み付いた。
    蛇が悶え苦しむ。噛み付かれた場所から大量の体液が流れている。龍は大蛇の身体を噛み切って、頭からばりばりと喰らいついた。蛇の激しい断末魔が脳内に流れて酷く頭痛がする。逃げたくても立ち上がれない。
    「応星」
    動かせない身体を、何者かに抱きかかえられた。よく知った匂いがする。馴染みのある冷たい手が、頬に添えられた。

    「まさか丹恒くんの龍が悪い守護獣を食べちゃうとはね。いや〜豪快だったわね〜。刃ちゃんも何とも無さそうで良かったわ」
    「知らなかった…時空って割れるんだ…凄いことがいっぱい目の前で起きた…」
    カフカと銀狼は無事のようだ。俺は胸を撫で下ろした。丹恒がいつまで経っても俺を離さないので、俺は丹恒の腕をぽんぽんと軽く叩いた。
    「あ…ああ、すまない…何処にも怪我は無いか?」
    「無い。お前の鱗が、俺と俺の狼を護ってくれた」
    森の方もあんなに丹恒の龍が暴れ回ったにも関わらず、初めて来た時よりむしろ清浄な空気に生まれ変わっている。丹恒の龍が森に漂っていた悪い気を浄化したらしい。空間を裂いたり、あんなでかい守護獣を喰ったり、とにかく何でもありか此奴の守護獣は。
    翌日、あの黒い大蛇に守護獣を喰われ、廃人になっていた人々が正気を取り戻したという連絡が病院から入った。どうやら喰った張本人のあの大蛇が消滅した為、守護獣が蘇ったらしい。主である人間が死なない限り、守護獣自体は死ぬことは無い。つくづく守護獣というのは不可解な生命体だ。
    「そういえば丹恒…昨日、俺の事を応星と呼んだな」
    俺はカフカの勧めもあり、休暇を取り家で身体を休めていた。丹恒は俺を心配して、わざわざ大学の講義を休んで今日一日付き添ってくれている。
    「えっ!?そうだったか…!?すまない、覚えてない…あの時は自分でも訳が分からないぐらい怒っていて…なんで呼び捨てにしたんだろう?」
    「いや、嬉しかったんだ。夢の中の声そっくりだった。やはりよく似ているな」
    「夢の中の声?誰にだ?」
    「…いや、此方の話だ。これからも呼び捨てにしても良い。お前が呼びやすい呼び方にしてくれて構わん。」
    「いや!別に呼び捨てにしたい訳じゃ…!…た、偶に、そうするかもしれない…」
    俺の守護獣は丹恒の守護獣と寄り添って眠っている。あの時丹恒の龍が呼んだ俺の名は、きっと俺の守護獣のことだったのだろう。
    「…俺の守護獣は、丹楓だと名乗っていた。昨晩、夢の中でそう言われたんだ。夢の中で会った俺の守護獣は、俺とよく似た風貌だった」
    「…夢で…お前は自分の守護獣と話すことができたのか?」
    「ああ…そんなことは初めてだった…けれど、俺自身でもなく、俺と全く違う自我を持っているとも言い難い…説明しづらいが、彼は俺の一部である。そうとしか言えないんだ」
    「その感覚は俺にも分かる」
    しかし俺の守護獣の名は俺と同じなのに、丹恒の龍は名が違うのは不思議な話だ。やはり丹恒の龍は、風貌や能力だけでなく何か、他の守護獣との格の違いを感じる。
    「…応星」
    「ん?」
    俺は丹恒の顔を覗き込んだ。丹恒はむず痒いような顔をしている。
    「…応星さん」
    「呼び直さなくてもいいぞ」
    「…応星。抱き締めてもいいか」
    ん、と俺は両手を広げた。丹恒は力強く俺を抱き締める。俺も柔らかく彼を抱き返した。
    「貴方が…本当に消えてしまうかもしれないと思うと、どうにかなりそうだった。もう、何処にも行かさない」
    何処にも行かないでくれ、ではなくて、何処にも行かさない、か。夢の中の龍…丹楓と丹恒はやはりよく似ている。こういった所が。俺は微笑みを隠せなかった。
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