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    krh_GoriGori

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    距離感のおかしいとり&ヒュとそれに巻き込まれる東隊の16歳たち(とりヒュ)

    冬インテの無配でした(2023.01.08)

    「また負けた〜っ! もう一回だ、次こそオレが勝つ」
    「今のが最後って言ってただろ。ヒュースの都合もあるんだ、いいから行くぞ」
    「あと少しで掴めそうなんだよ。なあヒュース、もう一戦だけ頼む! このとおり!」
     一日も終わりに向かい出した夕暮れ時。勝負を終えて個人ランク戦の部屋を出たヒュースは、ついさっきまで対戦していた小荒井に泣きつかれて身動きがとれなくなっていた。人の姿もまばらになった室内に悲痛な声が響き渡る。威勢の良さを象徴する金色のとんがりをぺこりと垂らし、彼の相棒である奥寺の静止もきかずに服をぐいぐいと引っ張ってくるからどうしたものかと困ってしまう。
     電光の時計をチラと見やり、読めるようになった数字の羅列をなぞって現在の時刻を確認する。十八時五分。そろそろあいつが来てもいい頃なのに、ロビーの出入口は誰の姿も現さなかった。用事が長引いているのだろうか。手持ち無沙汰で待ち続けるのも退屈で、なら小荒井の提案に乗って少しでも時間を有効に活用した方がお互いのためになるはずだ。
    「迎えが来るまでなら構わない」
    「マジ!? サンキュー! じゃあ早く行こうぜ!」
    「あっおい! ……ったく。ヒュース、小荒井がわりぃ」
     立ったままの奥寺をよそに小荒井がブースへと駆け出した。そんな二人を眺めながら、ヒュースは慣れた手つきでパネルを操作し必要事項を入力していく。トントンと軽快なリズムで画面に触れ、最後のボタンを押そうとしたところで新たな足音の気配を察して出入り口へと顔を向けた。

    「……時間切れだ。すまないが、続きはまたの機会にしてくれ」
     奥に人影を見つけたヒュースは最終確認まできていた画面を消去し、ブースへ入ろうと遠ざかる小荒井にそう伝える。えぇ、と悲しみの声を出して不貞腐れる様子は、さながらおもちゃを取り上げられた子供のようだった。悪いことをしてしまった。次に本部へ来たときは自分から個人ランク戦に誘ってみるのもいいかもしれない。
    「ヒュースごめん、遅くなった」
     息を切らしながら小走りでこちらへと駆け寄る烏丸は、あとは帰るだけと言わんばかりにトリオン体の置換を解いていた。いつもの青い服じゃなく、背の高い烏丸のシルエットすらすっぽり隠すダウンのジャケットとマフラーを身に纏った烏丸は暖かそうで。とぼとぼ戻ってきた小荒井へもう一度謝ったのち、ヒュースも隊服を解いてツノを消したパーカーのトリオン体にチェンジする。戦闘体よりも生身の感覚に近くなるよう設定してあるためだろうか、想像以上の低い温度に思わず身体がぶると震えた。
    「ランク戦、よかったのか?」
    「元々十八時までの予定だった。問題ない」
     ならいいんだけど、と安心したらしい烏丸は側にいた奥寺に声をかけていた。二人はガッコウ、という組織で同じ所属だと聞いた記憶がある。『ガッコウ』がどのような場所なのかヒュースは知らなかったが、その話をする烏丸は和やかに微笑んでいたのできっと楽しい所なんだと思う。

    「っくしゅん」
     急な寒さにあてられて不意にくしゃみが出てしまった。早く玉狛に帰って温かいご飯で腹を満たしたい。そんな願いを込めつつ、お喋りを続ける烏丸へと目で訴えれば、たとえ星を跨っても逃げきれない金色の瞳がこっちを向いた。凛々しく切れ長な目元がとろりと緩み、蜂蜜みたいで美味しそうだ。お腹が空いた、行くぞトリマル。声にしようと口を動かすヒュースだったが、甘い顔を浮かべたまま近づいてくる烏丸に見つめられて何もできなくなってしまう。
    「……なんの真似だ」
     ふとヒュースの身体が柔らかな温もりに包まれた。目の前の男はいつの間にかすっきりとした装いに変わっており、彼が来ていたジャケットを掛けられたと気付くのに時間はかからなかった。
    「まだ夜は冷える」
     烏丸の残した熱をもらって、冷えた身体が溶かされていく。ジャケットだけでも十分なのに、マフラーまでもを巻かれたヒュースはこの空間で一番暖かい人物になった。
    「これだと烏丸が寒い」
    「俺は下に着込んでるから平気だ。さ、帰ろう」
     トリオン体な自分よりも、生身の烏丸の方が何倍も寒いはずなのに。そう言い返そうとしたけれど、近くにいる小荒井と奥寺のことを思い出して出そうな言葉を飲み込んだ。
     帰ろうと言った男は手を差し出して、それが取られるのを待っている。せっかく烏丸がしてくれたことだ、彼の厚意を受け取るべきなのだろう。肩掛けだったジャケットに腕を通し、袖から僅かに出た指で烏丸の手に触れれば少しだけひんやりとした大人の指に絡め取られた。その格好をつけた冷たさに、今度はオレが温めてやろうと交わった指を強く握った。
    「じゃあ。ヒュースの相手してくれてありがとな」
     挨拶をする烏丸に合わせて、またな、とヒュースも別れを告げる。繋がれた手を感じながら、なぜか帰り道を楽しみにしている自分がいてくすりと笑ってしまった。

    「何だいまの」
    「オレ、アイツと同じクラスだし仲良いと思ってるけど、あんな姿見たことないぜ」
    「モテる男はやることがすげーな」
     一連のやり取りを見ていた小荒井と奥寺が呆れ顔で呟いた。胃もたれしそうな甘い空気を吸い込むも、二人同時に鳴った腹の音に従って足早にロビーを出ていった。
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