私を愛し、そして私が愛した者の血肉が喉奥を熱く濡らす。両眼から溢れる涙と共にそれらを飲み下した。
最後の一滴まで残さずに。
「ヌヴィレット…」
ステージで項垂れる私の背中に声がかかる。
人払いをした歌劇場へ入って来れるのは、いまや麗しき"フォンテーヌ"の姓を持つ彼女くらいだろう。
たから、振り返らずにいた。
彼女はゆっくりとステージへの階段を上がってくると、私の背中に額を押し当てて静かに啜り泣き始めた。
出会った頃のあどけなさはとうになく、私の服の裾をキツく握ったその手には深い皺が無数に刻まれている。
しかし、彼女の美しさは全く色褪せず、人間として己の人生を謳歌した華々しさが一層引き立てるようだった。
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