ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑫話「喪服と戴冠」 王妃は公務と秘薬の研究に勤しみつつも、決して忘れないことがあった。
それは自らの「美」を磨く努力だった。
「私はね、世界一美しくなければいけないの。いつどこで誰に見られても、この美で魂すら掴めるようなカリスマにならなければ。我が君亡き今、民を従え諸国と渡り合うためには、私自身にカリスマ性が必要。秘薬で絡め取るのは補助に過ぎないのよ。勝負は第一印象で決まるの。だから絶対手を抜いては駄目」
そして彼女は、毎朝毎晩、あの魔法の鏡に尋ねるのだ。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」
と。すると鏡は必ず応える。
「王妃様、貴女さまが世界で一番美しい」
ディアヴァルには、王妃はそうやって鏡に尋ね、答えを得ることで自分を鼓舞しているように見えた。なんて強い女性なのだろう。夫を失い、突然国政を任されて辛い日々なのに、それを他人に見せることもなく一人で運命に立ち向かっている。その姿を見ているだけで、心の底から深い尊敬の念と狂おしいほどの愛おしさが湧き上がってくるのだった。
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