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    やめたれ

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    やめたれ

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    前垢で書いてたニキ誕の話。
    ニキくんお誕生日おめでとう。

     事前に分担した物と個別に用意したプレゼントを持ち寄ったこはくとHiMERUは、予定時刻の五分前に集合場所に集まった。Crazy:B四人での待ち合わせでは有り得ないスムーズな集合に二人は微笑むと、軽く挨拶を交わして目的地へと向かう。本日は十月五日。椎名ニキの誕生日である。これからサプライズパーティーを仕掛けるべく、先に燐音が待つ寮へと向かうのだ。
     
    「ニキはん!?」
     しかし、今日は四人の貸し切りにして貰った寮の共有スペースに向かうと、キッチンで見慣れた人物がフライパンを振るっていて、こはくが思わず声を上げた。
    「あ、こはくちゃん、HiMERUくん。おつかれっす〜」
     色とりどりの野菜を飴色のソースとフライパンを振って器用に絡め合わせ、皿に盛り付ける。一息吐く間もなく次の動作に移りながら、ニキは二人に気付くと爽やかに笑いかけた。
    「あぁ……ええ、お疲れ様です、椎名」
     戸惑い気味にHiMERUが返事をし、ちらりとソファやテーブルのある横の方を見やる。ガラス製のテーブルの前。どっかりと胡座をかいた赤い頭の人物が、昼間から缶ビールを煽っているではないか。
    「天城。これはどういう事ですか?」
     HiMERUの声には僅か怒気を孕んでいた。赤い頭の人物──燐音は首を後ろに倒してこちらを見ると、あー、と間の抜けた声を出す。
    「バイト休みンなったって言うからよォ」
     本当に? と問うように、こはくとHiMERUは同時にニキを見る。後ろから信用ねェなァという声が聞こえてきたが、スルーしておく。
     二人の視線に気づくと、ニキは調味料をボウルの中で混ぜながら頷いた。
    「なはは、ホントっすよ〜。設備工事で休みなんす」
    「せやけど、自分の誕生日に自分で料理作らんでもええやん。それを、燐音はんは何作らしとん?」
     憮然として振り向くこはくに、燐音がだってよォとビールを一口飲んでから、さも当然のように言う。
    「下手にどっかに料理頼むより、ニキのメシのが美味いっしょ」
    「………………。いや、まぁ、そらそやろけど」
     多分にあった沈黙の間にHiMERUと視線を交わしたこはくは、それはもう色々な事を考えたのだが、かぶりを横に振ったHiMERUと同様に、敢えて口には出さずにおく。
    「いいんすよ、バイトなくなっちゃってヒマだし。それに、みんなで食べる方が楽しいし美味しいっすからね! 腕によりをかけちゃうっすよ〜!」
     コンロにかかっている鍋を掻き混ぜているニキは全くいつもの調子である。

    「ええわけあるかい、せめて手伝うわ」
    「桜河、荷物を貸してください。あちらに置いてきますので」
    「すまんな、頼むわ」
     HiMERUに上着と荷物を預けたこはくは袖を捲って何をしたらいいかと問う。
    「手伝うって、こはくちゃん料理出来ンのかよ?」
    「料理は出来ひんけど、手伝える事はあるやろ?」
    「あー、ないない。引っ込んでた方が賢明だって。そう、今の俺っちのようにな!」
    「えばるな、盆暗」
     飲んだくれからの質問に鋭い視線を飛ばす。そのまま軽口の応酬に縺れ込むと、ニキから苦笑いが漏れた。
    「それじゃ、出来上がった料理を運んで貰ってもいいっすかね?」
    「うん、お易い御用じゃ」
     こはくは未だ料理を作り続けるニキに快い返事をして、調理台の上の大皿を持ち上げる。
    「HiMERUはーん。料理運ぶさかい、そこの図体のでっかい荷物、退かしといて」
    「了解です」
     こはくが荷物、という所で見た先には燐音の姿があった。その意図を即座に理解したHiMERUは立ち上がって燐音の真後ろに立つ。当の本人は動くつもりは毛頭ないらしく、大仰な泣き真似をして見せた。
    「荷物扱いとかひっでえ! 燐音くん泣いちゃうんですけど。てか、メルメルの細腕じゃ俺っちは持ち上げらんねェっしょ」
    「それはどうでしょう。自分よりも大きな人や物を持ち上げる方法など、ごまんとありますので」
    「ふ〜ん? そンじゃやってみろよ? あ、ちょ、ま……あひゃひゃひゃひゃ! 擽るのはひきょ……ひえっ、ひゃはははは!」
     HiMERUに脇腹を擽られた燐音は、笑い転がって窓際まで移動する。これでHiMERUの任務は完了である。

    「さて。荷物の撤去も済みましたので、HiMERUも料理運びを手伝うとしましょう」
    「あっ、それじゃあコップを出して貰ってもいいっすか? 多分食器棚の上の方に……」
    「分かりました」
     料理を運ぶこはくと入れ違いにキッチンの方に行き、ニキの真後ろにある食器棚に手を伸ばした所で、HiMERUはふと動きを止める。調理台が邪魔で見えなかったのだが、ニキのエプロンがどう見ても新品なのである。まだ畳み皺がきっちりついているし、真新しい布の匂いも微かにする。これはつまり──。無言で、視線を燐音に送る。窓際に転がっていた燐音はいつの間にか起き上がり、こはくとHiMERUがそれぞれ持ってきた紙の包みを触って中身を確かめているようだった。こちらの視線に気付くと即座に手を止め、明後日の方を向く。なるほど、とHiMERUは笑った。
    「んぃ? どうかしたっすか、HiMERUくん?」
     最後の料理を作り終えたニキが首を傾げる。
    「……いいえ。椎名、誕生日おめでとうございます」
    「ありがとっす。改まって言われると照れくさいっすね……へへ……」
    「エプロン、よく似合っていますよ」
     ニキの着けているグレーのシンプルなカフェエプロンを見つめHiMERUが言うと、ニキはますます照れたようにはにかんだ。
    「あー、これ。なはは、素直じゃないっすよね〜。バイトがないならパーティーするから料理作れってここに連れて来られて、そしたらエプロンが置いてあったんすよ」
    「へぇ…………」
     ここで、二人の、いや、それを耳聡く聞いていたこはくを含めた三人の目が燐音に集まる。
    「…………ま、見事にお前らと被っちまったわけだけど?」
     そっぽを向いたままぶすくれたように言う燐音の耳が僅かに赤い。これは、酒のせいではあるまい。くすりと、最初に笑ったのはこはくだった。
    「わしはエプロン……と、髪を括るヘアゴムなんやけど」
    「HiMERUはエプロンと無香料のハンドクリームです。これからの時期、水仕事は手肌が荒れると聞いたので」
    「あっ、ずりィぞお前ら!」
     二人のプレゼントの内容を聞いて改めて紙包みを触った燐音が、布以外の感触がある事にやっと気付いて勢いよく振り向く。
    「ずるくはないやろ。エプロンだけやと寂しいかなち思うてん」
    「HiMERUは全員がエプロンを選ぶと推測しましたので、プラスアルファで誰も選ばないであろう物を選択しました。……エプロンは被っても、椎名であれば何着あっても困らないでしょうしね」
    「うわー、二人とも、ありがとうっす! 毎日エプロン取っかえ引っ変え出来るっすね!」
     最後に出来上がった料理をテーブルに置いて座ったニキが心から嬉しそうな様子であると見てとって、こはくは胸を撫で下ろした。
    「わしはまさか全員エプロンで被るなんち思わへんかったさかい、ちょお冷や冷やしたわ。エプロンそんなに要らへんかったらどないしよ、っち」
    「まさか! HiMERUくんの言う通り、何着あったって困らないんすよ。料理は毎日作るし、けど洗濯は毎日出来るわけでもないし」
    「ふぅん、そういうもんなんか」
    「よーし、料理出来たンなら乾杯しようぜェ? 俺っち腹減ったわ〜」
     HiMERUが持ってきたグラスにペットボトルの飲料を注いだ燐音が、そこまでの空気を変えるように喚き出すので、こはくが睨む。
    「おどれはほんまに…………」
    「天城、グラスに注いだのは酒ではないでしょうね?」
    「まっさかー! お前らはジュース、俺っちは酒」
    「そんじゃ、冷めないうちに食べましょっか!」
     四人でテーブルにつくと、それぞれがグラスを持つ。お互いに見合って、この瞬間にはすっかり笑顔で、口を揃える。
    「ニキ」
    「椎名」
    「ニキはん」
    『誕生日おめでとう!』
     小気味よいグラスのぶつかる音が、真昼の共有スペースに響いた。
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