嫉妬「オオサカディビジョン……どついたれ本舗?ふざけてんのかよコント集団か?」
土曜の夜だから泊まりに行っていいかと急に聞かれちょっと期待しつつ了承した。それなのに来るなり隣にどかっと座るとタブレットを立ち上げぶつぶつと独り言を唱え始めたのは恋人の山田三郎だ。
わざわざ俺の家に来て何してるのかと思えば敵の情報に釘付けじゃないか。
「白膠木簓はお笑い芸人だし面白いんだよなー。ラップは知らないけど」
は?面白い?なんだお笑いなんか見るのか?意外だししかも割と好意的じゃないか。
「天谷奴零……はいいや。わけわかんないおっさんだし。コイツは無視‼︎」
あ、これは嫌いなんだな。まあ、親子ほど歳の差のあるおっさんだしな。
「なんかもう一人は弱そうだなあ。眼鏡だし」
待て。眼鏡が弱そうってどういう了見だ。
「躑蠋森盧笙…漢字間違えそうだな」
漢字って。テストでもあるのかよ。そんな字普通出ないだろ。
「高校教師?……あ、数学の先生だぁ‼︎」
え?
なに?
すげぇ食いついてますけど。
「教師なんだから少しは難しいこと言ってもわかってくれるかなあ」
三郎の目がキラキラしている。
「学校でもさ、数学の先生だけなんだよね、僕の言ってることわかってくれるの。数の美しさとか解が見えた瞬間の感動とか……」
それは俺にはわからないな。
「オオサカ行くのちょっと楽しみかも」
は?
「おい!」
「なに?」
勢いで呼んでしまったが、特に用もない。
「いや、お前何しに来たんだ」
「明日の日曜ちょっとオオサカ行って確認する事があるんだよねー。その前に情報を頭に叩き込もうと思って。家だと独り言言ってるのを二郎にうるさいって言われるのがウザくて。銃兎はそういうの言わないじゃん。だから」
変な信頼を得ているようだ。声に出してアウトプットすることで情報を整理しながら頭にインプットする事自体は確かに効率的だし、そこに紐付けをする事も知識を定着させるのには有効だから行為としては気にもならないのは確かだが、内容によって動揺させられるこっちの身にもなって欲しい。
「あ、大丈夫。話が合うってだけで浮気なんかしないから。僕意外と誠実だからね」
十五も年下の恋人に不安材料を払拭してもらってホッとする自分。間違っても悟られたくはない。
「そんな事気にしないですよ。大いに遊んできたらいいんじゃないんですか」
大きく出てみたものの煽ってしまったことでムキになって大惨事になるかもしれないと更なる不安が内心を襲う。
「はいはい。しょうがないなあ」
そう言うと三郎が俺の頬にチュッと口付けた。
「ちょっと静かにしててね」
「……はい」
結局俺はコイツに敵わない。