他者の快感ないし快適さに対する怒りは自らで克服せよ 拙僧が親父との死闘を終えてラーメン屋に戻ると即席チームのヨコハマ入間銃兎とシブヤ有栖川帝統が話をしていた。ルナティックナイトメアの入っていた器はちゃんと空になっていた。
「またその話かよ。」
「大人二人の理性があんな可愛い子に保てるでしょうか……無事でいられるか心配で。」
「はあ?無事に決まってんだろ。」
「あなたは心配してないんですか。左馬刻はともかく天谷奴は胡散臭いじゃないか。」
「胡散臭さならウチのも負けないから大丈夫だろ。」
「しかも私にはなんか大変そうなメンツだな頑張れよって嫉妬すらないんですよ!」
「いや、普通ねえだろ。」
「なんの話してんだ?」
「コイツの恋人が嫉妬してくれないんだと。いつもだけどな。」
「はあ?入間恋人いんのか。」
別にいても不思議はないが自分の周りに色恋が存在しないからそんな話題は出ない。ま、そんなに興味もないからどうでもいいか。
「いますよ。そういえばあなた山田一郎と仲が良かったですよね。」
「は?一郎?」
まあ最近まで音沙汰なしだったけど疑いも晴れたしそれからは仲良いとは思うが。
「あーあ。」
帝統がめんどくさそうな顔をする。
「なあ、銃兎ぉ言わねえ方がいいんじゃねえか。怒られっぞ、たぶん。」
「そんなことないですよ。だいたい私と付き合ってることを言ったからって三郎が怒るわけないでしょう。」
「いや、怒るだろ。」
さぶろう、って一郎の弟だよなあ
「なあ、それ拙僧聞いて良かったやつか?」
二人の会話は勝手に聞こえてきた。しかもわざとかってくらいの大声。
「あ。」
と帝統がしまったというような顔をする。なんだこいつ天然か?自分で振ってたじゃねえか。
「ああ、聞こえてしまったのなら仕方ありません。あなた山田一郎と仲が良いのは一向に構いませんが末弟の三郎には絶対に手を出さないでくださいね。」
「はあ?まあ、出さねえけどさ。三郎って中坊じゃなかったか?」
「ええ。何か問題でも?」
まあ小坊主どもも結構手出されてるからそれと一緒かもな。男同士ってのも別に珍しくもねえけどそれは僧侶の世界だけかと思ってたけどそうでもねえのか。
「……ねえな。」
そうでしょうと入間は満足そうだが帝統の方はえっ?という驚いてる顔をしてる。
「今の会話問題ねえのか?」
「あんのか?」
「……ねえのか、な。」
「有栖川だってちゃんと恋人いますもんね。」
「は?ばか、なんで言うんだよ!」
「へー。みんなやることやってんだな。」
拙僧は修行が恋人だから関係ねえけどお盛んな奴らだぜ。
ラーメン屋を後にして寺に戻る。広間に布団を敷いて三人一緒に寝起きする。
「明日は四時起きで本堂の掃除な。」
「わかりました。」
「は?四時起き?無理だろ。」
「拙僧が起こしてやるから大丈夫だ。ここに来たら十四も獄もいつもやってっからお前らは無しってわけにはいかねえんだよ。」
「天国獄か。」
入間が呟く。獄がどうしたんだ。コイツとの接点なんかないはず。
「今、三郎と夜を共にしてますよね、天国獄。」
「あー……そうだろうな。一緒のチームだし。」
「バカ!乗るな!」
「三郎の可愛いパジャマ姿や寝顔を見たら絶対に恋に落ちるに決まってる。」
「は?」
「バカ!聞くな!乗るなって。」
「さっきヒマで電話かけたら神宮寺寂雷が大変だから三郎避難させたって聞いたぞ。」
「は?おい!そういう情報は今言うなって!」
「三郎になにかあったんですか!」
「知らねえけど楽しそうな声だったぜ。」
「バカ!おい!銃兎、三郎に電話すんなって‼︎」
帝統が入間のスマホを取り上げる。
「三郎の危機かもしれないのにこんな所にいるなんて……なんであなたが三郎を呼び捨てにしてるんですか。」
「は?三番手同士はよく集まらされるからな。呼び方なんてどうでもいいだろ。そんな嫉妬深いのこえぇよ。」
「嫉妬深くなんかありませんよ、失礼ですね。心配なだけです。」
「心配しすぎはよくねえな。三郎はお前のこと好きなんだろ?」
「……ええ、多分。」
「そこは弱えな。」
「だから、三郎は私のようにあたふたしたりしないんですよ。まあそこもいいところなんですけどね。」
「結局お前がベタ惚れってことなんだな。まあ良いんじゃねえかそれで均衡ってことだろ。」
「有栖川は三郎と一緒で何も言いませんしね。三番手気質なんでしょうか。」
「俺らはお前らとはちげーんだよ。」
「確かに十四もどうでもいいことよくビービー言ってんな。二番手はそうなのか?」
「さあな。幻太郎はそうでもないぜ。よくわかんねえ事は言ってるけど。」
「夢野先生は私には理解できませんよ。」
「だと。二番手は特殊なのかもな。」
「番手で括られるのは気分の良いものではありませんね。」
「「お前が最初に言ったんだろ‼︎」」
「はて。そうでしたかね。」
「あーやっぱ二番手ってそうやって人を煙に巻くんだな。」
「失礼ですね、煙に巻いたりなんてしませんよ。」
「なんでもいいけど早く寝るぞ。本堂の掃除遅れると親父がうるせえからな。」
…………
「ねみい。」
「なんでだ?」
「有栖川は規則正しい生活を普段してないからですよ。」
「銃兎は元気だな。」
「警察官は寝る時間も起きる時間もまちまちですし、勤務中は常に緊張してますからこのくらいはなんともないです。むしろお掃除くらいなら楽なものです。」
「まあ、雑巾掛けはヘタクソだったけどな。」
「ああいうのは慣れでしょう。有栖川だってできてなかったじゃないですか。」
「まあな。十四もできなかったしな。獄はジジイだから雑巾掛けもできるけどな。」
「年齢の問題ですか?」
「なら銃兎もできんだろ。歳はかんけーねえんじゃねえのか。」
「小学生の頃に廊下やら体育館の掃除してたって言ってたぞ、ドヤ顔で。学校で掃除なんざした事ねえから知らねえけどな拙僧は。」
「俺も学校で掃除はしてなかったな。」
「有栖川、学校行った事あるんですか?」
「あるわ!」
「それにしてもテレビ局ってヒマだな。なんかする事ねーんかよ。」
「ナゴヤから思ったより早く着いてしまいましたしね。ちょっとぶらつきますか。」
三人でテレビ局内をうろついていると昨日話題に上がっていた神宮寺寂雷率いるチームに偶然遭遇する。
しかし入間は軽く会釈してあとは知らん顔。昨日の夜の取り乱していたのが嘘のようだ。
「よお獄。昨夜は楽しそうだったな。」
「……シッ!寂雷は記憶飛んでんだから余計な事言うな。」
「獄、昨日の夜なにかあったのかい?」
「なんもねえ。な、三郎。」
獄の呼び方にも入間は特に反応しない。本当に昨日の入間と同一人物か?
「え、あ、はい。何もなかったです。」
三郎の方はなんかおどおどしているが何かがあって避難させられたってくらいだから少し動揺してるのかもしれない。
「なあ銃兎ぉ。あっちになんかあるぜ。行こうぜ。」
帝統が局内に飾られているオブジェを指差しながら入間の袖を掴む。
瞬間的に三郎が帝統をチラッと睨んでいたのを見逃さなかった。
なんだよ。どいつもこいつも嫉妬深えじゃねえか。
「じゃあな獄。あとでぶちのめしてやんよ。」
「そりゃあこっちの台詞だな。あんまし迷惑かけんなよ。」
パシッとハイタッチして別れる。
オブジェに向かって歩く入間の肩は落ちてるし帝統はそんな入間を表面上慰めているようだ。
よし、景気付けに二人の間にジャンプして割り込んでやっか!