誕生日というものにあまり頓着がない。
境遇もあるだろうけど、楽しい思い出がピンとしないし、祝われてもあくまでそれまで。特別な日、と言われてもそこまで俺にとっては印象深くない。
歳を重ねても、あぁまた死に近づいたな、と思うだけだ。
人に祝われることはある。だけど、はっきり言うとどんな反応をすればいいかわからない。素直に喜べばいいんだろう。けれど、俺を本当に産んでくれた人はわからない。俺の努力ではなく、その人が頑張って俺を産んでくれたのだから、本来感謝すべきなのはその人である。
そして今年もその日を迎える。
「…はは、すげぇ」
時計の針が真上を指す頃。ぽこんぽこん、と軽快な音を立てながらスマホが光る。画面を見れば、おめでとうのメッセージで埋まっている。
年々人と関わることが増えて、有難いことに最近では配信活動を始めたからかもっと多くの人からメッセージがくる。駅の広告だったりラッピング、TLを埋め尽くす赤。
おめでとうの後に続く生まれてくれてありがとう、という感謝の言葉。どれも喜ばしいものばかりだ。
「っと、投稿…」
配信の告知もついでに投稿すれば即座にいいねがついて、そこに様々な返信が来る。こんな時間まで起きてるなよ、はよ寝ろっての、と悪態を内心つきながらも祝われる喜びがじわじわと体を掻き乱す。
軽くTLを眺めてからメッセージアプリを開く。届いているメッセージへの返信やらをしていくうちにふと気づく。
(…そういえば、あいつから来てねぇな)
あいつ、というのは片思い相手である女の子。ちょっとぼかして言うと俺の大事な人。毎年必ず1番はじめに送ってくるのに、今年は珍しくメッセージがない。
最近ちょっと立て込んでて、と先週やりとりした記憶はある。けれど毎年欠かさずだったから、忘れると言うことはないだろう。本当に忙しいんだろう。
ほんの少しだけ胸にもやがかかる。
(………まぁ、そういうこともある、よな)
ほんの少しの寂しさを紛らわすようにスマホを手放し、パソコンに向き合い作業をする。
そうすればこの一時の迷いも消えるだろうから。
と、思っているときだった。
ピンポーン
「…は?」
こんな遅くにウーバーを頼んだ記憶はないし通販がこんな時間に来るわけない。だがしっかりと俺の耳にはチャイムの音が届いた。
霊障とかではないはず。ここの治安はそこまで悪くないし、警備部隊の連中なら先に連絡を入れるはずだ。
仕方ないが、インターホンを確認せざるを得ない。わからない、が1番怖いのだ。
誰だと思い画面を見た途端、俺は急いで廊下を走り玄関を開ける。
「っ…おま、なんでこんなじか」
「誕生日おめでとう、ローレン」
びっくりした?といたずらっ子のように笑う彼女に俺はへろへろとしゃがみこみはぁ、と大袈裟にため息をこぼす。そんな俺に驚いたのか頭上からえ、え、とオドオドする彼女の声が降る。
「どうしたの?」
「…………お前…危機感ってのを知らねーのか?
この時間に一人で出歩くとか……お前………マジでぇ………」
さっき見た限り、時計は余裕に1時を回っていた。俺の家から彼女の家まではそこまで遠くなく、徒歩で行動可能の距離だ。ということはこの遅い時間にひとりで歩いてきている。それは如何せん許せない。警備部隊の一員としてだけでなく彼女のことが大切だから。
「…ごめん、嫌だった?」
「ちっ…違う、それはない!マジで嬉しい!
だけどなぁ……………はぁ、とりあえず上がってけ、ご近所迷惑はごめんだからな」
「あー…それはごめん、お言葉に甘えておじゃまします…」
がちゃり、と後ろ手に鍵を閉めた。
部屋に招き入れて、ソファに座るよう促せば失礼します、とおずおずと言った様子で座る。いつもはもっと堂々としてるのに、こういう時は萎れるのちょっと可愛いと思ってたりする。
「なんか、ごめんね」
「いや、いいよ
でも来るんだったら連絡ぐらい入れろよ 迎えぐらい行くんだからさ」
「そ、それだとサプライズにならないでしょ」
「…それでもだよっ」
ピシッとデコピンをかませば「いた」と目をきゅっと閉じておでこを押さえる。いつもアクシアとか同僚にやるぐらいの勢いよりも弱くしたのに痛そうにするのだから、こんなにか弱いのにひとりで深夜に出歩いてもし誰かに襲われたら抵抗もできないだろう。それを考えるだけでふつりと怒りが湧いた。