傷の上には赤いBLOOD「ばーん」
適当な推理小説のページをめくっていた昼下がり、棒読みでそういった彼は僕に銃口を向けていた。手に握っているのは覚えがある光線銃の玩具だ。
「メヴィウス? それ、まだ持ってたのか」
「おまえの形見だぞ、捨てるわけないだろ。荷物整理してたら出てきたんだ」
「残念ながら僕は生きてるし、この世界ではなんの意味もないただの玩具だし、君もちょっと忘れてたんじゃないか」
突っ込みながら手を伸ばせば、思ったより簡単に手渡された。手によく馴染む銃を握る。異世界ではそれなりに長い付き合いでもあった。思えば、こんな殺傷力もないような玩具が実弾と変わりない効果を持っていたのだから、おかしい世界だ。
僕はそれをまっすぐに彼に向けた。あの日の尋問室でそうしたように。余裕でこちらを見る様子と、傷だらけでぼんやりとしていた少し幼い彼が重なり、記憶がフラッシュバックする。
「これがくだらない正義の成れの果てだ」
あの時、言い捨てて引き金を引き、目を見開いたまま血にまみれていく顔を見下ろした。強い意志を宿していた瞳は光を失い黒く淀み、力なく机に伏せる。消音器を外した拳銃を手早く握らせると、まだ手のひらはほのかな体温を残していた。広がる血の海を鼻で笑い、部屋をあとにした。
殺したと思った瞬間の胸に広がる苦みと、それを超えた歓喜の味。それがすべて相手の術中だったと知って歯噛みしたのもまだ克明に覚えている。
「ばーん、なんてね」
今度は僕が引き金を引いた。軽いそれは見えない光線で彼の眉間を貫いたはず。彼は自分の額を押さえて何でもないように笑う。
「撃たれた」
なんの傷もないそこに、赤黒い穴が空くのを幻視する。本当に殺してしまえたら、コイツはもう、どこにも行かないで永遠に僕のものにできるのに。
「……くだらない」
この感傷も、この遊びも。
あの頃の必死な気持ちももう今は果てて、死なないままコイツと息をしている。
「そう言うなって。大事な思い出のひとつだろ」
異世界で幾人もの人間を撃ち抜いたその銃も、おまえが握ればただの玩具になる。きれいな思い出の一欠片として。なんだかそれがやけに気に入らなくて、銃を投げ捨てて腕を引き寄せ、その唇に噛みついた。
「痛っ……噛むなよ」
「別にいいだろ」
そこに滲む血を舐め取って、鉄錆の不味さに顔をしかめる。溢れるそれは生きている証のようで、もっと拡げてやりたくなった。そのまま口内を犯していけば腕が首に絡んで体重を預けられる。生殺与奪の権利を与え合っているような、この瞬間だけは間違いなく僕のものだ。
「珍しい、おまえが乗り気なの」
「うるさいな。嫌なのか?」
「ううん。嬉しい」
きれいな思い出じゃなくていい。血を流すような生々しい記憶がいい。簡単に忘れられるようなものであってほしくない。傷を抉るように、もう一度手の中の獲物へ噛みついた。