女神的惩戒与远旨 / 女神の罰と思し召し 「私のこと、おぼえていますか?」
と聞いたら、元騎士として表情など一切ないはずの彼は、とても悲しい顔で「はい」と返事をしてくれた。
(良かった、百年が経って、一度記憶をなくしましたけど、もとに戻りましたね)と思っていたが、完全に私の勘違いだった。
リンクが思い出したのは、ただ私の近衛騎士になってからのことだけだった。
百年前どうやって退魔の剣を手に入れたのか、小さい頃ミファーと出会ったことなど、家族のことさえ思い出せない。
でも、これでいい、私のことを全て思い出せなくてもいい。
リンクが笑って生きていてはもう十分だ、私にはこれ以上の望みはもう何もない。
……とはいえ、もし何か望みがあるとすれば、確かに、リンクがずっと私の傍にいることしかないのでしょう。
そして、すごく時間がかかりましたけれど、まるで女神様が私の願いを聞いてくれたのかように、私とリンクは恋人になって、結婚することも決めた。
これはきっと女神さまからのご褒美なんでしょう、ハイラルを守った私たちへのご褒美だ。これからやっとリンクと一緒幸せに暮らしていけるでしょう。
毎朝同じベッドで目を覚まして、一緒に食事をして、一緒に時間を過ごして、一緒になんて事ない話をして……
この世でこれ以上の幸せがあるでしょうか?
「ないでしょう。」
リンクは私を優しい瞳で見下ろしてそう言った。
なんてかわいい人なんでしょう、私は「ふふっ」と笑ってリンクを抱きしめて、「ずっと一緒にいてくださいね」と、深いキスで約束した。
しかし、この幸せも花のように、すぐに枯れてしまった。
——ガノンドロフが復活してしまった。
短い時間だけど、私は確かリンクと一緒に幸せな時間を過ごした。彼の匂い、彼の熱さ、彼の笑顔、全てが私の宝物。百年前は一度奪われたけれど、今度は誰にも彼を奪うことはさせない。
ずっと一緒にいてなんて、まるで噓みたい。
いいえ、噓になってしまった。
ハイラルの人々のために、そして、リンクのために、私は約束を守ることが出来ない。
でも、噓じゃないとも言える。
龍になったら、きっと、空でずっとリンクを見守ることができるんでしょう。
「ごめんなさい、リンク、姿が変わるけれど、私はずっとあなたの傍にいますよ、これはけして噓じゃないんです。」
——泣いちゃだめ、泣いちゃだめよ、私。
「だから、リンク、世界を——」
——なんと不器用なんでしょう、泣いちゃだめなのに。
すべてが夢だったら良かったのに。
ただの私の悪夢だったら良かったのに。
そして目が覚めたら、きっと、リンクが傍にいて、「大丈夫?」って私を優しくて抱き締めてくれる。その温度がどれほど心地よいのか、私しか知らない。
そう、こんな風に。
「え?リンク、どうして——」
どうして私が……そして、どうしてリンクがまだそんなに悲しい顔を……
そっか、全ては、私のため。
でも——
「ただいま、リンク」
また会いできて、本当に良かった、今度こそ、今度こそ、あなたの傍から離れない。
————
今思うと、あの時の事はリンクの心に大きな傷を残したのでしょう。
人間の姿に戻って以来、リンクは前よりも私の事に敏感になった。一人での行動は制限され、外で手を必ず繋ぎ、少しリンクの目線から離れると焦ったり……
「もう何処にも行かないですから安心して」
手を繋げたままにリンクの頬に軽くキスをした。何か言いたげた顔をしたけれど、最後は「はい」と一言だけリンクは返事をしてくれた、でも手を放すことはなかった。
きっと、心の中に「前にずっと一緒にいるって約束したのに」という不満があるのでしょう。これは、確かに私のせいかもしれない。
そして、リンクの状況はどんどんおかしくなっていった。
ぼんやりとしている時間が増えて、寝坊する事も良くあった。
(なんでしょう、体の具合が悪いのでしょうか?)
普段ならもう起きる時間なのに、リンクは今まだ静かに寝ている。
「ねえ、リンク、目を覚まして——」
………………
………………
………………
返事がこない。やはり体調が悪いのでしょうか?
少し心配して、リンクの額に手を置いた。
——熱がない、これで少し安心したけれど……
(なら、どうして起きないの……?)
「ねえ、リンク、目を覚まして——」
彼の体を少し揺らしたが、やはり反応しなかった。ここまで目を覚まさないのもやはりおかしい、私も焦りだす。
「リンク、起きなさい!」
「ううん……」
やっと目が覚めた。
「ねえリンク、どこが具合が悪いのですか?いくら呼んでも目が覚めないので……」
「すいません、ちょっと寝坊した。」
リンクは私の手を握って、まるで子供のように私の胸に顔を埋めて、抱き締めた。彼の髪がポサポサでちょっとくすぐったい。
私思わず彼の頭を撫ではじめた。
「最近よく寝坊しますね、心配していますよ。」
「ゼルダが傍にいて、心地よすぎて仕方ないんだ……」
と言いながら、私にキスをした。
「もう、リンクらしくないですよ、寝坊なんて。」
「俺が嫌いになった?」
リンクはまるで捨てられた子犬の様な顔で私を見た。
「そんな訳がないでしょう。」
私もリンクを抱きしめて、キスを返した。
「リンクが大好き、いいえ、愛していますよ、この世の誰よりも、ずっと傍にいたいんです。」
まるで傷を突かれたように、リンクが一瞬に眉をひそめた。
「すいません、もう寝坊しない……」
「ふふ、たまにはいいですよ。」
もう完全に平和を迎えた今なら、いくら寝坊してもいい。
「リンクはいつも頑張りすぎです。」
「ゼルダのためなら、それくらい……」
「まあ、嬉しい。」
そして、次の朝、リンクは約束通り寝坊しなかった、けれどまるで代償のように、彼の記憶が再び欠落した。
————
つづき