狂い咲く花は風を乱吹く10「…兄貴、兄さん、兄上」
その男は息を切らしながら腕の中にある物を守りながら、逃げた。
首都、嘗ては彼の故郷であった、あそこへ、風神の子とカルデアのマスターを求めて
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一方、ハスティナープルから遠く離れた廃墟で二つの勢力が戦っていた。
暴風が吹き荒れ、次々と現れる大木を切り刻む。
風の中に大量の毒の花粉紛れてが周りのものを溶かす。
「びいいいまああああああっ!!!」
剣を持ってヴリコーダラの心臓目掛けて突撃される。
「させねぇよ」
しかしそれは最も簡単に避けられる。
「お前だけは許せない。よくも父上を、母上を、ドゥフシャラーを…!」
まるで血を吐くような声で美しい少年は半神の子を睨みつけた。
ああ、やはり
「お前は「あの時の」ドゥリーヨダナだな」
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何もない空間
異常な程に真っ白。
その真っ白な空間の中心に黄金の壺が一つ、その中には灰色の肉塊が一つ。
それを目にした藤丸立香は酷い吐き気と眩暈を感じた。
「…こんなの、俺は知らない。見たことがない…クリシュナ、これはどういう事だ?」
「まぁ、君のその反応は、俺も。最初呼ばれた時にしたよ」
「『呼ばれた』と言うことはあなたもサーヴァント?」
「当たり前だろう?というか此処には嘗てのクル王家も何もいない。」
ハリボテの宮殿、ハリボテの国、ハリボテの民
「中身なんてない。ここは神々の作った簡易な箱庭だ」
「…本物はどうした」
「…さぁ?君自身に聞いたほうが良いんじゃないかな」
「?……!」
「…あ」
黄金の壺の側に隠れていた子供。藤色の永く美しい髪を靡かせて、子供は藤丸達のもとい、ビーマの方を無表情で見ていた。
「す、スヨーダナ…!」
ビーマは無意識に、そして思わず手を伸ばす。
伸ばされた手をなんの感情もなく見ると、スヨーダナはパタパタと逃げた。
「ま、待ってくれ!」
「ビーマ!!」
またビーマは走り出していき、クリシュナと藤丸のみ残った。
藤丸もビーマを追いかけようとするが、クリシュナがそれを止めた。
「風神の血を引く半神をただの人間が捕まえようなんて無駄だ。
しかし、またマスターを置き去りにするなんてねぇ、アルジュナだったらこんな事絶対にしないのになぁ」
クリシュナは思いため息を吐いた。そしてその後ににやりと笑みを浮かべたのであった。
「まぁ彼は「ドゥリーヨダナ」を止める道具だし?…その道具(ビースト)を壊すのは「君」の役目だもんね?カルデアのマスター?」