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    ryusa_nax2

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    幼馴染のrnis途中まで。今週中に仕上げて支部アップ予定。
    ⚽️知識についてはスーパー俄なので目を瞑ってください。

    ジャイアニズム・フレンドジャイアニズム・フレンド

    抜けるような青空を、春一番が吹きすさぶ。校舎からグラウンドへ続く道に並んでいる満開の桜は、春の強風に弄ばれるように散り散りに飛んでいき、土のグラウンドを疎らにピンクに染めていた。舞い散る花弁が部室に入りこまないよう気を付けながら、多田は男臭い部室のドアを閉めた。
    正午を迎えた今は午前の練習を一通り終え、ちょうど一時間の昼休憩だ。体は温まり、しっとりと汗ばんではいるものの、疲労を感じるほどではない。春休みの2、3年だけの部活は、慣れ親しんだメンバーと気安い、くだけた雰囲気が流れ、いまいち締まりが無かった。ただ今は大会前の追い込む時期ではないので、こういう休息が大事なんだよな、と多田は訳知り顔で一人頷く。今日は、監督が法事で休みで、部内のエースがいないのも理由の一つかもしれない。多田がタオルを投げ込んだロッカーの隣は、現在ぽっかりと空いていた。

    「今日、潔なんで休みなんだっけ?」

    「午前だけで午後はくるらしいよ」

    「あ、そーなの」

    既に弁当を広げているチームメイトに話しかけながら、ジャージを羽織る。午前休みとは珍しいこともあるものだ。多田が知る誰よりもサッカーバカが、怪我でもないのに半休とは。家の用事だろうか。

    「俺、コンビニ行ってくるわ」

    「おー」

    多田が部室から出ると、校舎のほうから誰かがグラウンドに連れ立って歩いて来ていた。
    グラウンドの校舎際は土手になっており、コンクリートの階段で校舎から続く道とつながっている。その階段の一番上の段で、多田に気付いた片方が手を振った。

    「潔?」

    制服で現れた潔に多田は、首を傾げた。補講は先週で終わっていたし、部活に参加するなら制服である必要はない。しかも、後ろには誰か見覚えのない相手を連れている。潔より頭ひとつ分高い、随分身長のある男だ。潔と同じ一難の制服をまとっているが、その胸元には赤いロゼットが咲いていた。 
    それを見て多田は漸く思い出した。そうだ、今日は入学式だった。

    「おっす、多田ちゃん。お疲れ」

    「おう。潔なんで制服なんだ?入学式には、在校生は参加しないだろ」

    「ああ、コイツの保護者代理。親御さんが、今日仕事どうしても抜けられないらしくて、写真頼まれててさ」

    潔の後ろに張り付くように立っている男が、すうっと目を眇めて多田を見る。新入生――年下だというのに見下されているせいか、妙な威圧感のある男で、多田は情けなくたじろいだ。青と緑を一番美しくなる配合で混ぜたような瞳は、芸術品のように美しい色を称えているのに、その瞳孔は鋭く、まるで獲物を射抜く肉食動物のそれを思わせる。恐ろしいほど整った顔立ち――どこかで見たことがあるような、既視感がこみ上げる――が、より鋭利な雰囲気を尖らせてみせた。
    潔はそんな多田の緊張感に微塵も気がつかず、男の袖を引っ張る。

    「凛、俺のチームメイトで多田ちゃん。お前の先輩なんだからな。多田ちゃん、こっちは俺の幼馴染で、今年から入学してきた凛。ほら、自己紹介」

    「……」

    多田を一瞥してから、すぐに視線を外した男――凛は、数秒潔の顔を見返したあと、ため息とともに無言で踵を返そうとした。それを潔が慌てて腕掴んで引き止める。

    「ちょ、凛!お前がグラウンドみたいっていうから連れてきたのに!っていうか、ちゃんと挨拶はしろ!」

    「うるせぇ。俺はサッカーをしに来ただけだ。馴れ合うために来たんじゃねぇ」

    多田は呆気にとられていた。排他的な低い声だった。高校生なら、1歳差は肉体的にも精神的にもかなり大きな差があるはずなのに、それを超越した隔たりが凛にはあった。先輩、しかも運動部であるならば何より礼儀が大事だと叩き込まれているのが普通だ。だが、凛は全身でそれを拒否する。それが当然であるように。
    何だ、コイツ。
    多田は、見たことがない生き物を目にした時のような困惑に襲われていた。
    だが、と思い直す。眼の前の相手は、一つ下の新入生。しかもグラウンドを見に来たとなればサッカー部の後輩になる相手だろう。緊張感を隠して、ここは自分が大人になるか、と多田はへらりと笑ってみせた。

    「あ~、無理にはいいよ。凛くん、だっけ…?これからよろしくな」

    優しい先輩として正しい対応だっただろう。しかし、凛は多田を一瞬たりとも顧みることなく、潔に腕を掴ませたまま校舎の方へ歩き出した。

    「潔、行くぞ」

    「ちょ、凛!あーもう、多田ちゃん!ごめん、あとでちゃんとアイツにも謝らせるから!あと、悪い!午後の練習も休むって伝えといて!」

    ちょっと、凛!と潔が叫ぶが意にも介さず、凛はスタスタと歩き去る。よく見ると潔が掴んでいたはずの腕は、いつの間にか凛に掴み返されており、歩幅の差もあって潔が引き摺られているようにすら見えた。

    「何なんだ…」

    多田は、コンビニに行くという目的も忘れて、桜吹雪の向こう側へ消えていった二人の背中を呆然と見送った。そして、これから先も、多田が凛から謝罪の言葉を聞くことはなかった。


    4月の新入生が入学してきたあとの、空気の色が変わり、浮き足立つような雰囲気は、今年は糸師凛が入学してことから更に顕著に感じられた。多田も後から潔に名字を聞いて驚いたのだが――、初対面時、既視感を覚えたのも当然のこと、凛はあの新世代世界11傑の一人である糸師冴の弟だった。あの下睫毛の長さ、たしかに。と言ったらもっと似てるところあるだろ、と潔はケラケラ笑っていた。ただ、二人の顔面しか比べようがない多田は、潔の言うもっと似ているところは微塵も分からなかった。
    多田が整い過ぎて逆に恐ろしいと思う凛の容貌は、女子にとっては類まれなるイケメンとして持て囃されるものだった。歩いているだけでまるで廊下がランウェイのようで、登校初日は、モーセの奇跡の如く人混みが割れたらしいと、誰かが実しやかに囁いていた。
    ただし、そのふわふわとしながらも、かしましい生徒たちの雰囲気を地に足をつけさせるどころか、地面に叩きつけ、最早マントルへとねじ込んだのが入学早々発揮された凛の愛想の無さだった。いや、愛想がないというのは生温い。凛は、誰に対しても無関心、もしくは威圧的だった。最初は、その端正な顔立ちや16歳とは思えない飛び抜けたスタイルに、わき立っていた女子たちも、この男、何かがおかしい、と気がつくのに然程時間はかからなかった。声をかけても全て黙殺され、体に触れようものなら弾かれ、「触んな、消えろ、邪魔だ」の舌鋒鋭い暴言が飛び出す。入学一週間にして、既に二桁の女子を文字通り泣かせたと聞いたときには、さすがの多田も絶句した。 
    それでも、女子というのは逞しいもので、今は糸師凛を見守る会として接触はしないが、隠し撮り写真や行動の報告を行うファンクラブのようなものが水面下にはあるのだという。あんな可愛いらしい顔をして、女子とは強かな生き物だと多田は思った。
    そんな野生の獣のような凛に唯一、側にいることを許されている人物が学内にたった一人いる。そう、糸師凛の幼馴染である、潔世一だ。
    凛が入学してから、潔は多田を含めたクラス内のサッカー部のメンバーと食べていた昼食を凛ととるようになった。どうやら、凛は潔家に下宿しているらしく、お弁当も潔が2人分のおかず、凛がご飯と分けて持ってきているらしい。その分、母親の洗い物が楽だから、ということらしいのだが、潔は昼時間になると凛と連れ立って何処かへ行ってしまう。
    一番最初は一緒にどうか、と勇気ある友人の一人が声をかけたのだが、凛にその声が届くことはなく、潔の謝罪のみを残して二人は去っていった。多田は、勇敢なクラスメイトの肩を無言で強く叩いた。
    あの糸師凛が教室まで迎えに来るとあって、当初は廊下中に野次馬がひしめき芋で芋を洗うような様相だったが、とうの凛本人は煩わしそうに顔を顰めるだけで、潔も凛がいると賑やかだなぁと笑うだけだった。そして、その非日常的なお迎えの光景も続けば日常となり、今は、凛が間近で見られる機会とあって四限の最後にクラスメイトの女子がそわそわしだすぐらいになっていた。

    そう考えると、一番変化が大きいのは、サッカー部かもしれない。
    多田は膝に手をやり、前かがみのまま、荒い息を吐き出す。肺がきしきしと鳴り、必死に呼吸をするたび苛むように痛む。額から絶え間なく汗が流れ、煩わしく視界を塞ぐが、今は顔を拭う気力もない。これだけ、全力で走り続けても全く追いつけない――あの二人のプレーには。
    凛は、全体を見通す視野の広さ、一瞬で抜け出す速さ、ボールを巧みに操るテクニック、どれをとっても一流で一難高校の精鋭ディフェンダーが3枚張り付いても、いとも簡単に抜いてしまう。そして、例え反対側をウィング—多田が駆け抜けていようと絶対にパスを出さない。フリーの相手よりもディフェンスが張り付いている自分の方がシュートを決められると確信をもっており、その脚の一閃で証明してみせる。凛が入部してから、一難のワンフォーオール、オールフォーワンの精神は跡形もなく崩壊した。監督の言葉も、フィールド上の凛には一切届かない。
    しかし、糸師凛というモンスターの存在により、一難は今年に入ってから練習試合では負け無し、圧倒的な火力で、10-0というような大差で勝利する試合すらちらほらあった。凛は涼しげな顔でダブルハットトリックを決めて、ぬりぃなと小さく吐き捨てるように零す。圧倒的な破壊者としての個。既に、今までの一難のサッカーと次元が異なっていた。
    今日の練習試合も後半から出場し、既に凛は2点決めている。前半にも2発ゴールに入れている一難は、これで4点目だ。その前半2点を決めたのが――。

    「凛、さっきのめちゃくちゃ狭いとこ抜いたけど再現性なくね」

    「うるせぇ」

    長身の体躯をバシバシと遠慮なく叩いて凛に声をかけるのは、潔だった。前半、2点を決めた一難高校エースの片割れは、汗を拭いながら不敵に笑う。

    「次は、俺が決める」

    その強気な宣言に、凛ははっと鼻で笑ってみせた。2人で交わされた会話に敵も味方も思ったはずだ。お前らまだ点を取る気か、と。
    つい先日まで、多田とツートップだった潔は、凛の入部後から鮮やかにプレースタイルを変えてみせた。ワンフォーオール、オールフォーワンの精神の元、パスもポストプレーもこなしていた潔は、凛のプレースタイルに感化されたように、否、元々持っていた自身のスキルを解放した、というのが近いかもしれない。水を得た魚、というのか、二人だけで分かち合う価値観とサッカーの中で、潔は縦横無尽に泳いでいた。あの凛も潔にだけは、何も言わずパスを出し、アシストをした。それが当然の形であるように。
    多田は、知らなかった、潔がこんなプレーをするやつだなんて。最初、潔が凛を出し抜いて、ゴールを決めたときはたまたまだと思った。凛と相手のディフェンダーがこぼしたボールが弾かれた絶妙なスペースに、偶然、押し出されたように潔が飛び出したのだと。
    そんなことが何回か続き、はたと気がつく。これが、本来の潔のプレースタイルなのではないか。
    今日も、潔は凛と2人でフィールドの中心にいる。その隣には、もう多田の姿はない。
    練習試合が終了し、相手チームも一難高校も意気消沈したような面持ちでベンチへと戻る。一番青い顔をしているのは、監督だ。毎試合勝っているのに言葉が見つからないのだろう。
    監督が、あからさまに言葉に迷っていると、突然、フェンスの向こう側から見ていた女子達から、今日一の大きな悲鳴が上がった。試合は終わったし、ゴールを決めるたびにきゃあきゃあ言われていた凛も特に何もしていない。
    数度目を瞬かせたあと、あっ、と声を上げたのは潔だった。

    「そういえば今日は、冴が来るって言ってた」

    「は?聞いてねぇぞ」

    元々お通夜状態だったベンチに、とんでもない爆弾が更に投下された。
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