みちゃダメ「ギャー! やめてー!」
レッスンルームが阿鼻叫喚の場と化す。逃げ回る男子たちを追いかけているのは、可憐な悪ドルからシゴキの女王へと転じたケロリであった。その肩には何本ものメジャーが掛かっている。
「待ちなさい。 正しい採寸をしてこそ最高の衣装、そして最高のパフォーマンスが実現するの!」
音楽祭においてアブノーマルクラス男子は二つの衣装を着ることになっている。一着目はそれぞれの配役の衣装、二着目は最後のヘルダンスパートで着る衣裳である。特に二着目の赤いシャツに黒のスーツはラインの美しさが命といっても過言ではない。また、普通のスーツと違い、腕を伸ばした時や足をあげた時のことも考慮して作らねばらならない。そのための採寸なのであるが、さすがのアブノーマルクラス男子も、クロケルに下着の状態で採寸されるのはたまったものではない。
ということで、両者はそれなりに広いレッスンルームで追いかけっこを続けていた。とそこに、別室で練習していた入間とプルソン、そして呼びに行っていたアスモデウスが戻ってくる。
「わ、わ。みんなどうしたの?」
「ふえええ、入間くん助けてよ」
リードが入間にすがりつく。他の面々も入間やプルソン、アスモデウスを盾にするようにして後ろへ隠れた。心配する入間とは対照的に「練習しないで女子とたわむれてるとか、マジでムカつく」とプルソンは大変お怒りの様子である。混乱する場をアスモデウスが落ち着かせ双方から事情を聞く。
「ふむ、ならば私が採寸しよう。クチュールでの採寸や母の手伝いで多少の知識はある」
「分かりました。アスモデウスさんならばお任せしても大丈夫でしょう」
クロケルは採寸する箇所とポーズ、使うメジャーの種類をアスモデウスに細かく指示する。二人が話しはじめると、クラスの男子たちはへなへなと床に座り込んだ。それを見てプルソンがまた不機嫌になった。
「では、入間様。お手数ですが記録をお願いしてもよろしいでしょうか」
「うん。任せて!」
クロケル曰く、入間のサイズはオペラさんから聞いるとのことで、入間はアスモデウスのアシスタント役を務めることになった。てきぱきと採寸を進めるアスモデウスと入間。入間はかつてのバイトを思い出していた。ただ当時とは違い何倍も楽しいのは間違いなかった。作業はもめていたのが嘘のように終わりを迎え、最後にアスモデウスの採寸を残すのみとなった。
「じゃあ僕がやるね」
それまでアスモデウスの手際を見ていた入間は自ら役を買って出た。メジャーを受けとり入間がうきうきしていると、アスモデウスがジャージを脱ぎ始めた。青のジャージを脱ぎ捨て、中に着ていた白いTシャツに手を掛ける。入間が動揺しているうちにアスモデウスの上半身があらわになる。収穫祭を経て鍛えられた腕や胸筋、腹筋にアブノーマルクラス男子たちの間から「おおっ」という歓声があがる。
「見世物ではないぞ」
「そ、そうだよ」
目を吊り上げるアスモデウスに賛同するかたちで、入間がみなとアスモデウスの間に割って入った。両手を大きく広げて視界を遮る。なんとなくだが、アスモデウスの体をみなに見られるのはイヤな気がしたのだ。それを見たアスモデウスは、入間様と感嘆の声を漏らす。と同時に二人とクラスメートの間に炎の壁が出現した。
「これで見えません」
「あ、ありがとう」
いつものように胸に手を当て、アスモデウスがニッコリと笑う。入間はそれじゃあと採寸を始める。まずは頭部、首回り、そして胸部。ふくらみのある胸元に少しきつめにメジャーを巻き付ける。すると、白い肌が圧迫されるせいかさらに白くなった。メジャーをはなせば、肌と同じように色の薄い乳輪と乳頭がわずかに色づき立ち上がっているのが入間の目に入った。
(うう、採寸しているだけ、採寸しているだけ……)
そうは言いつつも、入間の心臓はずっとドキドキしっぱなしだ。これからウエストやヒップの採寸も待っている。入間は覚悟を決めると鉛筆を置き再びメジャーを手に取った。