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    ymd_kbut_438

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    一次創作

    ふりかえる話ふりかえる話
    カーテンを開けることすら億劫で、片付けることも億劫で、起き上がる事も億劫。外から車が行き交う音や鳥の声や何やらと聞こえてくるから、多分日が昇った頃なんだと思う。ずっと眠れずにいて正しい時間なんて分からない。部屋の時計はとうの昔に動きを停めている。唯一の確認方法は充電していないスマートフォンだけ。誰にも連絡をしないし誰も俺に連絡をしないから特に問題は無いのだ。情報を頭に入れるにも頭がまともに働かないから理解もできないので殊更必要性がない。今日も適当にベッドの上で過ごすだけの生活を送る。
    「全く、いつまでだらけてるんだい。ほら、陽の光を浴びないときのこでも生えちゃうよ。カーテン開けるくらいなら簡単だよ。」
    声が聞こえる。呆れているけど温もりを感じる暖かい声。あれをしろこれをしろと全部矯正されるよりも、少しずつ簡単な事からやってみなさいと言われる方が助かるなと思った。元気の無い時の自分を理解してくれている。甘やかしてくれているなぁとなんだか嬉しくなる。はぁいと気の抜けた返事をしのろのろと窓まで動く。真夏にふさわしい真っ青な青空が眩しくて目を開けられなかった。まぶたの裏に優しく微笑んだ兄の姿が見える。カーテンを開けただけでもえらいえらいと頭に手を乗せてくれる兄がいる。とてつもなく体が重く、動くだけでもしんどいけど兄が褒めてくれる、それだけで俺は何とか物事を進めることができるのだ。

    と、思い込んでいる。この部屋には誰も来ない。多忙を極め現在は海外に赴任している両親、まともな友人が居ない俺、ある程度貯金を貯めたことで辞めたアルバイト。俺を尋ねる人はいない。自分に都合の良い幻覚を見ることで己を確立させている。自己は消え去り哲学的ゾンビと化している。
    この部屋には誰も来ない。
    兄はとうの昔に死んでいる。受け入れなきゃいけないのはわかっているけど、縋る宛がそこしかない。


    失敗の話
    長い夏休みを無駄に過ごしている。出かけることもなければ何かに取り掛かることもない。あらかたやることを既に終わらせていて、教授からのスカウトもあり就活なぞはなから取り組んでいない。故に常に薄暗い部屋のベッドの上だが今回は出かけざるを得ない事情があり暑い暑い日の下にいる。
    「日焼け止め塗った?焼けると真っ赤になって痛くなるんだから気をつけなさいよ。」
    「分かってるよ」
    「熱中症対策もね。今日は今年の最高気温更新だって。こまめに水分摂って、なるべく早く済ませてね。」
    「そうだね。でも折角だしもうちょっと、さ。正直だいぶしんどいけどなかなか無いんだし。いいでしょ?」
    前を歩く兄の幻覚に返事をしている。周りに人がいないから構わない。炎天下の中、兄の墓の前で座っている。この暑さで墓石はだいぶ暑くなっている。それが逆に、冷たいあの手を忘れさせてくれる気がして縋ってしまう。
    兄は最期俺に優しい言葉をかけてはくれなかった。動くことも話すこともできないストレスの前に、俺は火に油を注ぐ存在だった。手先に力が入らず感覚も薄れているという話を聞いた。いつも手を握ってその日の出来事をつらつらと話していたが、いつしか手を繋ぐことも目を合わせることも拒まれてしまった。面会拒否されなかっただけマシで、俺が来る度目線を逸らし反対側のまだの外をぼんやりと眺めていた。


    「今日はすごい暑いんだって。」
    「………」
    最近は返事が来ることすらない。
    「あの雲の形、魚みたい。」
    「………」
    沈黙が痛い。でも、俺が泣くのは違うと思ったから、もっと辛いのは兄だから。俺は我慢できるし、兄と居るだけでいい。
    「空、すごく青いよね。」
    「………」
    俺には基本話題がない。以前、歩けないのが辛い、本を読むことすら出来ないのが辛い。字を書くことも出来なくなって何も出来なくなったと涙を流す兄を見て、その日俺が何をして過ごしたかを話すのを控えるようにした。それ以来話題が更に減ってしまった。
    「…あのさ」
    か細い小さな声だった。兄が口を開いているのが見えた。
    「う、うん!なぁに?」
    嬉しくなって声が大きくなる。身を乗り出して次の言葉を待つ。
    「もうはなしかけないで。めいわく。」
    弱々しくもゆっくり、しっかりと発音している。明確な拒絶の気持ちを向けられる。相変わらず視線はこちらに向かない。俺は、何か、返そうとしたけど、口をパクパクとさせるだった。
    静かに立ち上がって、なるべく音を立てずに病室を出た。
    「またくるね」
    それに対する拒絶の声も指示もなかった。それだけが救いだった。


    あたらしい話
    このクソ暑い中炎天直下のベンチで涼しい顔をしながら座っている男がいた。不安になるくらいの白い肌で、服も真っ白で、全体的に色素の薄い美形の男。イケメンは汗をかかないのか。ちくしょう。俺が日陰のベンチでダラダラ汗を垂れ流している間もイケメンは澄まし顔で、公園の水が流れる広場で遊ぶ子供の喧騒を眺めている。あの顔でショタコンとかロリコンとかなのか、そういう欠点も払拭する綺麗な顔が羨ましいこった。あのイケメンが女で俺が度胸のある男だったらナンパしてるわ。失礼すぎてくだらないことを考えていたら、俺が見ていたのに気づいたらしく視線がこちらに向いた。
    目が合った。
    やべ、と思い一瞬なんだし気に留めることも無いだろうと逸らしたが、逸らした上げ視線の先に白い手が見えた。目の前にいる。何故。つい顔をあげてしまう、消えそうな薄紫の眼差しで冷りと汗が伝う。クソでかいクールビューティ男、無言で俺の目の前に立って怖い。俺は適当にアハハと愛想笑いするしか無かった。
    「目、合いましたよね」
    こわい、目が合っただけでこんなに詰めてくるの?俺なんかしたっけ?ちょっと下世話なこと考えてたのバレてる?顔に出てたか。
    「す、すいません別に他意は無くてですね」
    謝りはしても言い訳が思いつかない。ぶっちゃけるとタイプの顔をした男を見ていただけだし女だったらな~とか考えてたキモイやつなので。
    「……道に迷ってしまいまして。ここがどこだか教えていただけますか。」
    想像もしなかった要求をされて拍子抜けをした。話を詳しく聞くとどうやら場所を調べる媒体も周辺の地図もなくやれることが無さすぎてぼーっとしていたらしい。そんな暑苦しい場所じゃなくてどっかの店に入ったり何だりして聞けばいいものをとアドバイスしても都合の悪そうにちょっと…とモゴモゴし始めた。俺はたまたま目が合っちゃったから声をかけただけで、この人もしかしてコミュ障か?イケメンだからコミュ障でもクールでミステリアスとかで許されそう。現に俺は許せる。恥ずかしながら。
    どうやら彼はここがどこか、何日かすら知らなかったようで俺と話す度首を傾げながら色々訪ねてくる。記憶喪失とかちょっとヤバいやつかも?とも思ったが段々興味津々で純粋な子供に物事を教えている気分になって余計な話すらしてしまった。今流行りの食べ物は俺はあんまり好きじゃないとか、ここの店が潰れてしまったとか、ゲームの話とか。ゲームの話は特に盛り上がったが彼の好みはレトロゲームのようで、俺には少し分からなかった。
    「そのゲーム出たの12年前っすよ。名作だって話は聞いてるけど俺はやってないな~」
    「…そっか。時が経つのは早いですね……。」
    悲しそうな顔をしていた。わかる。俺もそのゲーム5年前かと驚きショックを受けることはある。
    ところで俺は気づいた。そう言えば道案内をしていたのだと。しかし彼からどこに向かうのかを聞いていないどころか名前すら聞いてない。いやただの道案内だったら名前までは聞かないが、もうここまで話が弾んでしまっているならいいのではないか。歳も近そうだしこの辺の大学かもしれないしなんならうちと同じ大学かもしれない。こんなイケメンいたら多少話は流れてくるかもしれない。そんなことが起こるのは所詮コミュニティの狭い小中高だろうか。
    「今度一緒にゲームとかしましょうよ。俺は狗神です。とりあえずdiscord交換します?」
    初対面discordはキモイなと反省した。やべ~と思いつつ相手の様子を見たが表情は暗い。やっぱ距離の詰め方キモかったか。
    「藤崎です。ゲームはしたいですが…今はできる媒体がなくて。ところででぃすこーど、とは…」
    discordを出した俺の陰キャ具合が露呈した。

    「◯◯市の◯◯区に行きたいんです。住宅地であまり目立った特徴が無いもので。知らない場所から動くのに抵抗があったんですよ。」
    ようやく本題に入った。同じ市内なので(それすら気づいてなかったのか)まぁ名前は聞いたことはある。そこまで離れてはいないが電車で向かった方が早いだろう。
    「そこなら電車の方が早いっすね。◯◯駅で降りれば…」
    「電車は無理です。…手持ちがありません。」
    食い気味で断られた。
    「はは、それくらい出しますよ。大した金じゃないんで」
    それでも渋っていた。俺の時間の都合もあるので徒歩で案内は限界がある。その旨を伝えると元々白い顔がさらに真っ青になっていた。電車になにかトラウマでもあるのか?嫌ならバスでもと提案した時、離れていた広場で遊んでいた子供から声をかけられた。
    「お兄さん、何と喋ってるの?」
    固まった俺の前に、子供の保護者であろう女性が駆け寄る。俺の事を怯えた目で見て子供を連れて戻って行った。遊んでいた子供たちが一斉に公園から帰っていく。
    俺は隣にいる藤崎という男に再度視線を向けた。
    「ごめんなさい。」
    彼は動揺した俺の手に触れようとした。すっと、通り抜けていく。触られた感触は一切ない。
    「だから公共交通機関は使いたくなかった。とっくに死んだ私を認識できる人はいなかったので。霊感があるというのでしょうか。やっと見てくれたのが、どうしても嬉しくて。」
    彼の瞳からは涙が流れ、落ちていったがその先の地面が濡れることは無かった。
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