「刃、お前はどんな風に死にたいんだ。」
そんな質問をされたのは初めてだった。丹楓の脱鱗後のこの男を本人の希望に乗って丹恒と呼ぶようになってから少々、羅浮のとある酒楼の一角で共に酒を飲んでいた。
なんてことは無いただ居合わせてしまっただけなのだが、知り合いで別に避ける道理がないので相席をした。それだけで話すつもりもなかったのだが…
「なぜそのようなことが気になる。」
「別にただ…」
そういって口ごもってしまった。なるほど、この男は生意気にも人の生死について考えていたのだろう。思わず舌打ちをしそうになった。丹楓はそんな男ではなかった。そんなくだらない下々の悩みなど知らぬとばかりに敵を殲滅する男であった。丹恒はそんな丹楓より弱くなったと感じて、その変化に少し胸が痛くなった。
「…火にあぶられ死ぬのは嫌だったな」
「それは、そうだろう。自身の焼ける匂いを嗅ぎながら死ぬのなんて」
「いや、火にあぶられると喉が痛くなり思考が極端に鈍る」
「なるほど、一酸化炭素中毒か」
「しばらく声が出せず苦労した」
せっかくの酒の席にしんみりとした空気をだすのも酒が不味くなると思い丹恒の話に乗ってやることにした。物騒な話題だが誰も俺たちを気に止めるものはいなかった。
「流行病が1番嫌だ」
「苦しいのが長引くからか?」
「ああ、それと俺の内部で身体を治そうと豊穣の力が暴れ回る」
「過剰な回復力も考えものだな」
「溺死も嫌だな」
「思考が鈍るからか」
「その通りだ」
「思考を制限されるのが嫌なんだな」
「死ぬ前に次の行動を考えておけば蘇った時死の余韻に浸れる」
夜も更け、酒も残り僅か。人がまばらになってくる。
「あとは」
「一体どれだけ死因が出てくるんだ」
「鏡流に殺された時は良かった」
「!」
「あの女の剣技は素晴らしい。白珠の友であった彼奴の手による死は俺にとって大きな意味をもつ」
「贖罪から逃げる罪悪感が減るからか」
「ああ、しかし応星が自身の傑作を凡鉄としたあの女に見合うものが作れなかったと未練をだしてくるのが厄介だ。」
「自分の作品で死にたいのか?」
「…さてな」
喉が詰まった感じがする、柄にもなく長話をしたと思った。この男を前にすると魔陰の身関係なく気分が高揚し口が回ってしまう。いや、きっと酒のせいだ。
そろそろ開きにしようと勘定をすませ、2人で白んで来た空の下へでた。そして別れを告げるとき。
「刃」
「ん」
「お前が望むその時がきたら撃雲でお前の身を貫いて見せよう」
「ふっ、貴様が?」
「ああ、まだ今の俺では出来ないが」
「当たり前だ。今の貴様ごときにできるものか」
そう言って俺は丹恒と反対方向へと足を進めた。
貴様にできるものか。まだ弱い。鏡流の足元にも及ばぬ貴様に。
思わず頬が緩む。
しかし、しかし遠い未来丹恒が俺を破ったのならその時はもうゆっくりと眠れる。そんな予感がした。