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    tokinoura488

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    こちらではゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのリンク×ゼルダ(リンゼル)小説を書いております。
    便宜上裏垢を使用しているので表はこちらです。→https://twitter.com/kukukuroroooo

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    Twitterに「#ハイラル城備忘録・青史」のタグでアップしたモブ視点リンゼルSS
    登場モブ:近衛兵・20才代・男性
    タイトル:差し出す手は

    ##リンゼル
    ##モブ視点
    ##ハイラル城備忘録

    ハイラル城備忘録*青史【近衛兵の記録】

    1:差し出す手は

     いつになくオレは高揚感に酔いしれていた。
    「ゼルダ姫様はここより峡谷を抜けられる。全方向に注意せよ! 心してかかれ!」
     隊長の声が林立する苔むした樹木の間に響いた。
     ゼルダ様を狙う者が部隊に紛れ込んでいるという情報が伝わったのは、前夜のことだ。リトの村への訪問は変えられない。狙われるとすれば必ず通らねばならない峡谷との予測の元、方策が思案され、そして決行された。
     オレの左側を金色の髪を揺らした華奢な身体が遠ざかっていく。その隣には青い英傑服が寄り添って進む。伝説のマスターソードが握られた手。感情の読めない顔に鋭い青い目だけが、やけに強く印象に残るのがリンクという近衛兵だ。オレが入隊した時にはすでに在籍していた先輩に当たるが、オレよりずっと年は若い。オレは目の前で見せつけられる実力の差に猛烈な嫉妬を抱き続けていた。細身の身体からは想像できないほどのスピードと一太刀の威力。それは同じ近衛兵となり前線に出る機会が増えて、より強くオレの心を抉っていく。どんなに追いかけても到底追いつくことのできない領域。そんなのオレにだって分かっている。あいつにとってオレなど歯牙にも掛からない存在だということも理解している。それでもオレの中の嫉視は消えない。リンクがゼルダ様付きとなって以降より強くなったほどだ。
    「残念だったな。今日はお前の出る幕はないさ」
     オレは遠ざかっていく大群の中に垣間見える、青い衣の背に向けて呟いた。
     ゼルダ様を狙っているのは大厄災の元凶であるガノンを崇拝している危険な集団だ。あの女傑揃いのゲルド族ですら、宮殿から宝物を奪われたと聞いている。ずっと平和が続いていたハイラルの兵士と違い、信じるものの為に命さえ惜しくないという者達なのだから、端から戦闘へのモチベーションが違うのだ。オレたちは対魔物が戦闘の主軸だ。それに対し、奴らは対人間――とくにハイラル人を標的にしている。思索を巡らし、我らの裏をかこうとしてくる狡猾な者たちに、正々堂々を信条とする騎士道がどこまで通用するのか、まだ未知数だ。
     オレがいるのは少数の分離隊。頭数で言えば、十を少し超えたほど。この場に選ばれる為にオレは日々精進してきたと言ってもいい。
    「……やってやる」
     オレは斜め前を歩く細身の衛兵を眺めた。深くかぶったフードから美しい金色の髪が一束、細く風に揺れている。オレは歩を早め、左隣に進み出た。
    「髪が少し出ております。どうぞフードの中に」
    「すみません。すぐに」
     緊張感でわずかに強ばっているものの、短い一言の中に気品と女性らしい柔らかさが耳に心地よい。白く細い指先が髪をフードの中に仕舞い込む。なんでもない仕草すら眩しいほどだ。ようやくここまで昇り詰めた。塀の下で初めてそのお姿を目にした時のことを今でも鮮明に覚えている。田舎出のオレにとって、目の前の方こそ命を賭けてお守りしたい存在なのだと。その時誓った。
     麗しきゼルダ様がオレの隣を歩いている。こんなにも近くでお声を、お顔を拝見するのは初めてだ。目元近くまで覆ったマスクから覗く、翡翠の輝きにオレの背を強い高揚感が走り抜ける。凜とした意思の強い眉、長く整った陽に透ける金の睫毛。そのどれもがオレの心を奮い立たせた。
     そう、今ここにあいつはいない。
     部隊に紛れ込んだ敵を燻り出すのは容易ではない。イーガ団の変装能力は高く、首領への忠誠心も高いからだ。姫の偽物を仕立てることに反対がなかった訳ではない。峡谷が狙われると予測してこその分断作戦。リンクこそ餌だ。あの圧倒的な力は精霊の加護を受け、魔物を引き寄せる。イーガ団とて例外ではない。あいつがいる場所にこそ、ゼルダ様がいるという強い刷り込みを払拭することは難しいはずだ。
     ゼルダ様。オレが必ずお守りします。
     心の内で強く誓う。そうこの瞬間の為にオレはがんばって来たんだ。マスターソードはなくともオレの手できっとお守りする。
     すっかり峡谷の入り口へとリンクを伴った本隊が消えた時、それは起きた。迂回路の山道。重々しい地響きが鳴り響いたかと思った刹那、巨岩が次々と轟音を立てて転がり落ちた。
    「散れっ!」
     仲間の声。間に合わない。とっさにオレはゼルダ様を突き飛ばした。視界の端でフードから金髪が広がっていくのが分かった。そちらは長い下草の生えた場所。怪我は最小で済む。自分の判断が正しかったと理解したのは、オレの左足を巨岩が弾き飛ばした瞬間だった。宙を舞う身体。反転する景色の中に赤黒い巨躯を見た。
     地面へと落下する直前辛うじて受け身を取ったが、背中を強打し息が出来ない。兜は衝撃で脱げ、右頬を鋭い痛みが走った。
    「く、そっ」
     オレは土と一緒に唾を吐き捨てた。
     イーガ団の襲撃に備えていたが、まさか魔物を煽動してくるとまでは予測していなかった。闘争本能が高い魔物は、英傑の方に誘い込まれるはず。巣を荒し、怒らせていたのかも知れない。立ち上がると、弾かれた左足から電撃の如き激痛が脳髄を暴れ回る。それでも、オレは草地に横たわったゼルダ様に歩み寄った。一歩ごとに叫びたいほど痛い。だが、そんな痛みよりゼルダ様の方が大事だ。
     近づくと気絶されているだけのようだ。安堵の息を吐く。峡谷の方でも土煙が上がっていのが見えた。おそらく、敵の本隊はあちらだ。ゼルダ様の額に掛かった髪に触れようとした時、ゾクリとした悪寒に振り向いた。
    「ヒノックス……」
     荒々しい鼻息がオレの前髪を揺らす。雄叫びを上げ、太い拳が降ってくる。ゼルダ様だけは守らなければならない。オレは振り下ろされる拳の前に身を投げ出した。重い打撃をオレを薙ぐ――。だが、その時は訪れなかった。代わりに聞こえたのは、力強く吐かれた呼吸音と肉と骨を断つ刃の音だった。
    「お前、なんでここにいるっ!」
     眼前で刃を振るうのは青い衣。リンクはオレの叫びには答えず、怒りに暴れ回る巨体の肩に飛び乗ると、最後の一撃を与えた。ドゥと大地が震え、同時に暗い赤紫の煙と共に魔物の姿は霧散していった。
     あの場所からここまでどうやってあの短時間で移動したのか。いや、最初からこちらに戻るつもりで行動していたのか。まさか読んでいたのか。頭の中を様々な疑問が駆け巡る。分かるのは、目の前のこいつはただ一人ゼルダ様を守るためにここにいるということ。
     オレはぐっと拳を握り締めた。確かにこいつは姫様付きの騎士だ。だが、今この場でゼルダ様の御身の守護を任されていたのはオレ。これだけは譲れない。身体を反転させ、薄く目を開き始めたゼルダ様へと手を差し出した。
    「大丈夫ですか。今、安全な場所にお運びします」
     白い頬に赤みが差す。瞼が開いて、小さく瞬く。ああ、美しい。もう少しで手が届く。だがオレの手は何かに払いのけられた。それはあいつの手。続けて声が聞こえた。
    「これは俺の役目です」
     憤るオレの横にリンクが素早く膝をつくと、なんの躊躇もなくゼルダ様の膝裏と背中に両腕を差し入れた。
    「なっ」
     息を飲んだオレを一瞥もせず、相変わらずの無表情でリンクはゆっくりと立ち上がった。
    「……リンク、ど……して」
    「貴女の傍にいるために俺はいます」
     ほんのり頬を染めたゼルダ様をリンクは揺るがない立ち姿で胸に抱く。姫の細い指先が青い英傑服を小さく握り締める。それは安堵の合図。応えるようにリンクの首がわずかに傾く。その横顔はひどく柔らかく見えた。
     お前、そんな表情……できるんだな。
     差し出したオレの手は空を切る。掴むものを失った手のひらに残ったのは苛立ちではなく、むしろ清々しいほどの敗北感だった。



                               了
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