書き溜めてた物………とある噂が、裏路地の中で持ちきりになっていた。
『マエストロ』、そしてそれに付き従う物の話。
そして、都市伝説というワード。
ヘンリー「十中八九、エルフィンドさん達の事でしょうね。」
ヘンリーはいつものように物を仕入れながら、辺りの話に耳を傾ける。
ヘンリー「………ふむ、そうだな…。」
1度考え込む仕草をした後、先程気になるワードを口にした人達に話しかける。
ヘンリー「ねぇねぇ君達、さっきの都市伝説の話聞かせてよ。」
「あぁ?なんだ?情報は有料………」
「まて、こいつ…ここらじゃ有名な商人だぞ?滅多に顧客になれるやつが居ないっていう…」
ヘンリー「あーバレちゃった?…それじゃ、商売と行こうか。
私が欲しいのは『情報』、君達が求める物は?何でも一回ならご用意してあげよう。
…ま、情報に見合った、だけどね?」
そう言うと目の前の男達はこう言った。
「…貴方の店と取り引きする権利を。」
ヘンリー「……ふーん、案外賢いじゃん。情報によるかな。有能な物なら顧客と認めよう。」
そう言うと、ゆっくりと話しだした。
『マエストロ』には、仲間が三人居る。
それぞれ『マスカレード』『シールダー』『ヴェスパー』と言うらしい。
何者かは分からず、何をやったのかもわからない。それでも、噂だけは流れている。
…また、対面した奴は気が狂ったかのように『うたが、うたがきこえる』と繰り返していたようだ。
ヘンリー「(……恐らく、エルフィンドさんはその『マスカレード』ってやつだろうね。残りは…守るとワードがあった『シールダー』がキンスリー、という人だろうし、消去法で『ヴェスパー』がジョシュアという人かな。『マエストロ』はどうせ事案の犯人だろうし。)」
ヘンリー「……そ、教えてくれてありがとう。これは対価だよ。」
そう言って私は2回までかかる店の電話番号を渡した。
ヘンリー「回数制限はあるけど、基本的に金があるなら特殊な物以外の大体のものは用意できる。その電話番号自体もお金になるかもね。自由に使ってくれて構わないよ。」
そう言うとその男達から離れる。
どうせ僕の店だ。情報収集に体良く使っても怒られない。
その後も、何か知っていそうな者達に話しかけ、情報収集をしていく。
その中で気になる情報を聞いた。
「そのマエストロってやつは知らないが、外郭の調査に行ってたやつが気が狂って帰ってきたとかなんとか…俺の弟もその一員でさ、はぁ………。原因も分からないし、やるせないよ…」
ヘンリー「気が狂った?詳細は?」
「さぁな、なんか突然できた不気味な建物の調査に行ったという事は分かるが、それが原因なのかその周辺にいた化け物が原因なのかはこれから調べるんだとさ。」
ヘンリー「…それも無駄死にしないといいけど。」
「どうだろうな、これ以上は俺は知らん。その調査が始まったのか、まだなのか。俺には声がかかってないってことだけは分かるな。」
ヘンリー「(不気味な建物…か。リーダー達は今頃共同会議に出ている頃だろうし…帰ってきてから話すとしようかな…にしても。
余りにも都合が良すぎる。……『マエストロ』の噂に、外郭の謎の建物の話。
まるで……
早く、見つけてほしかったかのように。)」
ヘンリー「あーもう、一人で考えても埒が明かない……とりあえずこの話は持ち帰ろう…リーダーの言うとおり、中々に厄介だなぁ…。」
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ライラ「急患です!早く道を開けて!」
帰ってきたと思ったら、開口一番にそう言い放ち、遺体にも見える程ボロボロな状態の職員が運ばれてきた。
そして、そう叫んだライラでさえ、立っているのがやっとの状態だった。
ライラ「……っ、ガハッ…」
キャシー「ライラ君!…もう無茶しないで、早く治療室に…」
ライラ「僕は…後でいいですから…早く先輩を……!っ…」
そう弱々しく指差した先には、先程の職員…両腕がちぎれ、片足も欠損し、腹には穴が開いている状態のメルレインがあった。
ライラ「…星の音防具の…おかげでなんとか命だけは留めてあります…治療室にさえ行ければ…きっと…」
そう、いつもよりも真剣な顔で言うから。
思わず頷くしかなかった。
その後…大体一週間後だっただろうか。ライラの怪我が回復するのを待ち、改めて被害状況を共有する事となった。
ライラ「…率直に言うと、作戦は大失敗。他の支部もほぼ全滅状態のようです…。」
うちも、そうですけどね。そう付け加えていた。
ライラ「傀儡職員達は正式に都市悪夢へと、黒幕のシズは都市の星へとなったようですね。僕が寝込んでいた一週間で…
…その事を踏まえ、今後の事案は全てフィクサー協会にお任せする事となりました。…まぁ、うちの最高戦力を出しても到底叶わなかった相手でしたし…妥当でしょうね。」
ライラ「…そして。」
改めて、キャシーの方を向き真剣な雰囲気で語りだす。
ライラ「職員メルレインは…一週間経っても回復の兆しが見えない為、さらに一週間経っても復活しない場合……記録チームでの復元作業を行うそうです。」
復元作業。それはつまり、今のメルレインを破棄し、まだ無事だった頃のメルレインを復元するという事。だからこそ、言い出しづらかったのだろう。
キャシー「…そう、分かったわ…。」
ついで、と言わんばかりにエルフィンドや他の亡くなった職員の復元作業もすると報告があったが、記録チーフのマリカによると
「エルフィンドさんの記録だけは綺麗サッパリ消えてましたわ。まるで最初から居なかったかのように。だから、私は別職員に装備を回す方が懸命だと思いますわ…」
とのことだ。
……ライラの自室にて。
ライラ「……全く、叶わなかった。」
僕が生き残って先輩を運べたのだって、偶然当りどころが良かったのと…
ライラ「…この力に、救われるときが来るとは。」
人ではない僕だからこそできる事。
ただでさえ少ない寿命…生命力をさらに使い、他人又は自分の身体を復元する力。周りには星の音防具の効果とは言ったが、実際はそれを使っただけだ。
もっとも、自分のダメージが酷く使いすぎると自分が死んでしまう本末転倒状態だった故に、そこまで回復させてあげられなかったのだが。
ライラ「……先輩。」
治療室に未だに横たわる、いつもよりも弱々しい先輩。
痛々しい姿になりながらも、最後まで立ち続けた彼を、改めて尊敬した。