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    岩藤美流

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    岩藤美流

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    ワンライお題「金」

    思いついた時はありがとうも入ってたはずなんですが、なんか書いたら無くなってました。あまーーーーーいってやつです

    ##ワンライ

    そこにあるはずの温もりを求めて、布団の中で腕を動かす。ぽふぽふ、とシーツの上を探っても、他の存在を見つけることできなかった。不満げに小さく呻いて目を開けると、そこは薄暗いアズールの部屋だ。少し離れたところに机と、それに向かう恋人の姿を見つけた。
     間接照明が照らし出す中で、寝間着に身を包んだアズールが何か書類を見つめている。イデアはもぞりと布団から出ようとして、自分は裸のままであることに気付き、きょろきょろと寝間着を探す。そういえばアズールの部屋で情事に及んで、そのまま眠ってしまったのだった。彼と夜を共にできる機会は少ない。熱く濃い夜を過ごした後は、幸福感に満たされながら一緒に朝まで眠るはずだった。ところが、肝心の恋人はどうやら仕事に勤しんでいるようである。
    「……ああ、すいません。起こしてしまいましたか」
     アズールはイデアに気付いて、苦笑いを浮かべた。近くに有った寝間着を身に着けながら、「仕事?」と尋ねると、アズールは小さく頷く。
    「会計の計算が上手くいっていないみたいで。こういう細かなことは自分でやったほうが安心できるんですよ。ただ今回は少し量が多くて……時は金なりと言うでしょう? 早く片付けてしまいたいところなんですが……」
     書類の束を見ながら、アズールは溜息を吐く。それは彼のモストロ・ラウンジの経営が上手くいっている証でもある。それ自体は、良いことなのだろうけれど。
    「会計、ねえ。……何か特殊な計算が必要なの?」
     椅子に腰かけたアズールに、後ろからもたれかかる様にして身を寄せる。シャワーを浴びたのだろうアズールの髪はいつものように柔らかくて、いい香りがした。
    「いえ、特には。一般的な会計処理と同じだとは思います。ただ我が寮にはこういうことに慣れている者があまり居ませんので……」
    「ふうん……」
     イデアは「見ていい?」と断ってから会計書を手に取り、目を通す。一般人が見たら眩暈がしそうなほど、数字が書き連ねられたそれに目を通しながら、「これならシステム化できそうだけど」と呟く。
    「今これ処理するのにどれぐらいかかってる?」
    「ええと……ジェイドと二人なら1日あれば、なんとか」
    「どうせ睡眠時間削ってるんでしょ、自動化したら楽なんじゃないかな、アズール氏ってタブレット使えるっけ、まあ使えなくても覚えれるっしょアズール氏なら。会計システム作ってあげるからそれでやりなよ」
    「それは……ですが、イデアさんに頼む訳には」
    「時は金なり、なんでしょ、無駄な時間は短縮するに限りますわ。これぐらいのシステムならすぐ作れるし、少なくとも計算の間違いとかは起こらないようにできるよ。金額入力するだけだから、アズール氏じゃなくたってできるようになるだろうし。ついでに在庫管理とか注文の数とかも計算できるようにしたらお店のやりくりも楽になるんじゃない」
     その提案にアズールは書類の束と、イデアとを見て、それから「対価は」とお決まりの言葉を口にした。そうくるとは思っていたイデアは、「自動的に受け取れるから考えなくていいよ」と返す。すぐにアズールから離れて、ベッドに潜ると布団をひっ被った。
    「どういうことです、イデアさん」
    「考えなくていいってば」
    「ですが、僕は対価無しでは約束はできません。イデアさんだってわかっているでしょう」
    「……時は金なりって、言うんでしょ」
     イデアは布団の中に包まったまま、小さく答えた。
    「そうやってこんな時にも仕事しなきゃいけない状況じゃなくなったら、朝まで一緒に寝れるでしょ」
     言っていて恥ずかしくなってきた。ううー、と呻いていると、いつのまにやらそばに来たアズールが、布団の上からぎゅっと抱きしめてくる。イデアさん、ごめんなさい、とかなんとか言っているのが聞こえた気がするけれど、布団の中ではよく聞き取れない。仕方なくもぞりと顔を出せば、その頬に触れられて、優しく口づけられる。それを受け入れながら身を任せて、再びベッドに入って来たアズールに抱き締められた。
    「ああ、もう、恥ずかしいこと言わさせられた、もう無理、拙者寝ますわ」
    「……そうですね、寝ましょう、朝まで抱きしめていてあげますよ、あなたに寂しい想いなんてさせません」
    「寂しいとかひとことも言ってないですしおすし、自意識過剰乙……」
     形ばかりの否定をしつつも、イデアはアズールの胸に顔を埋めた。求めていた温もりが戻って来たことを喜びながら、再び微睡に身を任せ、目を閉じた。
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