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    うし牧場

    ぎぅたん

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    うし牧場

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    フォル研のフィガファウ捏造
    ひどい文章ですがイベ前の自己救済措置です。
    ちょっとえっちです。

    「終わった……………」

     最後のenterキーを押したファウストは、心底疲弊しきって掠れた声で呟いた。軽く伸びをしただけで背骨がパキパキと嫌な音を立てる。

    「あれ、随分早いね、お疲れ様」

     向かいのデスクで未だにスクリーンと向き合っているフィガロから労いの声がかけられる。彼の声もまた、いつもより若干トーンが低いように感じた。
     
     深夜二時、陽の光はとうに隠れた時間帯だった。しかし、人類の科学が発達しきったフォルモーントラボラトリーは今も人工的な光で満ちている。とはいえ、日中よりも光量が抑えられた薄暗い部屋は、普段大勢の研究員やアシストロイドでひしめているのが嘘のように静まり返っていた。

    「とりあえず修正してバックアップだけは取った…。後は他の研究員でも出来る」

     目の前に映し出されていた立体モニターの電源を落とすと、どっと肩が重くなったように感じる。背もたれに体重を預け、軽く目を閉じため息をつく。気が抜けたのか、ブルーライトを浴びすぎた瞳や椅子に座り続けた腰までもがじんわり痛み出してきた。

    「じゃあシャワーだけ浴びてきちゃえば?どうせここに泊まるでしょ」

     遅れてやってきた疲労に動けなくなっているファウストは、投げかけられた言葉に対する返答にすら少しの時間を要した。
    シャワー………

    あまりにも脳みそが働かなくてもはや笑えてくる。

    「………………お前は?」

    「俺?」

     ファウストはしばらく眉間を揉みながら、時間をかけて絞り出すように返答した。カタカタとキーボードを打つ音がようやく止み、フィガロがスクリーンから顔を上げる。

    「うーん…まぁ、修羅場は抜けたよ。帰りたいけどこの時間だし…。もう眠くなるまでここで作業してようかなって」

     あー、肩痛い。
     そう言いながら立ち上がったフィガロは、首元を押さえながらファウストのデスクの横を通り過ぎていった。椅子のキャスターを回しながら、なんの気は無しにその動きを視線で追う。フィガロは歩いて行った先で突然しゃがみ込んだかと思えば、部屋に備え付けられた冷蔵庫を開けて中を物色しているようだ。

     薄暗い部屋の中で冷蔵庫の光を浴びたフィガロの横顔がぼんやりと浮かび上がっていた。
     いつもならゆるくセットされた曇天色の髪の毛はあちこちに跳ねて乱れている。薄灰色の瞳の下にはくっきりとした隈さえ出来ていて、その整った造形にほんの少しの翳りを加えていた。
     人嫌いの習性なのか、自分の隙を見せるのを嫌う彼は身だしなみや振る舞いにいつも気を遣っている。その成熟した処世術は成功しているように見える。しかし、誰に対しても物腰穏やかに優しく接するフィガロを見るたび、ファウストはなんだかいつも無性に腹が立つのだ。それが彼なりのバリアなのだと知っている。知ってはいるが、誰にでも無限に振る舞われるあの張り付いたような笑みが、どうしても好きになれなかった。


    「水と栄養ゼリーしかない………これが天下のフォルモーントラボラトリーの冷蔵庫か…」

     そんな潔癖な男が今や、普段とは別人のようなくたびれた風体でぼやきながら近づいてくる。持っていた二本のペットボトルのうち片方をファウストの机の上に置くと、そのまま奥のソファにどさりと仰向けに倒れ込んだ。その体勢のままペットボトルのキャップをひねり、口をつける。一口目で喉の渇きを思い出したのか、そのまま半分ほど飲み干す。ぼんやりとその喉の上下を見つめていると、首だけをこちらに回したフィガロがゆっくりとファウストに視線を寄越した。
     疲れを隠そうともせず、覇気のない困ったような笑みを浮かべる彼のそのくたびれた表情に、なんとも言えない気持ちにさせられる。この男がこんな風に疲れて気を抜いている顔にこそ、ファウストはちょっと驚くほど妙な色気を覚えるのだ。
     
     皮の黒いソファに彼の白衣がいくつものシワを重ねて広がっているのを見て、ファウストは重たい腰を持ち上げる。彼が寄越した机のボトルをそのままにして、散らばった資料を横目にソファまで歩いて行く。寝転がった彼の頭のそばで止まると、無造作に広がったその髪の毛に軽く触れてみる。

    「………シャワー行くんじゃなかったの?」

     軽くかがみ込んだまま、ふわふわと遊ぶ髪の毛を何度か撫でていると、指と指の隙間からこちらを見上げるフィガロと視線が合わさった。日中からずっと同じ部屋で作業していたけれど、今日初めてその縹色を見たように思う。

    「気が変わった。…………ここでしたい」

     フィガロが寝転んだソファに片膝を乗せて乗り上げたファウストは、変に落ち着いた声で呟いた。それには流石のフィガロも驚いたような顔をして、怪訝な表情に切り替わる。


    「正気?ここラボのど真ん中だよ」

    「鍵は閉まってるだろ」

    「いや、そうじゃなくて………ていうか、ファウストかなり疲れてるでしょ。そんな事言い出すなんてらしくないよ」

    「うるさいな。僕がやるって言ったらやる」


     とんでも無いことを言っている自覚はファウストにもあったが、間抜けな顔をしている目の前の男の顔を見ていると、まったく恥ずかしい気分にならなかった。
     フィガロに半分馬乗りになったまま、自分の頭の後ろに手を回し、ゴーグルを取り外すと適当にその辺りに放り投げる。そのまま彼の頬を手で包んで何度か口付けると、指先や口元に生え始めた髭が刺さって軽い刺激があった。
     
    「っ……ちょっと、何笑ってるのさ、」


     されるがままになっているフィガロが、一瞬眉を顰めた。こちらの首に片手を回し、もう片方で腕を引いたかと思うとあっという間に体が反転して、ソファに転がされる。さっきまでとは逆の体勢でこちらを見下ろしてくる男の顔には、先程のようなくたびれた色はもう見えなかった。

    うなじに当てられたフィガロの指がそのまま横に動き、耳の裏のあたりをするすると撫でる。寝不足な体はそのわずかな刺激すらも拾って、ビクビクと素直に反応してしまった。

     普段ならここで悪態の一つでもつきたい所だが、自分から誘ってしまった手前、何もできずにファウストはじっとその刺激に耐える。
    右腕を捕まえていたもう片方の手がシャツの隙間から入り込んできたかと思うと、肋骨のあたりまで上がってくる。剥き出しの首筋に触れる彼の癖毛がくすぐったくて顔を背けると、それを捕まえるかのように口付けられた。
     軽く首を傾けて、唇を割って潜り込んできた舌に必死に縋りつきながら、異様に熱を感じる場所から意識を逸らそうと、ぎゅっと目を瞑る。

    カタン。

     二人の呼吸音だけが聞こえる静かな部屋に、無機質な物音が響いた。驚いて顔をそちらに向ければ、床から30センチほどのあたりで、四角いディスプレイがこちらを向いている。後ろには左右にゆらゆらと揺れる尻尾の光が弧を描いていた。


    「っ!Mu-mu!!…スリープモードにするのを忘れてた!」

    ガバッと上半身を起こしたファウストが声を上げる。

    「……ちょっと。自分から誘っといてそれは無いんじゃ無い?」

     慌てて床に降りようとしたファウストの腰をフィガロが掴み、そのままもう一度ソファに押し倒す。親に約束をすっぽかされた子供のような、甘えて拗ねる、そんな声色だった。

    「っ!おい!一旦離れろ!…んっ、……記録されてるんだよこれ、…!」

    ファウストは身を捩って脱出を試みたが、抗議の声を上げる唇を塞がれ、思うように動けない。

    「ん…別に後でデータ消せば良くない?」

    「良くない…!見られたままじゃ恥ずかしいだろ…!」
     
    「アニマロイドに見られたってなんの問題も無いでしょ。その辺のデスクや物と同じさ」


     普段からアシストロイドを肌身離さず連れているフィガロの口からは、現実的な発言しか出てこなかった。
    よくもまあいけしゃあしゃあと…と怒り半分関心半分の微妙な気持ちになっていたが、執拗に肋骨の線をなぞっていた彼の指先が胸元の飾りを掠めていき、喉の奥が引き攣る。ほんの少し触れただけなのに電流が流れたような衝撃がファウストを襲う。
    その瞬間にもソファの横でちょこんと利口に主人を見つめる電子の瞳に、ファウストはなんだか泣きたい気分になってきた。


    「ひっ…!……おい!!やめろ!んっ………ほんとに………」


    「もー、うるさいな。いい加減許してよ」

     涙目になりながら必死に抵抗するファウストの口を半ば強引に塞ぎながら、フィガロは眉を顰める。
    怒っているというより、困っているような表情のまま、右手で撫で続けているファウストの耳に唇を寄せる。

    「…いい加減、俺に集中してよ。ファウスト」


     甘えたような声から一転して、熱を帯びた、真剣な男の声だった。こちらを見下ろすフィガロの目には、確かな欲が見える。


     お互い疲れ切っていて、もう一歩も動きたくないくらいなのに。
    それなのに互いを求めるのをやめられない。そんな状況にしたのは紛れもない自分だった事に気づいたファウストは、なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまってふっと全身の力を抜いた。背中を預けるソファが愛し合うには狭すぎて、少し硬い事に、今更気づく。


    「…バレたら俺たちクビだよね、これ」

     突然大人しくなったファウストが怖がっているとでも思ったのか、フィガロが茶化すような声でそんなことを言う。

    「残業が趣味のクソみたいな研究所だ。その時はこっちから辞めてやる」

    「えー…俺たち他のとこでやってけるかな?」

    「お前はどこでだってうまくやっていけるだろ…………
    その時はアシストロイドもいない森で暮らしたいな」

     ありえない話をしながら、ようやくファウストは自分からフィガロの首にそっと触れた。
    人口の命を創り出す事に溺れているこの男にそんな提案をするのが、何を意味するのかがわからないほど冷たい関係ではない。
    不意をつかれたような顔をしたフィガロは、すぐに満更でもないような顔をして笑った。


    「森でロイドなしか…魔法使いみたいだね」

    「魔法使い?」

     聞き慣れない言葉にファウスト首を傾げる。


    「大昔にいたんだってさ。………また明日、聞かせてあげるね」


     いつもの語り口調で説明するのかと思ったが、億劫になったフィガロが苦笑しながら触れてくる。



     深夜三時。部屋には二人と作り物が一匹。

     日常の一部になった機械音が止んだ部屋には、不規則な息遣いだけが響いていた。



    【終】
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    うし牧場

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    ちょっとえっちです。
    「終わった……………」

     最後のenterキーを押したファウストは、心底疲弊しきって掠れた声で呟いた。軽く伸びをしただけで背骨がパキパキと嫌な音を立てる。

    「あれ、随分早いね、お疲れ様」

     向かいのデスクで未だにスクリーンと向き合っているフィガロから労いの声がかけられる。彼の声もまた、いつもより若干トーンが低いように感じた。
     
     深夜二時、陽の光はとうに隠れた時間帯だった。しかし、人類の科学が発達しきったフォルモーントラボラトリーは今も人工的な光で満ちている。とはいえ、日中よりも光量が抑えられた薄暗い部屋は、普段大勢の研究員やアシストロイドでひしめているのが嘘のように静まり返っていた。

    「とりあえず修正してバックアップだけは取った…。後は他の研究員でも出来る」

     目の前に映し出されていた立体モニターの電源を落とすと、どっと肩が重くなったように感じる。背もたれに体重を預け、軽く目を閉じため息をつく。気が抜けたのか、ブルーライトを浴びすぎた瞳や椅子に座り続けた腰までもがじんわり痛み出してきた。

    「じゃあシャワーだけ浴びてきちゃえば?どうせここに泊まるでしょ」

     遅れてやって 4309

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