「また負けた〜っ! もう一回だ、次こそオレが勝つ」
「今のが最後って言ってただろ。ヒュースの都合もあるんだ、いいから行くぞ」
「あと少しで掴めそうなんだよ。なあヒュース、もう一戦だけ頼む! このとおり!」
一日も終わりに向かい出した夕暮れ時。勝負を終えて個人ランク戦の部屋を出たヒュースは、ついさっきまで対戦していた小荒井に泣きつかれて身動きがとれなくなっていた。人の姿もまばらになった室内に悲痛な声が響き渡る。威勢の良さを象徴する金色のとんがりをぺこりと垂らし、彼の相棒である奥寺の静止もきかずに服をぐいぐいと引っ張ってくるからどうしたものかと困ってしまう。
電光の時計をチラと見やり、読めるようになった数字の羅列をなぞって現在の時刻を確認する。十八時五分。そろそろあいつが来てもいい頃なのに、ロビーの出入口は誰の姿も現さなかった。用事が長引いているのだろうか。手持ち無沙汰で待ち続けるのも退屈で、なら小荒井の提案に乗って少しでも時間を有効に活用した方がお互いのためになるはずだ。
2163