ヤンデレワカ武「んっ…ぢゅっ…♡わか、く…っ」
「喋んな、舌噛むぞ」
狭い咥内を長い舌で嬲られながらも、必死に言葉を紡ごうとする武道だったが短く遮られ、集中しろと言わんばかりに上顎を舐められる。
れろ…ッ♡とすっかり性感帯と化した上顎を粘膜同士で刺激され、武道の身体がびくんと震えた。
ぢゅっ…♡くちゅ…ッ♡♡ぬぷっ…ぬぢゅっ…♡♡
素直な反応に気を良くしたのか、愉しげに喉を鳴らしながら歯列をなぞり、舌裏の柔い箇所を唾液の絡んだ舌でゆっくりと舐め上げ、ぢゅ♡と武道の舌を自身の舌で包み吸う。
開いたままの唇の端から唾液を零しながら、どろりと快楽で蕩け始めた武道は、不十分な息継ぎで理性が薄れていき与えられる快楽を必死に追うようにぎこちなく舌を絡めた。
じゅぶっ♡ぬぷ♡ぬちゅっ♡♡じゅっ…ぽぉ♡♡ぬぢゅっ♡♡ぐぷっ♡♡くちゅッ♡♡♡
「〜〜〜ッ♡♡♡」
甘やかな快楽が一転し、捕食者へ姿を変え噛み付くようなキスへ変わり激しい咥内への愛撫が続く。
許容量を超えながら与え続けられる強すぎる快楽に、本能的に身を引こうとするが後頭部に回された手がそれを許さなかった。
───ぬっ…ぽぉ♡♡♡
ようやく唇が離れた頃には舌をしまうことすら忘れ、「はっ♡」「ぁへ…ッ♡」と拙い呼吸を繰り返す武道を労うように首筋に触れるだけのキスを落とす。
その感触にすら身体を小さく震わせてしまう武道に、形の良い唇を寄せ、
「ただいま、タケミチ」
「お…かえり、ワカくん」
低い甘い声音にどろりと蕩けたまま、武道は目の前の男に笑みを向けた。
それに男───今牛若狭は美しい顔を満足げに綻ばせ、「ん」と小さく頷く。
そのままふらつく武道を支えながら若狭は玄関から廊下へあがり、ようやく二人が暮らす部屋へと歩みを進めた。
卍
不良達の中でも一目を置かれているチーム、【黒龍】の幹部にして白豹の異名を持つ今牛若狭は武道の兄である。
正しく言えば義兄だ。
一人っ子で兄という存在に憧れ、将来は不良を夢見ていた武道にとって不良の兄が出来た事は嬉しかったが若狭は違うようだった。
出会った頃、すでに別のチームの総長として好きに暴れていた若狭にとって親の再婚や小学生の弟が出来た事は面倒でしか無かったようだ。
初めは目すら合わせて貰えず気を落としていたが、そんな関係が徐々に変わっていったのは両親の関係が険悪になった頃からだろうか。
頻繁に喧嘩をする声が部屋越しに聞こえる事が耐えきれなくなり、耐えきれず部屋に訪れた武道を、若狭は当たり前のように迎えてくれるようになっていた。
常に苛立っている両親との生活の中で、若狭と眠るこの時間が武道にとって唯一安らげるものだった。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、若狭の胸に顔を押し付ける武道を、リビングの喧騒から守るように抱き寄せた。
その優しさが嬉しく、張り詰めていた心がほぐれていくのを感じる。
「…あいつら最近いつもあんな感じ?」
「うん」
そう尋ねられ、武道は頷く。
普段夜は集会や喧嘩で不在の若狭は両親の不仲がここまで進んでいた事が予想外だったようで、苛立ったような小さく舌打ちが聞こえた。
「また離婚、すんのかなぁ」
「……」
若狭からの答えは無い。
きっと同じ事を考えているのだろう。
「ワカくんが兄ちゃんじゃなくなるのは嫌だなぁ」
「兄貴っぽい事してねぇだろ」
「こうして寝てくれるじゃん!…あのね、オレ実はこっそりワカくんが喧嘩してるとこみたんだ」
それは偶然だった。
学校帰りにふと目をやった路地裏で、数人の男に囲まれた若狭が一撃で男達を倒していく姿を見たのだ。
しなやかな身のこなしは美しさすらあり、思わず見入ってしまった。
その光景に、ますます不良への憧れとあんなに凄い人が自分の兄なのだという誇らしさがあった。
それを内緒話をするように囁き、武道は笑った。
両親が離婚すれば、こうして若狭にも会えなくなる。
ならば今のうちに言っておこうと思ったのだ。
「…ワカくんだけいればいいのに」
思わずそう呟いて、武道は後悔した。
元々家族にそこまで執着がない若狭だ。血の繋がりのない自分に縋られても面倒なだけだろう。
だが、若狭の答えは意外なものだった。
「いいぜ」
「え」
その言葉が飲み込めないうちに、若狭は武道の耳に唇を寄せた。
「ずっとそばにいてやるよ、オレだけのタケミチになるならな」
「わかった!オレ、ワカくんのね!」
言葉の意味は幼い武道にはよく分からなかったが、大好きな若狭がこれからもそばに居てくれるのだ。
嬉しくて躊躇いなくそう答えれば、若狭は苦笑しながらも武道の頭を優しく撫でた。
それからしばらく経ち、両親は離婚した。
母は武道を置いて出ていき、父は徐々に家に帰る頻度が少なくなった。
武道と若狭は小さなマンションの一室で暮らすようになっていた。
父は一緒に住まないのかと若狭に尋ねたこともあったが、「新しい女と住むんだと」と返され本当に両親は武道達を邪険にしか思っていなかったのだと気落ちする。
そんな中。
若狭だけは変わらず傍に居てくれる事が武道の救いだった。
あの日々がトラウマだったのか静かな自室でも一人で眠る事が出来なくなった武道を、若狭はいつものように自分のベッドに招き入れ共に眠ってくれた。
それが嬉しくもあり、若狭に頼りきりな自分が情けなくなるが、今の武道には若狭しかいないのだ。
与えられる優しさに必死に縋り、少しでも役に立てるようにと不器用ながら家事にも励んだ。
新しい家での生活にも慣れ、ある程度の家事もこなせるようになってきたある日。
「遅いなぁ」
23時を回ろうとしている時計を眺めながら、武道は落ちそうになる瞼を必死に開き、若狭の帰りを待っていた。
今日は集会後仲間と飲みに行くと聞いており、先に寝てろとも言われていたが、せめて「おかえり」だけ言おうと思っていたのだ。
だが眠さは限界に近く、いつの間にか武道の意識は徐々に薄れていった。
(あ、れ…?)
どれ程時間が経ったのだろうか。
唇に触れる柔らかな感触に、武道の意識はゆっくり浮上していく。
霞んだ視界に映る若狭の顔に、帰ってきたんだとぼんやり思う。
(おかえり、言わなきゃ…)
そう口を開いた途端。
ぬるりと長く熱いものが武道の咥内に入っていき、その感覚にようやく微睡んでいた意識が覚醒した。
「んっ!?…ぁ、え…っ」
慌てて声を出すが、若狭は気にせずぐぢゅぐぢゅと卑猥な水音を立てながら、自身の舌で狭い粘膜を嬲っていく。
強いアルコールの匂いに逃れようと必死に顔を背けようとするも、頬を掴む若狭の手がそれを許さない。
いつの間にかソファに押し倒され、じゅぷ♡じゅぷ♡とじっくり咥内を愛撫されていた。
ようやく解放された頃にはすっかり身体は弛緩し、ビクビクと震えることしか出来なかった。
「な、んれぇ…ッ?」
動揺と感じたことがない気持ちよさに混乱しながら、回らない舌でそう呟くと、ちゅ♡と唇の端や頬など何ヶ所もキスを落としていた若狭が武道の方を見る。
「【オレの】にキスして悪いか?」
「で、でもキスは好きな人とするんだよ」
「じゃあ問題ねぇな。それとも、もう好きな奴とした?」
ぎり、と頬を掴む手が強くなり、一気に若狭を取り巻く空気が重くなる。それに慌てて首を横に振れば、先程の剣呑さは嘘のように消え、若狭はゆっくり目を細めた。
「だよなぁ、タケミチにはオレだけしか要らねぇもんな。怖がらせて悪い」
「…いいよ」
兄弟間で交わされるキスではない事は、小学生とはいえ高学年の武道であっても分かっていた。本当であれば拒否するべきだ。
だが。
脳内に浮かんだ仄暗い考えが武道を正気ではなくさせていた。
「オレはワカくんのだから、いいよ」
若狭がそばに居てくれるなら、自分自身を捧げても構わない。
───そう思ってしまった時から、この関係は歪み始めた。