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    m_rotktn

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    ハッピースケベの星

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    後でもうちょい書き足すうっすら美女と野獣パロ

    #ビマヨダ

    盲目の父の言葉を頼りに険しい山道を辿ってみれば、果たしてそこには聞いた通りの古めかしい巨大な館が聳えていた。
    「……ほう、これが件の野獣とやらの」
    わずかに連れてきた供をさっさと追い返し、ドゥリーヨダナはひとり閉ざされた門扉の前に立った。
    「我が名はドゥリーヨダナ! 先般こちらで世話を受けた父、ドゥリタラーシュトラの名代として参上仕った。館の主人に目通り願うものである。疾く門を開けられよ」
    声を張った直後、がちりと錆びついた金属が擦れ合う音がした。首を捻りながら歩み寄り、分厚く重たげな門扉に手をかけると、ぐう、と内に向かって滑っていく。
    「……ええい、もっと分かりやすく開けんかい」
    鋭く舌打ちし、体当たりの勢いで押し上げた隙間からずかずかと踏み入れば、いくらもしないうちに背後でまたがちり、と今度は施錠の音がどこか無慈悲に響いた。
    脇目も振らずに前庭を突っ切り、館の正面玄関に立つ。褪せた金のノブに指先が触れる直前、ドゥリーヨダナの背丈よりずいぶん高い扉は一人でに開いた。招かれるまま、ドゥリーヨダナは一歩ずつ足を踏み出す。
    ただただ広い玄関ホールは薄暗く、死んだように静まり返っている。ここに至るまで、ひとの気配というものが欠けらたりとも感じられず、幾らか不審を煽られる。外観同様中も古めかしくはあるが、荒れ果てた様子ではないのが多少救いではあろうか。
    「えー……あー……主人は何処であろうかぁ? ……一応、来いと言われて来たんだがな」
    「呼んだか」
    ハァ、と耳元に生温い風が吹き、ドゥリーヨダナは身体を震わせた。腕にも背にもぞわりと鳥肌を立てながら一躍飛び退き低い姿勢を取る。
    「ッ?!」
    次の瞬間、示し合わせたようにホール中の灯りが一斉に点り、前触れもなく背後に現れた低い声の主を照らし出した。まだ年若いドゥリーヨダナの優に倍はあろう体躯の獣──鼻先の鋭さは狼のそれに近い。鋼の光沢を持つ濃紫の毛並みの身体に、いかにも仕立ての良い服を纏い二本足で立つ獣人、とでも呼ぶべきものの姿がそこにはあった。毛色をさらに薄めた色のまなこは、殺意も害意もなく、ただ淡々とドゥリーヨダナを見下ろすのみだが、対する方はあまりのことに声も出ず手足も震えるばかりである。庇うように身体の前へ構えた棍棒──ドゥリーヨダナの得意の武器だ──を見咎め、獣人は目を細めた。
    「う、がぁ……っ」
    無表情のまま振るわれた片腕に、ほとんどなす術なくドゥリーヨダナは弾き飛ばされる。それでも離さずにいた棍棒を、のしのしと寄って来た足に踏み転がされ、手首から肘に激痛が走った。
    「ぃ、あ………ッ」
    高い天井を仰ぐ格好で喉を絞って呻く眼前に、ぬっと獣の顎が迫る。
    「捻り潰されてぇのか、人間」
    滴るほどに赤い口腔と真珠色の牙。絶えず塗りたくられる痛みに冒された頭の中を"死"の文字が過ぎった。

    それが"彼"との出会いである。



    ──今ここで死ぬか、それともおめおめと逃げ帰り、百と一いるおまえの子から誰かひとり身代わりに寄越すか。
    そう脅かされ、辛々逃げ帰ることを選んだ父の判断は正しかったと、ドゥリーヨダナは今でも思っている。そもそもがひどく理不尽な要求だろう。思わず手を伸ばした花一輪の対価に、ひと一人の命を差し出せなどと。
    だからこの俺を身代わりにと長子であるドゥリーヨダナは自ら名乗りをあげたのだ。下の弟妹たちよりは武芸の心得もある。獣一匹、打ち倒してやれるだろうという思惑もたしかにあった。
    ……体格差、膂力の差は否めないが、上手いこと隙を突けばなんとか。あとは良い感じの罠でも仕掛けてみるとかどうだ。
    このところの暇に飽かせて、ドゥリーヨダナはそんなことばかり考えていた。
    父の名代──もとい身代わりとして、"野獣"なるものの館を訪ねた日から一週間。ドゥリーヨダナは何故だかすこぶる元気に過ごしていた。
    あの日。向けられた禍々しい口に無惨に食い殺される己の姿がまざまざと脳裏に浮かんだものの、それ以上あの獣は毛の一筋すらドゥリーヨダナに触れることはなかった。
    ──そんな棒切れで歯向かってくるかよ、ふつう。
    表情の読めない獣の顔でそう呟いたきりだ。
    助かったと胸を撫で下ろすより先に、ドゥリーヨダナはまだどくどく五月蝿い心臓を怒りに燃やした。幼い頃より研鑽を積んだ棍棒を侮辱したかこのケダモノは。
    いつか、絶対、殺す。無論どんな手を使ってでもだ。
    今ここで食い殺さなかったことを存分に後悔させてやると、長い尾を揺らす後ろ姿を睨みつけたものだ。
    「……腹減ったな」
    宛てがわれた部屋の窓辺に腰掛けたまま、ドゥリーヨダナは物憂い溜息をついた。命は取られずにいるものの、水も食事も自分で用意しろという完全放任の構えである。上げ膳据え膳のもてなしを受けるような立場でないのはまあその通りだ。仕方ない、何か作るか、と重い腰を上げる。
    生きるために必要なものは、あらかた揃ってはいた。清潔な寝床に着替え、薬の類はもちろん、食料は地下の倉庫に潤沢に蓄えられ、水も井戸から汲み上げて自由に使って良いと言われている。
    とは言ってもだ。
    「ークソッ」
    振り下ろした包丁の下から、またごろりと野菜が逃げていく。
    先だって捻り上げられた手はまだじくじくと痛むまま、利き手ではないほうの片手だけで暖かい料理を作るのはえらく骨が折れた。最初の数日は仕方なく生の人参や果物を齧ってやり過ごしたが、どうにも惨めで堪らなくなり、このままでいられるかと奮起したのだった。
    「今に、見ていろよ……! このっ、手がっ、治ったらっ」
    悪態を吐きながら、ゴト、ゴト、ゴトン、と皮も剥かないままの食材を叩き割り、水洗いした塩漬け肉をぎちぎちと切り分ける。それらを纏めて水を張った鍋にぶち込んで火に掛けて、あとでほんの少し香辛料を足して終わりだ。富豪の家の長子に出来る料理など所詮そんなところだが、差し当たってはそれで十分だろう。手を治し、奴を倒す算段をつけるまでの間のことだ。
    「おお、やってんな」
    竈門の薪へ火をつけようと苦戦しているところへ、その"奴"がのそりと姿を現す。げぇ、と思わず顔が歪むが、すぐに気を取り直して手伝いを要求する。
    「ちょうど良いところへ来た。おいここ、火を点けろ」
    狼面の野獣は淡い紫の目を数度瞬かせのち、やれやれと言いたげな素振りでこちらへやって来た。竈門のそばで腰を屈め、大きな手の指先に光る鉤爪を擦り合わせて火花を起こす。細く長い口先で、フッとそれを吹くとぱちぱちと雑に並べた薪に橙色の光が散り、すぐにぼう、と炎が上がる。
    「ん。助かる」
    尋常の業ではないのは一目瞭然だ。聞けばこの野獣は風に属する魔術を使えるらしい。確か父神(親父)の加護、とか何とか言っていただろうか。……殺すハードル、もしかして結構高いかこいつ。
    内心冷や汗が出るが、使えるものは便利に使うのがドゥリーヨダナの主義だ。火箸で薪を突き、大きく育った炎が鍋底を包む頃には、野獣はそそくさと踵を返してしまっていた。
    所詮獣風情、やはり火は苦手と見える。
    「違えよ。臭いんだよ、おまえ」
    これ見よがしに鼻を押さえる仕草がこの上なく腹立たしい。正確には痛む手首に当てている湿布薬の臭いだ。これでも身体は毎日綺麗に拭き清めている。
    「? 誰のせいだ誰の!」
    「自業自得だろうが、人間」
    詰まらなそうな口振りで言って、野獣は自身の食事の支度を始めた。手で引き裂いた塩漬け肉を良く水で洗ったのと、皮付きのままの野菜と果物。ほんの数日前までドゥリーヨダナの食べていたものと大差ない内容だ。
    「……これ、出来たら少し食うか?」
    木の匙で鍋をかき混ぜながら、ちらりと横目で野獣の様子を伺う。
    あの獣の手では、今のドゥリーヨダナ以上に料理をこしらえるのは至難の業だろう。
    「あぁ? ……食えると思うか? この口で」
    厳つい肩を竦めると、野獣は用意したものを黙々と口に放り込んでは噛み砕き、さっさと食事を終えてしまった。
    「じゃあな、人間」
    床を叩く爪音を聞きながら、ドゥリーヨダナはくつくつ煮える鍋に向かって文句を垂れた。
    「まったく、頭の中まで毛が生えてるのかあいつ」
    何度も名乗ってやったのに、一向にこの気高く尊い名を覚えようとしない。無礼極まりない態度である。
    ……同じように、あいつにも名があるはずなのだ。
    加護なぞ施してくれる父がいるのだから、きっとあれは名無しの野獣などではない。
    それをまだ聞いていない。
    いずれ斃す相手の名を、知らぬままでいいはずがない。
    赤く赤く燃える竈門の火を、ドゥリーヨダナは静かに見つめていた。



    しばらく日が経ち、手首の痛みはほとんど気にならないまでに回復した。あの野獣を打ち倒すべく、具体的に動き始める時がやってきたのだ。
    武術は学んできたものの、やはり生身ひとつでは不利は否めない。何か他に使えるもの、あるいは罠を仕掛けられそうな場所はないかと、ドゥリーヨダナは館の中を隈なく歩いてみることにした。元々、合鍵の束を渡され、これで開けられるところは好きに入っていいと言われていたため、遠慮なく、あちこちの扉に鍵を差し込んで回る。
    武器庫でもあればと思ったが、あいにくそんなものは見つからなかった。館の中で興味を引かれた場所といえば、広々とした図書室である。天井までぎっしりと本が詰め込まれている。分厚く豪華な装丁の本、多少綻びかけたようなもの、紐で括られただけの紙の束、見知らぬ異国の文字が刻まれたもの。おそらく一生かかっても読みきれないほどの物量に、思わず圧倒される。獣相手の戦術を調べるのに、何か役に立つ可能性はあるな、と疼く好奇心を宥めながら、ドゥリーヨダナは扉を閉じた。
    ある時気づいたが、地下の食料庫の隣にも小さな部屋があった。束の中の鍵がかちりとあったその場所は乾いた埃の臭いがした。灯りを点けて中を見回すと、布を垂らした棚が並んでいる。カーテンを捲るように布を退けてみたが、収められているのは、どれも壊れたガラクタばかりだ。割れてしまった皿やカップ、表紙もページも破けた本、ばらばらになる寸前の玩具の類。ガラクタという割には今でも丁重に扱われているようなのが、どこか不思議な印象を受ける。
    どれもこれも、壊したのは、たぶんあいつだろう。何故かそう確信しながら、ドゥリーヨダナはその部屋を出た。


    宛てがわれた部屋の窓から、裏の庭を彷徨く野獣の姿を見た。
    前庭よりも一層広いそちらは、青く繁る緑の上へ色とりどりの花が咲き乱れているのが見てとれた。実際に庭へ出て整えられた小径へ分け入ると、芳しい薔薇の香りに全身を包まれる。大ぶりな花から小ぶりなものまで選り取り見取りだ。
    これだけの広さ、これだけの数の花々、ひとりきりで手が回るとは到底思えないが、この館にはあの野獣以外誰も住んでいないのは、今となっては火を見るより明らかだった。
    ひとりと、数えきれぬほどの薔薇。そのあわいにぽつりと置かれた異物に、甘い風がぶわりと吹き付ける。
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