Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    香奈。

    @inuikanano

    成人済 龍0狂信者 蒼天堀組が好きで好きで仕方がない 西真 佐真 真西 西真西 多分そんなSSを書いていく

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    香奈。

    ☆quiet follow

    見ることが出来なかった、夏の西真を見たかったから…

    つづきます

    #西真
    saijin

    熱帯夜01 夏は嫌いだ。
     とにかく暑いので寝苦しい。しかしクーラーなんて上等な物はこの家にはない。
     なので、つい先日までは涼む為に早めに仕事場へ入っていた。だがこんな理由を公言する訳にはいかない。結果、周りの連中は支配人である俺が普段よりも長く仕事をしていると勘違いし、自分達も早めに出勤するようになってしまった。
     正直困る。俺はただ、クーラーの効いた快適な事務所でゆっくり寝たいだけだったのに、皆が仕事をしている中ではそれも叶わない。
     加えて、俺への気遣い故に勤務時間が延びているのにその分の給料を払わないという訳にはいかない。「時間通りに来い」と指示したところで皆自分達の方が気遣われていると勘違いして言うことを聞かない。
     余計な経費はかけたくないので、早めに出勤するのは辞めざる得なくなった。
     真夜中の午前二時過ぎ。仕事が終わって食事をすることもなく、真っ直ぐに帰宅し風呂に入る。
     温い湯で汗を流して浴槽から上がり、濡れた身体をバスタオルで拭く。
     せめてさっぱりしたいのに、水分を拭き取った身体から新たに汗が滲み始めていることには気付いている。さすがにうんざりして寝間着を着ることも放棄し、裸のまま浴室を出た。
     敷きっぱなしの薄い布団の上に、ゴロリと身体を横たえる。
    「暑ぅ……」
     寝返りを打つと首筋に下ろした髪が張り付き、鬱陶しくて指で払いのけた。
     そもそもこの暑苦しくダラダラと伸びた髪だって、オーナーである佐川の言いつけで切ることが出来ない。
     積み重なる睡眠不足で、身体は疲れている。しかし暑くてさっぱり寝付けない。
     あまりにもベタではあるが、頭の中で羊を数えてみる。しかし羊のモコモコした毛を想像し、余計に暑く感じてすぐに止めた。
     また今日も朝日が昇っても眠れないのだろう。磨りガラスの入った窓を通して街灯の光がぼんやり入り込むので、この部屋は夜でも真っ暗にならない。いっそ煙草でも吸おうかと思いながら寝返りを打つ。
     青白く照らされた天井を見つめて何気なく片膝を立てると、太腿に汗が流れていくのを感じた。
     俺はそこまで繊細な質ではない。なのに何日も寝不足のこの状況は何なのだろうか。気温の問題だけでなく、別のところのストレスも関係しているのだろうか。……心当たりがありすぎる。
     その時、乾いた音がはっきり二度聞こえた。突然のことに、思わずビクリと身体が反応する。音は玄関のドアから聞こえた。何ということはない。ノックの音だった。
     いや、何ということはないことはない。素早く上半身を起こし卓袱台の上に置いた腕時計を確認すると、午前三時を回っていた。
     俺はゴクリと生唾を呑み込む。仕事上で緊急を要するトラブルでも起こって従業員の誰かがわざわざここまで来たのか。それとも俺を四六時中見張っている監視が、佐川からの伝言でも持ってきたか。それとも誰かの恨みでも買って……。
     取りあえず面倒なことが起こったことは間違いないだろう。俺は小さく舌打ちして、息を潜めながらシャツに手を伸ばす。素早くそれを羽織り、下着に手を伸ばしたその時……。
    「真島くーん、おるやろ? 開けてー?」
     そのどこかのんびりとした声を聞き、予想は外したが面倒臭いことには変わりないことが起きたことを、俺は理解した。

         ○

     ノックの音は一定の間隔で鳴り続ける。
    「真島くーん」
     ……面倒臭い。布団に座ったままこのまま無視しようかと思いつつドアを眺めていると、銀色のドアポストが小さな金属音と共にゆっくり上がった。
     まずい、と思った時にはもう遅い。
    「真島君! 真島君! おるやん! 開けてぇな、遊びに来たで!」
     この部屋はドアポストからほぼ死角無しで見渡せる。俺の名前を呼ぶ声と、手の平でドアを容赦なく叩く大きな音が狭い部屋に響き渡る。
     俺は心底うんざりしながらのろのろと立ち上がった。
    「え? 何で? 何で裸なん? 何で?」
     ドアを開けると、ボタンも留めることなくシャツ一枚を羽織っただけの俺の姿を見て、声の主は目を丸くした。
     俺はそれに答えず「早く入れ」と顎で促し、そのままドアに背を向けてまた布団に足を進める。
     背後で物音と共にドアを閉める音が聞こえた。「鍵締めといて」という俺の指示に、男は「へーい」と気安く答える。
     男の名は『西谷誉』。
     ひょんなことから知り合った近江連合直参鬼神会の会長、つまりヤクザである。着ているスーツは暗い部屋なのでよく分からないが、またあの派手な臙脂色なのだろう。
     西谷は持っていた荷物の一つを部屋の隅に置いた。ガタンという硬い音がしたので俺はそちらに視線を向ける。そこには四角い箱のようなものが置かれていた。
    「何や、それ?」
    「まぁ後で。それより電気点けんの?」
    「点けん」
    「何で? 折角遊びに来たんやから相手してや」
     言いながら西谷は俺の横に座り、ネクタイを引っ張って襟をくつろげる。
     俺はなんとなく目の前の卓袱台に突っ伏した。頬に触れた天板がひんやりとした温度を感じながら「暑いんやもん」と呟く。俺のぶすくれた声に、西谷は「電気点けたくらいで一度も二度も変わるかいな」と肩をすくめてカラカラと笑った。
    「ひょっとして裸なのもそんな理由?」
    「んぅ……」
     呻くことで返事をすると、目の前にビニール袋が置かれる。上半身を起こすと西谷は短く「差し入れ」と口にする。「おおきに」と返事しながら袋を漁ると、冷えた缶ビールが四本と、いかにもコンビニで売っているつまみが数袋入っていた。
     ビールを一本取り出してまずは首筋に当てる。ついさっき感じた卓袱台からのものと比べものにならない涼を感じて、俺は目を閉じて長い溜息をつく。
     不意に頬に同じ冷たさを感じて目を開けると、西谷が自分の持ったビールを俺の頬にそっと当ててくれていた。
     「ええよ」と言いながら首を緩く振ると、西谷はそのまま持っていた缶を開ける。「プシュッ」という炭酸の弾ける小気味の良い音がした。
     繁華街の真ん中であるとはいえ店もほぼ閉まる深夜であり、部屋の灯りも落としているからだろうか。西谷の喉の奥にビールが落ちていく音が妙に大きく聞こえた。
    「窓は開けへんの?」
    「開けても別に涼しないもん、せやったら……」
     「監視の目を少しでも遮る為に窓は閉めたい」という言葉は敢えて続けないでおく。西谷がそれを察したのかどうかは分からないが「確かに今日は風もなかったなぁ」と呟いた。
    「お前、その格好暑ぅないの?」
    「そりゃ暑いに決まってるやん」
     「決まってる」と言いながらも脱ぐことは今気付いたようで、西谷はジャケットを脱いでそれを適当に放る。「ハンガーにかけろや」という俺の指摘に、西谷は面倒臭いということを一切隠さない声色で返事をしながら立ち上がった。
     外からの街灯にぼんやりと照らされているこの部屋では、ハンガーにジャケットを掛ける程度の作業ならば灯りが点いていなくても容易に行えるようだった。
     ジャケットに向かい合っていた西谷が、こちらを振り返る。
    「なぁ、ズボンも脱いでええ?」
    「好きにしぃや」
     クーラーも扇風機もない部屋。自分はほぼ裸の状態なのに、冷たい差し入れまでくれた同じ場所に居る者の格好に口を出す権利はさすがにないだろう。
     シャツと下着のみの姿になった西谷が、再度俺の隣に腰を下ろす。
     オードトワレと汗の混ざった、西谷の香りがした。
    「……今日何してたん?」
    「んー……朝から事務所におったかなぁ。真島君は?」
    「俺はいつもと変わらん。夕方から仕事行って一時間位前に帰ってきた」
    「ふーん……」
     してもしなくてもいい会話。西谷の姿はシルエットに見える。隣に居るのに表情さえもよく見えないことがどこか不思議に思えた。
    「クーラーとか扇風機って買う気ないん?」
    「あと一ヶ月も経ったらいらんなるから……」
    「金、勿体ない? ワシが買うたろか? あー……佐川がいい顔せぇへん?」
    「そういう意味やのうて……」
     佐川に与えられたこの場所は、ただ休息を取ることのみにしか重点を置かれていない、あまりに質素なものだ。
     しかし、この生活は兄弟である冴島を裏切った罰だという意識があるので、快適な環境を整えようとすること自体後ろめたく思える。そして……。
    「俺の居るべき場所は神室町やから……」
    「おん?」
    「すぐにでも戻れるように……ここは来た時と同じ、あくまで一時の仮住まいのままにしときたいねん」
    「……そうかー」
     西谷の呟くような相槌を聞きながら、俺は首や腕の熱が移って大分温くなったビールの缶を卓袱台に戻した。
     逆に西谷は、自分の飲みかけていたビールを手に取り一気に呷る。空になった缶を卓袱台の上に勢いよく置くと「閃いたで!」と言って俺に顔を向けた。
    「この場をそのまんまにして涼しく過ごしたいんやったら、うちの事務所住めばいいやん。真島君来てくれたら歓迎する! 寒いくらいクーラー効かせたるよ」
    「はぁ? 何でそうなるねん!」
    「毎日とは言わん。ただ、どうしても辛抱堪らん時は、うちの事務所頼ってほしいってそんな話や。……あ、ワシとしては毎日でもええけどな」
    「涼求めてヤクザ事務所行くカタギがおるか、アホ!」
     俺の反応に西谷は「そりゃそうやな」と楽しそうに笑った。俺もつられて苦笑する。
     とても名案とは思えない閃き。でも西谷としては、二人で笑う、それが目的だったであろうから、これでいいのだろう。
     非常識な時間に訪問してくることでも分かる通り、西谷は俺の感情などお構いなくプライベートにずけずけと土足で踏み込んでくる。
     西谷は多分知っている。俺の過去も、現在も。しかし俺は、西谷のことをほとんど知らない。
     だが、知りたいのかと問われると、実は頷くことが出来るのか疑問だ。
     興味がない訳ではない。ただ、敵が多いので狙われるかもしれないという理由から自宅さえも持たない破天荒な男だ。
     蓋を開けてみたら、得体の知れないものが出てくるのならばまだ良い。俺は西谷から『誰にもあって当然なものが奴から出てこなかった場合』を想像するとゾッとする。
     殺伐と張り詰めた日常の中で、なんだかんだで親しくなり心を許し始めた西谷と、本当の意味での距離を感じてしまうことが、俺はきっと怖いのだ。
    「……なぁ、遊びに来たんやろ?」
    「うん、遊んでや」
    「何する気やったん?」
    「んー……ケンカしたかってんけどー……」
    「あかん」
    「せやろ? 真島君、絶対そう言うの分かっとったからビール買うてきたんや。ほんなら酒飲みながら眠くなるまでダラダラ喋ろー思て」
    「ほな今遊んどるんか?」
    「そうなんちゃうん? こんな暗い中でとは思ってなかったけど。……真島君、もう眠たいん?」
    「いや」
     応えながら首を傾げて西谷の肩に頭を寄せる。西谷の身体に一瞬緊張が走ったのが伝わった。
     そのまま西谷にべったりと寄り添う。シャツを通したところで触れた肌の温度は感じ取れた。右手を西谷の下半身に伸ばす。硬く変化しているそこに下着の上からつぅと指を這わせてみせた。
    「硬なってるやん」
    「そりゃあまぁ……」
     「真島君、裸やったし」と続ける西谷に、俺は唇の片端を上げる。
     この場所は監獄で。生活は贖罪で……。飼い主の命令に服従し、ただ一つの目的の為に禁欲的な生き方をしなければならないと思っている。
     だけれども、今あからさまに一歩を踏み出したのは自分の方で……。
     西谷が訪ねてくる前に裸であったのは百歩譲って仕方ないとしても、何故服を着なかった? 何故灯りを点けなかった? その理由を全て夏の所為にするのは雑すぎる。
     いくつも自問自答したところで、納得出来る答えが出る筈もなく。――ただ、西谷を見上げる自分の顔が媚びたものであろうことは、はっきりと自覚していた。


    つづく
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤💜💜💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    Laurelomote

    SPOILERこの文書は『ブラックチャンネル』の、主にエピソード0について語ります。漫画版・アニメ版両方について触れます。
    コミックス最新刊の話までガッツリあるのでまだ読んでないよこれから読むよって方はご注意ください。
    あくまで個人の考察です、自己満足のため読了後の苦情は一切受け付けておりません。
    タイトルの通り宗教的な話題に触れます。苦手な方はブラウザバックで閉じる事を推奨致します。
    ブラチャン エピソード0について実際の神話学と比較した考察備忘録目次:
    【はじめに】
    【天使Bとは何者なのか】
    【堕天】
    【そもそも"アレ"は本当に神なのか】
    【ホワイト(天使A)とは何者なのか】
    【おまけ エピソード0以外の描写について】


    【はじめに】
    最近、ブラックチャンネルという月刊コロコロコミック連載の漫画にどハマりして単行本最新5巻までまとめて電子購入しました。
    もともと月刊コロコロ/コロコロアニキの漫画はよく読んでいたのですが(特にデデププ、コロッケ!etc)、アニキの系譜であるwebサイト『週刊コロコロコミック』において次々と新しい漫画の連載が始まり色々読みあさっていたところに、ブラックチャンネルもweb掲載がスタートし、試しに読んでみたらこのザマです。
    4739