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    かるかん

    @calucan_line

    宇宙とSkyの絵をまったり描いてます。
    (備忘録として一次創作のネタ帳も置いてます)
    ※お絵描き練習中
    ※無断転載NG

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    かるかん

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    備忘録がてら昔考えてた一次創作のネタを掘っくり返してたら、少し書き書きしたのが出てきたので投げてみる。

    魔法学者を目指す女の子と、自称大錬金術師を名乗る怪しげなお兄さんのお話……。

    #一次創作
    Original Creation
    #ファンタジー
    fantasy

    大錬金術師の御用達親愛なるナターシャへ。


     お元気ですか?
     そちらは何も変わりはありませんか?

     あたし? あたしは──、そうね。

     驚かないでね。
     実はあたし、春に見習いを卒業したの!

     これでようやく、学者の卵を名乗れるようになったわ。

     学者よ! 学者!

     と言っても元々の階級が〈学者手伝い〉だったから、手伝いから見習いに上がっただけで本当の卒業はまだ先なんだけどね。それでも、父さんから貰った本を眺めてるだけのあの頃からすれば本当に夢みたいだわ。

     とにかく私、カル=チェ・アーニャは今年の春から〈学者見習い〉になりました。

     ちなみに、こっちでは階級が上がることを“クラスアップ”って言うみたいね。ほんと、ここ一ヶ月は昇級の手続きやら引っ越しの準備やらでずっとバタバタしっぱなしだったわ。
     お返事遅くなってごめんなさい。
     これって、最初に書くべきだったわよね。

     それで今は、イゾラシアの南の方にあるマルシャっていう街で暮らしています。

     そこの商店街で、道具屋さんをやってるの。
     道具屋と言っても冒険者じゃなくて大学に通う学生さん向けのお店でね、魔法実験で使う道具だったりちょっとした試薬を売ってるの。
     店なんて今までやったこともなかったけど、周りの人達が助けてくれるお陰でどうにかこうにかやっていけてるわ。
     今はまだ店のことで手一杯だけど、もう少し落ち着いたら自分の研究の方も頑張っていくつもり。……本当は、大学に入って研究に専念したかったんだけどね。

     マルシャはとてもいい街よ。
     暖かいし、街の皆は優しいし。食べ物も美味しいし。

     何より、すぐ近くに海があるの!
     海なんて初めて見たわ!

     イゾラシアやフーゼと比べたらパクトは海そのものが少ないしイーゼンなんて山や岩ばかりで土や霧の匂いしかしなかったけど、ここではどこにいても海と太陽の匂いがしてくるのよ。
     吹いた風から潮の香りを感じた時は、本当に感動しちゃった。あぁ、今すぐあなたをマルシャに連れて行きたいわ!

     こっちはもうすっかり初夏の陽気だけど、そっちはまだまだ寒いのかしら。
     トパリン山の雪は、もう溶けた?
     まだ残寒の厳しい日が続くかもしれないけど、くれぐれも体調には気を付けてね。それと、おじさんとおばさんにもよろしく伝えといてください。

     今回は、返事が遅くなって本当にごめんなさいね。次はもう少し早めに返せるよう気を付けるわ。

     あっ、そうそう。
     ラタンがよろしくとのことです。

     あの子、随分とあなたに会いたがっていたわよ。まぁ、本人はあなたの作るミートパイが恋しいだけだって意地張ってたみたいだけど。

     書きたいことはまだまだあるけど、とりあえずここまでにしておくわ。

     それでは、また。
     あなたに会える日を楽しみに待ってます。


    愛を込めて、アーニャより。


    ******


     オレンジ色の日差しの中で、教会の鐘が碧く響いた。

     寄り道しに来た海鳥の声。
     暗号語混じりの喋り声。
     気取ったような靴の音。
     遠くでさざめく波の気配。

     そんな何気ない暮らしの日常達が、微かに香る潮風に乗って開け放たれた窓から流れ込む。

     そろそろ、昼も中頃かな?
     奥のカウンターで帳簿を付けていた私は、作業の手を止めぼんやりと外を見る。
     夕方のピーク時間まで、あと半刻。
     つかの間の平穏というものなのか、嵐の前の静けさに思わず小さな欠伸が漏れた。
     品出しは完璧、作業の方ももうすぐ終わる。いつもならこの時間帯は夕方に向けての準備で大忙しなのだが、今日は珍しく穏やかな時間が続いていた。
     ここらで一息、入れようか。
     曲がった背筋をうんと伸ばし、溜まった息を外に出す。
     こんな時は、無性に熱いお茶が欲しくなる。
     今の時期だと、ダリジン辺りが主流だろうか。個人的にはアーグレールが好きだけど、茶葉の好みは土地によっても変わるからここでは全く違うものが流行っているのかもしれない。

    ──そういえば、先生のところじゃ決まってカンカラ草のハーブティーを出してくれたな

     まだ傷がついてない天板に頬杖を突きながら、二月前までお世話になった学舎の味を思い出す。
     故郷パクトを離れて早三年。
     父の紹介で師匠を訪ね、屋敷の門を叩いたのもちょうど今頃だった気がする。
     あの頃はまだ右も左も分からなくて、ああだこうだと言われながら必死で先生の話を理解しようとしてたっけ。それが今や師匠の元から独立し、さらに店まで始めるなんて誰が想像出来ただろうか。

     窓の向こうのすぐ側を、子供が数人通り過ぎる。
     恐らく、学堂帰りの子達だろう。そのはしゃいだ声に終わりの気配を感じた私は、もう一度大きく息を吐くと毟りかけの羽ペンを手に取り再び作業に取り掛かった。
     まだ石膏の匂いが残る真っ新な頁(ページ)を開き、浸したペン先で蝋板に走り書いた金額を記入する。ここに来るまでは見たこともなかった算盤の扱いも、一月もすれば慣れたものだ。
     刻んだ文字を目でなぞり、帳簿と見比べ漏れがなければこれでお仕舞い。指先でパチリと最後の桁を弾き入れ、すんなりと揃った合計と額にほっと胸を撫で下ろす。


    「──さて、古より続く黄金の軌跡を辿り、深淵の迷宮に潜む謎を紐解くことこそが魔法学の神髄たるものだが、それらをより深く読み解くのであれば先ずは魔素について理解するのが手っ取り早いだろう。『アルネリアの定理』にもあるとおり、魔素とは自然界における霊的分子の一つで、主に生物や無機物に作用し神秘的な現象をもたらす不可思議な力の根元とされている。歴史の方も古くてね、古代カランギナ王朝の時代には既にその存在が知られていて、王朝最古の文献『ヤーナの書』にも多くの記録が残されていたんだ。ところで、この魔素というもの。一般的には“精霊達のお節介”の名で広く知られている訳だが、我々の業界では魔法術の原動力として用いられていることはもはや常識と言っても過言ではない。本来、魔法や魔術というのは万物の理から逸脱した狂行であり従来の自然律下では成立させること自体不可能なのだが、事象の狭間に魔素を介し天理と摂理を歪曲させることでそれを可能にしている。基本的に魔素は心像と具現を繋ぐ誘因要素として働き、魔法使いや魔術師はこれを意のままに操ることで超常的な現象を発現させる。よく、魔力という言葉を耳にするだろう。あれは連中が勝手に作った造語の一つでね、正確には魔素を操る能力の事を言うんだ。場合によっては体内に蓄積された魔素量を指すこともあるのだけど、正直これについては魔法学の一端を担う者として些か釈然としないところがあってね。そもそも魔素というのは魔法学の祖〔義憤〕のダーラムが『地に満ち、世界を巡るもの』と定義しているように、あくまで数多ある物質の一つとして大気中に漂い循環しているだけの存在だ。対象物に憑依することで不可思議な影響を与えはすれど、それ自体に何かしらの力が秘められてる訳ではない。つまり、魔素だけがあったところで何の役にも立たないのさ。魔素はいわば、道具のようなものだ。どんなに優れた物であれ使いこなせなければ只のガラクタでしかなく、それと同じでいくらその身に大量の魔素を抱えていたところで扱う技術がなければ一切の意味を成さない。道具というのは、使われてこそ価値を得るというもの。だからこそ技術としての魔力は術を行使する上でとても重要な存在になるのだが、どういう訳かそのことを理解していない人達が多いみたいでね。魔素量としての魔力ばかりを重宝がったり、魔素と魔力の区別すら付いていなかったり、挙げ句の果てには保持している魔素量が多いというだけで傲り偉ぶる奴らが出てくる始末。まったく、実に嘆かわしい限りだよ。とはいえ、魔素というのは現代の技術をしても未だ分からない点が多くてね。これだけ長年に渡り深く浸透しているにも関わらず、その殆どが謎に包まれたままなんだ。どういった仕組みで作用しているのか、どのような構造を持った物なのか。マナ、スフィラ、エナジー。やたら似たような概念が多いのはそのためさ。どんなに偉大な学者達も“そういうもの”と形容することでしかその影を捉えられず、誰一人として真の姿を掴めた者はいなかったのさ。まぁ、それはさておき。やはり、魔素について語る上で忘れてはいけないのが属性についてだね。『全ては無から始まる』と言ったのは、確か魔法論理学の父〔探求〕のリヴェロだったかな。原則としてこの世に存在する全ての魔素は何かしらの属性を持っているが、生成されてすぐの状態ではどの属性に属していない。属性というのは我々で言うところの自我のようなものでね、これがないと非常に不安定な状態になってしまうんだ。なにしろ、“自分”というものが定まっていない状態だからね。だから、生まれて間もない魔素は安定した形になるために自身の性質を変異させて各属性へと分化していくのだけど、元々変容性に富んでいる分周囲の環境の影響を受けやすくどの属性に分化するかも滞留した場所によって変わってくるんだ。属性の種類については教本『コルフェの手引書』より公式に定められたものがあって、全ての礎として【火】【水】【風】【土】、さらに風から派生した【雷】を入れた五種類の属性を俗に《基本五大属性》と呼んでいる。まぁ、これに関しては医療や調理の現場でも使われているから、魔法師や法術学者でなくとも知っている人は多いだろうね。それで分化後の魔素についてだが、一つの属性に固定化されることで安定性を得ることが出来たものの今度は他の属性を自身の領域から排除する動きが見られるようになってね。特に四元属性の火と水、水と土、土と風、風と火においてはそれが顕著で、ひとたび触れるだけで強い拒絶反応を示すようになってしまったんだ。そうして生まれたのが各属性間での強弱関係で、さらに戦術として組み立てられたのが《属性相性》だ。元々は魔物などの魔法生物に対抗するために編み出したものでどちらかと言うと法則としての色合いが強いのだけど、これがなかなか厄介な相手でね。純粋な強弱関係に加え、魔防、物防、特防といった付加要素の数々。ただでさえ被ダメージ量一つ計算するのにも複雑な数式が必要だというのに、互いのスキルや環境による能力変化等の変動要因のおまけ付き。流石の私も、全てを把握し切るまでは随分と苦労させられたよ。少なくとも、この手の話は冒険者職の人間の方が詳しいはずさ。彼らにとって属性相性は、武器の扱いよりも先に習うと言われるほど基本的なことだからね。それこそ、聖書の一節よりも馴染みがあるんじゃないかな。ちなみに、この国を始めとした神魔信仰圏ではこれら五属性に対しさらに【聖】と【闇】の二属性を加えた《七大属性》を基本的概念としているのだが、他の属性とは異なり自然的に発生したものではないとされている。その起源については諸説あるが、一番有力なのは神たる存在と魔なる存在が与えたという説かな。聖と闇、それこそ相反する対極的な存在のように思えるけど、面白いことにこの二つの属性は条件さえ揃えばコインの面がひっくり返るようにどちらにも転じるという特性を持っていてね。まさに表裏一体、天が魔に墜ちればその逆も然りといった寸法さ。この性質をよく表しているのが、女神アルラと魔王アルゲスの話だね。一柱の神から生まれた二対の姉弟神アルラキトスとガラノスが守護神及び魔王として対立する様子を描いた物語で、この国では誰もが知っている有名な御伽話の一つなのだけど、二柱(ふたり)が対立するまでに至った経緯については今も学者達の間で論争が続けられていてね。勢力争い論や内部抗戦論、はたまた他神による陰謀論などなど。由緒正しき伝説から根も葉もない俗説まで、様々な学説が飛び交っている状況だ。その中でも、今話題となっているのがルクスの観測塔に在中するとある占星術師が唱えた説でね。確か『享楽者の弟が厳格な姉の気を引くため自ら魔へと墜ちた』という内容だったはずだが、他の伝承と合わせ見ても合致する点がいくつもあり、さらにそれに纏わる逸話も数多く残されていることから近年出されたものの中でも最も有力な説の一つとして注目されているんだ。これはあくまで風の噂で聞いた話だけど、現在学会内ではこれを正式なものとして認めようとする動きが出ているらしくてね。当然反対派の学者達はこれに反発しているのだけど、近頃古代神話学の権威〔浄化〕のメンブレンが推進派の呈出した願書に署名したことで両者の対立はより激化し、学会内は一層渾沌を極めているとの噂で──」


    「あのう、シュレウスさん」
    「なんだい、アーニャ君」

    「そろそろ、帰ってもらえませんか?」
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