Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    りせ.

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍎 🌞 🐍 🌹
    POIPOI 24

    りせ.

    ☆quiet follow

    この前のひばの完結編。想いあってからの二人。
    おひいさんの糖度が増して茨さんがたじたじになりながらも必死に愛を返そうとする。

     殿下の午前中の仕事が終わって数時間後。それから逆算し、今対応している仕事がきりがいいところまで進められるように計算していた。


    —————コンコン、

    「どうぞ」

    「お疲れさま!朝は風が心地よくて気持ちよくお仕事できたね」
    「お疲れさまです。それは重畳。ゲラチェック楽しみにしています」
    「うんうん、メアリも一緒で合間にお散歩もできたしね。茨も大満足の仕上がりだと思うね。あ、そうそうご機嫌なメアリがとってもかわいくてぼくいっぱい写真撮っちゃったね!ほらほらこれかわいいでしょ?」

     本当にたくさん撮られているメアリの写真をいろいろ見せてくれる。Edenのホールハンズグループにもたくさん送っていたがもっとあったとは。たしかに良い表情…をしているような気がするので今度はこれを元にEveとメアリで特集を組んでくれるよう売り込んでみようか。前に桜とメアリがかわいいと殿下がたくさん写真が送っていたので来年あたりで計画しておこう。


    「…殿下、かわいいメアリだけで時間がなくなってしまいそうなんですが」
    「う〜…まだまだ見てほしい写真があるのに……仕方ないね。茨、飲み物の準備をお願いしていい?」
    「もちろん。では殿下も準備お願いしますね」


     ……殿下の本心が聞けてからは前より甘いアフタヌーンティーになっている。殿下が言っていたとおり、本当にたくさんの愛をいろんな方法で伝えてくる。言葉ではもちろんのこと俺を見る瞳がもっと甘くなったり、手を繋いだり、頭を撫でたり、キス、したり……。あれから数ヶ月ずっとそんな調子で、本当に慣れなくて毎回爆発しそうになりながらも殿下の愛を受け取り続けている。
     俺は言葉ではなかなか返せそうにないから、行動で少しでも殿下に愛を、と先日担当している情報番組の特集で行った先で見つけた紅茶のティーバッグを持って副所長室を出た。
     紅茶は殿下とぐらいしか飲まないので良し悪しが全くわからないが、よく聞く茶葉だしきっと大丈夫、なはずだ……。


     プラスチックのカップにティーバッグを入れ、お湯を注ぐ。じんわりと抽出されていく紅茶を見ながら、同じように眺めながらぐるぐる考えていた時期もあったな、と思う。
     あの頃はただ、この関係が終わらないように。それだけを願っていたが、今は長くこの関係が続くように、殿下の隣で過ごせるように、に変化した。あの頃の俺からは想像もつかないだろうけど、あの人が俺を改めて選んでくれたから。俺を信じてくれたから。
     好きになる前から殿下は『俺』を見てくれているのは気づいていたが、今はそれがとてつもなくうれしい。こんな最低野郎の俺を、いや、それを言ったら前に怒られたっけ。「ぼくの大切な人を貶めないで」、だったかな。


     そうこう考えている内に副所長室に戻ってきた。殿下も差し入れの準備を終えていて、ひまわりのような明るい笑顔で「おかえり!」と迎えてくれた。
     前まで殿下は上座のソファに座っていたが、あれからは下座のソファに隣同士で座っている。あの出来事から初めてのアフタヌーンティーの時に下座に座っていたから戸惑っていると、「どうしたの?ここに座るといいね!」と殿下の隣に呼ばれて以降、向かいに座ろうとすると横に呼び寄せるようになり、今は最初から隣同士で準備されている。しかもちゃんと利き手を考慮された位置で、それがまた殿下らしい。

    「ふふん、今日はかぼちゃプリンとアップルパイとモンブランだね!前にいちごのタルトを食べたカフェが近かったからまた買ってきたんだよね」
    「ああ、あのタルトの。場所、あの辺だったんですね」
    「だからそんなに遠くないし、今度はきみとお店で食べたいね。他にもケーキがあるし、紅茶もコーヒーもたくさんラインナップがあったし、きみと何にするか迷ったりしたいね」
    「……今は新曲にライブ、ドラマに映画撮影と我々の予定が詰まっていますので、年明け以降になってしまうかもしれませんが」
    「行ってくれるの?ありがとね!いいよ、その頃なら前に約束した甘いいちごも食べられるね!」

     そんな前にした約束も覚えているなんて。あの頃は、もうそんな時は来ないかもしれないと思いながら聞いていたものだ。

    「…はい、楽しみですね」
    「! うん!近くの公園も素敵だから、その前か後にデートしようね」
    「デっ、あ、は、はい……」
    「ふふ、ばっちりエスコートするからね!さ、そろそろ紅茶も良さそうだしケーキ食べようね。茨はどっちがいい?」
    「…アップルパイで」
    「はい、どうぞ」
    「ありがとうございます」

     ……こんな風に先に選ばせてくれるのも、俺、だからかも…と思ってしまえば、些細なことでも殿下からの愛を感じて顔が赤くなる。うれしい、けど愛で自分が自分でなくなる感じが恥ずかしくて逃げ出したくなる気持ちがあり、それをいつもなんとか堪えている。
     もっと、素直になれたらいいのに。

    「…甘いりんごに、パイもサクサクでおいしいですね」
    「よかった!こっちのモンブランもおいしいね、食べてみる?」
    「え」
    「遠慮しなくていいね!口開けて」
    「じ、自分で食べられます!!」
    「もう掬っちゃったからこのまま食べなきゃだめだね!良い子だから、ほら、あ〜んして」
    「っ、う、あ……」
    「どう?おいしい?これ好き?」


     あ、味なんてわかるか!!

     そうやって叫び出したい気持ちを抑えつつ咀嚼するも本当にわからない。緊張しすぎている。俺、いつになったらこのやりとりに慣れるんだ?

    「わ、わからない、です」
    「えっ 一口じゃ足りなかった?もう一口食べる?」
    「ち、違います!充分です!!そうではなく、その」
    「…ああ!もう、本当にきみってばかわいいね!」

     くそ……こういう時、理解力が高いのがまた恥ずかしさに追い打ちをかけてくる……。でもそうやって愛おしそうに笑う殿下は本当に綺麗だ。

     強引ではあったが、もらったからには俺も、やるべきなのか…?

    「……殿下も、食べますか?」
    「えっ い、いいの?」
    「はい。……どうぞ」

     今誰かが副所長室に来ようもんなら、差し出したアップルパイを引っ込めて、どうにかなかったことにするしかない。恥ずかしさで手が少し震える。早くひと思いに食べてくれ!

    「ん……うん!おいしいね!茨が食べさせてくれたからよりおいしいのかも」
    「そんなわけないでしょう、元々おいしいです」
    「え〜そうかな?茨の愛が乗ってるじゃん」
    「な、そ、そんなこと」
    「ふふっ、きみもりんごみたいに真っ赤!かわいいね。…がんばってくれて、ありがとね」
    「っ、いえ……」


     殿下は俺がどうにか愛を返そうということをわかってくれていたみたいで、軽く頭を撫でられる。むずかゆいけど、殿下がこんなに喜んでくれるならやってよかった。
     そんな甘い時間に一区切りつけるように紅茶を飲む。殿下もつられて一口飲んで……気付いたみたいだ。


    「ん、香りがいつものと違うね」
    「さすがですね。それはこの前出先で買った茶葉です」
    「へぇ…これ、ぼく、好きな茶葉だね」
    「本当ですか?どういうのがお好きなのかわからなかったので、お口に合ってよかったです」
    「きみが出先でもぼくのことを考えて選んでくれた茶葉なんだよ?好きにならないわけがないね」
    「っ、そ、そうですか……」

     それ以上特に何も言えないままアップルパイを食べ進め、かぼちゃプリンに手をつける。
     いつもこうやって俺はすぐに翻弄される。殿下は本当にすごいと思う。こんなに好意を伝えられるなんて。……そうか。

    「殿下、自分このアップルパイとプリン、好きです」
    「ん、どうしたの?」
    「さっきの殿下の原理でいくと、この差し入れは自分のことを考えて選んでくださったんですよね」
    「ぼくの原理って…茨らしいね。まあ、そうだね。出先で何か買う時は大体茨のこと考えてるね」
    「……だから、です」
    「! じゃあまたたくさん買ってくるから、茨の好きなもの、増やそうね」
    「はい、殿下の好きなものも教えてください」
    「うん!今度ぼくが好きな茶葉も持ってくるからそれでアフタヌーンティーもしようね」
    「楽しみにしています。自分も出先で何か探しますね」
    「物でなくても写真でもいいね。きみが良いと思ったものを教えてほしいね。時間も気にせず、送ってくれていいから」
    「…わかりました」


     自分の好きなもの。気にして撮ったり買ったりあまりしてこなかったような。前に深海氏の水族館で見たウォータータイマーはわりと好きだったかもしれない。
     今は違う催しをしているのだろうか。聞いたら今度は殿下と、一緒に見に行ってもいいかもしれない。サークルで作ったものも殿下にごちそうしようか。


     いろいろと考えていると、優しく右手を握られた。


    「あれからいろんなきみを見てきて、こんなに茨がかわいいなんて知らなかったね。ぼくに愛を伝えようとしてくれている時、きみ自身はかなり葛藤しているはずなのに。きみがぼくに告白してくれていなかったら知ることもなかったなんて…きみが勇気を出してくれたおかげだし、知らないままの日常もあったかもしれないと思うと恐ろしいね。

    本当に、ぼくを好きになってくれてありがとう。ぼくの愛を信じて受け取ってくれてるのもうれしいね」
    「いえ、それは…自分も、です。あの時、どういう気持ちであれ自分を信じてくださってありがとうございました」
    「…ふふ、これからももっときみのことを知りたいし一緒にいたいね」

     …俺の右手を握る力が少し強くなる。俺も同じ気持ちだ。

    「それで、その…もうすぐきみの誕生日でしょ?当日はぼくもお仕事があるし、一日のどこか少しでいいから時間を取ってもらえるとうれしいね。直接茨をお祝いしたいね」
    「わかりました、急な連絡になってしまうかもしれませんが…」
    「それでもいいね!絶対連絡してね、必ずきみに会いに行くから」
    「っ、はい…絶対、です」
    「あとね、誕生日の近くで夜空いてたらぼくのとこの系列のホテルでゆっくり過ごしたいね。そこでまた、きみを改めて祝わせてほしい。それで……きみを全部、もらいたいね」
    「!」
    「どう…かな?」


     それって。もしかしなくても。でもそんなの、もうとっくに。


    「いいですよ。最初から、自分はあなたにすべて差し上げています」
    「! …きみは本当に」
    「『俺』は、日和殿下が好きなのであなたに差し出せるものはすべて渡しますし、あなたからもらえるものはすべてほしい。『俺』は貪欲なので」
    「うん、ぼくもきみに全部あげるね。ひとつ残らず」



    「…正直、そこまで待たなくてもいいですけどね。自分は」
    「え、い、いいの…?いや、でも」
    「キスのその先、しないのかなって思ってましたし」
    「う……や、したいね。したいけど…きみが大切だから…」
    「その『俺』がいいって言ってるんですけど」
    「…じゃあ、その前にキスしていい?」
    「? いつもしてますよね、どうぞ」
    「…覚悟してね」





     舌も口も頭も、こんなにぐちゃぐちゃになるキスなんて聞いてない!!!
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    りせ.

    MEMOこの前のひばのおひいさん側。
    続きだけど茨さんがさらっと独白した前半部分のお話です。
    おひいさんは茨さんを知れば知るほど好きになると思う。
    この後出先でジュンさんにまたぷにっちまいますよ~と軽口を叩かれながらも食べるおみやいっぱい買ってるおひいさんがいる。


    最後に茨さんが一口だけ残していたのは、おひいさんが「タルトを食べる間だけでいいから」と言ったから。話題はないけど一緒にいたい茨さん。
    「……あなたのことが、好きなんです」


      Edenでの仕事の後、凪砂くんとジュンくんが別の現場に向かう為に先に帰っちゃって茨と二人きりになった。他愛のないやりとりをしながら星奏館に帰っていたら茨に告白された。
     好きなものの話をしていて、ぼくは好きなものに囲まれて過ごしたいけど茨はどうなのか、そこから発展していってだったと思う。好きなものというと茨はぼくの好きなものに含まれていないからと言っていたが、茨も大事なユニットメンバーであり家族だと思っている。だから茨もぼくのそばにいてほしい人だと伝えた。

     出会った頃からしばらくは何を考えているかわからない、ぼくの大事な凪砂くんやジュンくんに何かしたら許さないと警戒していたものの茨の本心、目的を聞いて茨に協力しよう、茨が『アイドル』になっていく姿を1番近くで見ていたいと思った。…それが、茨に対する気持ちが変わった瞬間だった。
    3479

    りせ.

    MEMO付き合えたのに片想いのままの茨さんのひば

    おひいさんの甘いの選ばないやつはダースのオフィスコミュでダークチョコを選ぶところから。めっちゃわかる。
      ――—―日和殿下と付き合って数ヶ月。
     告白したのは自分から。殿下は自分のことを嫌いと言っていた頃よりかは友好的に接してくれるようになったが、ただそれだけ。なのに自分が好きになって、気持ちを無くそうと奮闘したものの逆に抑えきれなくなり、殿下に終わらせてもらおうとしたらなぜか付き合ってくれた。自分のこれまでの行いを思い返しても、殿下の自分に対する扱いを思い返しても、青天の霹靂としか思えない。うれしい、というよりかはどうして、何故、という気持ちが大きかった。
     今はあの頃より殿下の恋人になったことが現実味を帯びてきたが、まだ殿下から好きだと言われたことがない。何を思って自分と付き合ってくれているのか。でも付き合った途端、自分にもあの甘い笑みを向けてくれたり、今までよりもわかりやすい気遣いをしてくれて好意を持ってくれているのはわかる。突然だったので最初はかなり驚いたが。戸惑いながらもせっかく得た好機を無駄にしたくはないので、うまくいかないなりに殿下との時間を大切にしている。
    2823