狂い咲く花は風を乱吹く22「武器」として産み出された自分は、その力を振るう者がいなければただの害悪。
正しい兄弟達の中で異端であった自分。
やはりこんな自分は「正しい」選択も行動もできない。
●●きなス●ーダナを●して●まった
後悔
「ビーマッ!!!!」
マスターの少女が自分を呼ぶ
ビーマ!!!落ち着いて!!!ビーマッ!!!」
藤丸立香は手を翳す。令呪を使う気だ。
それを遠くから覗く数多の目
嘲笑うだけの悪意の集合体
嗚呼、
可哀想な可哀想な風神の子
愛でたい花を吹き飛ばす事しかできない愚かな子
たかが野草如きにそこまで心を注いで、なんて心優しい子なんだ
愛しい風神の子、優しい風神の子、正しい風神の子
お前のお陰でこの星は救われるのだから
その時は、もうその人形は忘れなさい。
獣へ堕ちていく風神の子は、朦朧とした意識の中で笑い声が聞こえた。
その笑い声を最後にビーマは目を閉じようと…
さぁ、堕ちろ
見えない手がビーマに伸ばされる。
伸ばした者達はこうも簡単に事が運んで微笑む。
本当に人間はなんて簡単なんだろう、なんて愚かなんだろう、なんて滑稽なんだろう
こうも自分達の掌の中で操れる、嗚呼本当に
「…本当に、こうも見事に罠に掛かってくれるなんて…インドの神々はなんて単純なんだろうネ」
!?
伸ばした手に蜘蛛の巣があった
ビーマの意識が戻る。
突如、混沌の世界から光が差し、ビーマの視界が真っ白になった。
それから強烈な花匂いが鼻を掠って、ビーマは再び目を開くと、視界いっぱいの花畑があった。
その光景は見たことがあった。
生前、王族の敷地内にあった広い花畑。
そこでよく、ドゥリーヨダナは末妹と一緒に花を摘みに行っていた。
末妹に見せる、優しくて美しい、決して「自分」に向ける事のない笑みを木陰から見惚れていた。
ソウダ
本当ハ
俺ハ
ビーマの瞳からポタリと雫が流れ落ちる。
嗚呼、なんでいつも自分は遅いんだ。
風神の子が聞いて呆れる。
いつも手遅れだ
やっぱり掴もうと手を伸ばせば、その手はもうない。
「本当“は“…っ、ほ…ん“、とぅ“…お“れ“…ッ」
本当はアイツと共に在りたかったんだ…!
「異国の神よ、覚えておきなさい。」
響き渡る、西洋の文学の父は言う。
どの時代も、「愛」とは人にとって強烈な感情なのです。
「愛」とは人を獣に変え…そして獣を人間にへと変える…!」
シェイクスピアは快く筆を踊らせた。
「…本当に情けねぇな」
突如、自分の普段よりも低い声が‘耳に届いた。
振り向くと拳がビーマの腹に放たれる。
「やっと自分で物事を考えたつーのに絶望してんじゃねぇぞ」
突如現れたヴリコーダラはビーマにもう一髪攻撃を放つと、ビーマは地面に叩きつけられた。
「ヴリコーダラ?!」
マスターの声を聞くとニカっと爽やかな笑顔で微笑んだ。
「マスター、悪ぃ、今から俺とのパスを切ってくれ」
「!?」
「聞こえるんだろ、ダヴィンチ!今すぐ切ってくれ」
ヴリコーダラの申請に管制室は了承し、切断した。
『サーヴァントヴリコーダラ、パスを切れということは…君は向こう側にいくのかな?』
「お前達の向こう側がどこ側なのかよく解らねぇが、俺は腹を括った。良き夫として、俺は我が愛しい花嫁と共にありたい。_______だから、オイ、『俺』」
ヴリコーダラの声のトーンが低くなる。
その声にビーマは頭を上げた。
「こいつは俺が考えて、考えて、俺の決断だ。お前も、お前自身が納得する選択をしろ。そしてそれが間違いでもそれを最後までやり通せ。」
後悔
ヴリコーダラという英霊が作られたのはビーマセーナの「後悔」
法の神子、兄、ユディシュトラの疑い
そういう存在だからこそ、第3の獣の右座をビーマから横取りした。
「悪ぃな。我が花嫁の隣は夫である俺のモノだ。例え「俺」でも許さねぇよ」
うおおおお“お“お“お“お“お“お“お“お“お“お“お“
紫苑の巨大狼に変化し、大地を揺るがす雄叫びを上げる。
『?!!ビーマからビーストの反応が消えて、ビーマオルタの方へと移った?!』
『ビーストの座は所謂椅子取りゲームだからねぇ〜…』
モニターでの異変に気づいたダヴィンチにフォローを入れるかのように、聞き覚えのある男性の声が響いた。
「マーリン!」
『やぁマスター。元気かい?完全体ではないとはいえ、ビーストが二匹も顕現するなんてね、この特異点は凄いなぁ〜』
『どうせこの事は千里眼で見抜いていたんだろ?それで?君は何か私達に助言でもあるのかな花の魔術師殿?』
「特にないかなぁ…だって、もう君達は「必要な全ての駒」を手にしてるからねぇ…後はマイマスター、「君次第」だよ」
「…!うん、解った!ありがとう、マーリン!」
先ほどまでの不安な表情が霧散して、藤丸立香の表情が変わった。
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藤丸と合流する二時間ほど前
「ヤァ、ヴリコーダラ君。探していた奥さんが見つかったそうだネ。良かったじゃないか」
悪のナポリタンと呼ばれる男、モリアーティは目の前の男に対して笑顔を貼り付ける。それに対して巨体の男もニッコリと笑みを貼り付けて応えた。
「ああ、ありがとな!…で?アンタ達は「俺の花嫁を殺しに来た」って見解でいいか?」
ヴィリコーダラの言葉にモリアーティ(とシェイクスピア)以外の英霊は警戒した。
「そういうとやはり君はカルデアの敵役者になるのかナ?」
「…………いや、俺は…アイツをできれば止めたい」
辛そうな顔でヴリコーダラはモリターティ達を見た。
「だが残念ながら、俺の頭じゃ、どうすればいいのか解らない…アイツを殺して、俺も死ぬっていう終わりしか考えられねぇんだ。……なぁ、アンタ達ならどうすればいいか解らねぇか?」
悲しみと救ってほしいという感情が籠った声。その救いを求める様子に英霊達は戸惑う。
「解らないネ!全く。」
モリアーティの言葉にヨハナは叱るように睨んだ。
「だってボク達、断片的な情報しかないしぃ?それにビーストを救って欲しいだなんて、サーヴァントとしてそれはあってはならない事じゃないのかな?」
「そ、そんな事は…だって元ビーストの方も、ビーストのサーヴァントだっているじゃありませんか」
「でもあれは特別な状況だからネ。でもあの存在もきっと…最後は然るべき処理をしないといけなくなるとは思うんだよ、遅かれ早かれ…もちろん君達もそれは思っているのだろう?」
モリアーティの言葉に他は沈黙した。
「ビーストに一度堕ちれば、戻らない。例え「あれ」が不完全で未熟であってもだヨ」
真実をつけられて、ヴリコーダラは俯く。
「そっか…解った。ありがとな」
ニッコリと笑うヴリコーダラに彼の大切の人を救えない事に悲しむ英霊達。
そんな中で、
「…でもそれだけじゃぁ満足しないだろ?君と、君の「お嫁さん」を懲らしめた悪い奴を一網打尽にしようと思うのだけど…」
モリアーティの悪巧みにヴリコーダラは頭を縦に降った。
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漂白した地球の未来を、宇宙を敵に回した地球の事を神々は視た。
だからそれに対抗すべく、この世界の、この地域の神々は箱庭を用意した。
最強で最恐の武器を創る為に。
彼等を止める神々は居なくなっていた。
何故ならそれは狼に喰らわれたから。
邪魔がいないのなら自由にこの壊れた世界を自由自在にした。
崩壊する世界に置いて行かれた、聖杯と数多の神を飲み込んだ狼の魔力を取り込んだ「花」を使って
狼と花は寄り添い最後まで世界と共に消える気だったが、花が消える前にそれを摘むと種を取って世界に巻いた
破壊から再生へと
世界はまた新しく創られる、植物、魔物、人
花の「記憶」と「縁」を使って英霊を呼んだ
全ては獣を創る為のカテリスト
さぁ舞え、愛せ、慈しめ
そして再び絶望を怒りを悲しみを
踊れ踊れかわいいスヨーダナ
可愛い花よ、獣になれ、そして私達の箱庭を守るのだ
LとRが揃う時、SとGが降臨する
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狼の遠吠えが聞こえる
先ほどまで夏のような気温が、突然冬の寒さまで下がる。
風の冬、剣の冬、狼の冬…「フィンブルヴェト(大いなる冬)」が始まる
先ほどまで燃えるように赤く染まって居た太陽と月は鎮火し、大地から光が消える。
英霊達は急いでマスターの下に集まり、彼女を守る姿勢になる。
ビーストIII/Lは異変に逸早く気づき、己の「運命」を静かに待った。
彼の前に巨大な狼が出現する。
終末装置・「フェンリル」こと、「ビーマ・オルタ(ヴリコーダラ)」
ビーストIII/R(Regret:後悔 )