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    hakujoumae

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    hakujoumae

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    魔神任務第四章第五幕ネタバレ
    リオヌヴィ

    「公爵ってほんっっっと大胆だよな!」
    水の上。歌劇場の奥。
    要塞の入り口までリオセスリを見送る為に、俺たち3人は並んで歩いている。
    フォンテーヌの空は青く澄んでいて、短い散歩にはちょうどいい天気だった。
    なんのことだ?というより、どのことだ?とでも言いたげに、彼はパイモンへ視線を向ける。
    「最高審判官ヌヴィレット。この国の超!要人。フリーナがパレ・メルモニアを去った今じゃ、実質のトップだ。500年近くフォンテーヌを見守って、今じゃ国のみ〜んなから慕われてる。オマケに、おまえはあいつの正体をはっきり知らないんだろ?」
    公になっていない事だが、リオセスリとヌヴィレットは恋仲にあるらしい。
    偶然知る事となった俺たちも、ふたりの詳しい事情については知らない。
    なにせ、このフォンテーヌにおいて深く触れてはならない空気感を放つ人物2トップ。この国の誰しもが気にしてるのに、踏み込んであれこれ聞き出すのに躊躇してしまう相手だ(シャルロットを除いて)。
    その点において、パイモンは普通の人より畏れ知らずだし、聞いてはいけない場所に触れればお利口に引き下がれる賢さも持ち合わせているので、俺は安心して喋るのを任せていた。
    「そんな相手と付き合える勇気ある奴なんて、なかなかいないと思うぞ…」
    うぅんと考え込みながら飛ぶせいで若干の蛇行運転気味なパイモンを、リオセスリは愉快そうに見ている。彼の手の中で特製の手錠が器用にまわった。
    「じゃああんたらは、“国を救った英雄“なんて称号のせいで友達になりたいと思った相手にも壁を作られたら、それを当たり前だと思うのか?」
    「うぅ、それは…。そんなの、おいらすっごく悲しいぞ。時々そういう態度のやつもいるけど、みんな話せばちゃんとわかってくれたし…」
    「あの人がどんな素性であれ、それを理由に遠ざける必要はないと思ってる。もし近すぎて距離を取る必要があれば、あっちからちゃんとそう言ってくれるしな」
    「そうだよな、ごめん…」
    「それに周りにそうやって彼と距離を取る人間しかいなかったら、あの人は一生孤独に生きる事になる。審判官という役職の者はヌヴィレットさん以外にも複数人いるが、他者と深く関わらず生涯独身であれ、なんて法は無いと知ってたか?カツラを被るというわけのわからない風習ならあるが」
    リオセスリは茶化すように話しながら、どこか遠くを見つめる様な目をしている。
    「人と寄り添って生きていいんだと知れば、この先で誰か特別な相手に出会ったときに、あの人から近付く事も出来るだろう」
    「えぇ!?」
    リオセスリの言葉に驚いてパイモンが大袈裟に後ずさる。
    「そ、そ、それって浮気って言うんじゃないのか!?なんでおまえがいるのに他の特別な相手と出会うなんて思うんだよ?」
    「パイモン…」
    日々を生きる事を全身で謳歌する俺の相棒は、数年後、数十年後なんて気が遠くなるような未来の話で、百年、数百年の時が人にもたらす別れというものを肌で知らないのかもしれない。
    神やそれに近い者達の口から五百年や千年の物語を幾度となく語られてきたとて、実際に経験しなければやはりそれらは御伽話にすぎないのだから。
    俺の声でパイモンもはっと息を呑んだ。俺の相棒は賢いから、リオセスリの言葉が遥か遠くに向かっている事にちゃんと気付いたんだ。
    「でも…、それでおまえはいいのかよ?寂しくないのか…」
    はっ!と吐き出すように彼は笑う。そこに躊躇いはなくて、この問題について幾度となく考えてとうに答えは出ているのかも知れないし、もしかしたら考えるまでもない事だったのかもしれない。
    「俺が死んでも数百年、きっとあの人は生きるんだろう。永遠に引き摺って生きろって?それこそ観るに耐えない悲劇だ。俺はただ、最初の一幕を共演出来る名誉があればそれで十分さ」
    リオセスリが歌劇場の先で立ち止まると、要塞の口が音を立てて開く。
    螺旋をえがく階段が彼の帰りを待ち侘びている水の下へ直接伸びているかのようにすら見えた。
    「じゃあまたな、リオセスリ!今度はおいら達が水の下に会いにいくぞ」
    またね。声を掛けて、降りて行くのを見届けずに背中を向ける。今生の別れではないのだから、あっさりすぎるくらいがいいはず。

    「リオセスリって思ったより愛情深い奴なんだな。あんな事を考えてるなんて、意外だったぞ」
    「自分の手に入れたものが他の人の手に渡るなんて嫌うタイプかと思ってた」
    歌劇場へ戻る通路を歩きながら、俺はパイモンとさっきの会話について振り返っていた。俺はパイモンとふたりきりだと、結構喋るタイプなんだ。
    「そうそう!おいらもそう思ってた!でもヌヴィレットが幸せだったら、自分が死んだ後に他の人を好きになるとして…も……」
    パイモンが最後まで喋りきらずにひっ!と小さく悲鳴を上げながら俺の背後に隠れる。
    通路の先、歌劇場の建物の入り口。壁の向こう。…居る。
    殺気ともなんとも言えない剣呑な空気が肌をついてビリビリする。
    反射的に剣を抜きそうになったけど、誰が居るのか探らずともわかったのでパイモンの背中を優しく叩くにとどめた。
    「2人にひとつ質問したいのだが」
    カツン。石造りの床を杖が叩く高い音に反して、地を這うような低い声が壁の向こうから響く。
    完全に目が据わっているヌヴィレットが、不穏な空気を隠しもせず現れた。
    「古龍の権能を全て取り戻した今、魔神に出来て私に出来ない事があると思うか?」
    の、呪う気だ!!!!!
    威圧されて冷や汗がダラダラ流れる。
    パイモンが俺の肩にしがみついてガタガタ震えている。それでも、これまで数多くの強敵を前にしてきた最高のガイドは己の使命を忘れなかった。
    すなわち、ツッコミだ。
    「お、お、お、落ち着けってヌヴィレット!フォカロルスはフォンテーヌを救う為に覚悟を決めてフリーナを呪ったんだ!大きな力をそんな風に使うなんてダメだぞ!」
    「しかしリオセスリ殿が要塞で管理者を出来るのはこの先もって50年。彼が私の眷属に加わり数百年先も要塞を任せられるのならば、国の情勢は盤石なものとなりフォンテーヌ人の為になるだろう」
    「それは確かに…」
    丸め込まれないで。パイモン、頑張って!
    「パレ・メルモニアの人員の入れ替わりは早い。長い時間を私と共に歩んだのはフリーナ殿とメリュジーヌ達だけだが、フリーナ殿はこの度呪いから解放された。メリュジーヌは美しく頼もしい隣人には違いない。だが彼女達は記憶力がそれほどよくない者も多く、数百年の道行を共に歩んだ仲間として語り合うには不向きなのだ」
    ヒリついていたヌヴィレットの声がだんだん落ち着いてくる。
    「また、彼女達は人とは明確に違う部分が多い。私はその点を高く評価しているし、警察隊やパレ・メルモニアの人間がフォロー出来る体制も作っているが…。国を積極的に統治した神は、璃月の仙人や稲妻の妖怪のように俗世で人の生活に混ざる事が出来る者を眷属として側に置いたと聞く。此度の予言に纏わる事件を経験して、そういった人間に近い者を眷属に迎えるのは私にとっても深い意味を持つように思う」
    「それは確かに…」
    丸め込まれないでパイモン。
    「でもでも!人の身と精神で500年生きるって事がどんなに苛烈だったか、おまえだってフリーナを心配してたじゃんかよ!!」
    「……。」
    おぉ、反撃が効いてる!えらいぞパイモン。さすが俺の最高の相棒。ここですかさず俺は相槌。
    「……。確かに、本人の意志を無視してそのような宿命を与えるのは、彼の尊厳を踏み躙るものだ。フォカロルスはそうせざるを得ない事情があった故のこと…。」
    ヌヴィレットは考え込むように黙ってしまった。
    「…折を見て、リオセスリ殿と話してみよう。」
    そこまで言って踵を返すと、ヌヴィレットは歌劇場の中へ去って行った。

    「……ふぅ〜っ!びっくりしたぁ!なんでフォンテーヌのやつって不意打ちで登場しがちなんだよ!?」
    杖の音が完全に消えたのを確認して、パイモンが息を吐いた。俺もやっと緊張がとけた気がする。
    「呑星の鯨を前にした時も周りの人間に殺気を撒き散らすなんて事しなかったのに、驚いたぜ…。ヌヴィレットってもしかして、リオセスリに先立たれる未来についてまだ具体的に考えたことなかったのかな…。あいつって時間感覚が完全に長命種のそれだもんな」
    「うん…。でもどちらかというと、リオセスリが自分の死を受け入れてその先まで考えてる事に対して悲しんでるみたいに見えた」
    パラパラと雨粒が落ちてくる。
    まだ歌劇場と要塞入り口を繋ぐ通路で呆けていた俺達は、数歩走って屋根の下に入った。
    「この雨は長引くだろうな…。ずっとここで雨宿りしてるわけにもいかないし、サーンドル河の入り口まで走ろうぜ、旅人!…旅人?」
    晴天だったはずの空は、今や曇天となって涙を溢し、少しずつ雨足が強くなっている。
    「ヌヴィレットって、本人が思ってるよりずっと情が深いじゃない?最近少しずつ自覚してるみたいだけど…」
    「おう、そうだな。おいらもそう思うぞ!優しいし、さっきの話だって結局はリオセスリのことがすっごく好きってことだろ?」
    「この先数十年リオセスリと共に過ごして先立たれたら…。記録的な豪雨がフォンテーヌを何日も襲って、とんでもない水害になるかも。」
    「そ、そんな、まさか…。あいつは水元素の龍王だぞ?最低限のコントロールくらい…。あっでもキアラの件で動揺してルキナの泉を沸騰させたりしてたっけ…」
    パイモンが青ざめている。絶対に無い、と言い切れない。きっとパイモンもそう思ってしまったんだろう。
    「も、もうこうなったら、水龍にみそめられた者の運命と思ってリオセスリに呪いを背負ってもらうしかないのかもしれないぞ…」
    宿に向かってパイモンがフラフラと飛行を始める。
    フォンテーヌの未来が明るい事を、俺も祈るしか出来ない。


    「おいおい気を付けろよ!要塞で公爵様の世話になりたくないんだったら、滅多な事はしないようにな」
    旅の土産にと気軽に砂浜で拾った貝が、まさかこの国の法に触れるとは思わなかった。
    懐に入れる前に止めてくれた現地の商人に頭を下げて礼をする。
    「教えてくれてありがとう、助かった。ところで、公爵様というのは?」
    「あぁ、旅の人だから知らないんだな。公爵様はこの二百年メロピデ要塞を管理しているお方だ。罪人の誰もが恐れる海底の番人さ」
    「二百年…。その方は神の……失礼、水龍の眷属か何かなのか?例えば璃月の仙人とか、稲妻の妖狐や天狗とか、スメールで噂される人形のような…。」
    「さぁな。実はフォンテーヌ人もあの方について詳しくは知らないんだ。ただ噂によると、龍の祝福で長く生きている元は人間で…」
    フォンテーヌの商人はどこか誇らしげに話す。
    「水龍の伴侶だそうだ」
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