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    1YU77

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    1YU77

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    謎世界線の謎やぎしず
    かきたいとこだけSSやぎしず未満('ω')

    春隣 大気の澄み渡り冴ゆる夜。きっと明日は快晴で。空も飛びやすいだろう。
     志津摩は膝を抱えて空をぼんやりと見上げていた。
    燦燦と煌めく星空が綺麗だった。いつになったら実戦で飛べるのだろう。
    けれどやっぱり少しだけ怖い。上官達が傷つき基地に戻ってくる姿を見ては胸が痛い。もちろん口にはしない。命だけは助かってよかったと、思うのだけれど、志津摩自身は怪我をしてかえってくるのは嫌だった。飛んでしまえば、あとは――――。
    だって、志津摩をまっている人なんてこの世にいないのだし。
    まだ思い残りがないかといえば、嘘になるけれど。
    どうしたって最期は怖いのだろうな。
     浮かんでまた抱えた膝に頭を埋めた。まだ思い出すと身体が震える。
     しぬかとおもったんだ。しにたくないとも思っていなかったくせに。
     目を閉じて、真っ暗にして自分で自分を抱くように膝を抱えて小さくなる。
    笑って皆に逢いたいからもう少し、ここで心を鎮めてから。
    「おい」
     声をかけられた。
     びくりと立ち上がる。足音にも気づかなかったことにショックを受けて反応が遅れる。
     それに声をかけられたということはもう、手遅れで。こんな時間にここに現れるという事は、違反者のろくな人じゃないか、上官の二択でしかないわけで。
     そこまで一気に思考が廻り志津摩の心臓も焦ってばくばく脈動を大きくする。
    「おまえ。そこで何してんだ。時間みてんのか」
     振り向いて青褪める。
     八木中尉。隊内でも指折りの気性の荒い上官。仲間内では超不人気だ。目が合うだけで殴られるという噂もある。終わった。苦笑いすらできずがちがちに固まりなんとか敬礼する。
    「あ、はい! すみません、すぐ戻ります!!」
     志津摩は慌てて背を正した。ほとんど反射的動作だ。
    八木中尉はいつものように煙草を咥えこちらにさっと目を寄越しただけで、またすぐに視線を他へやった。
    「見つからねえようにさっさと帰れよ。殴られるぞ」
     あれ。と志津摩はまたたく。八木が殴る役じゃないのかと。しかし八木は煙草を吸い込みふうと白い紫煙を拭いて星月夜を仰いでいる。
    あれ、そもそも八木だってさっさと部屋に戻らなければならない時間のはずなのに。
    考えもうかぶが、まあ志津摩には関係のないことだ。運よく今回は見逃してもらえるらしくあせあせと、身を小さくこそこそ忍び足で逃げ出す。
    「――――ん、? おい待て」
    八木に引き留められた。また青褪めて振り向く。
    「え、な、なんですか、!」
     機嫌が悪いとすぐにぶん殴るという噂の鬼尉官の八木だ。その人がみるみるこちらへ歩み寄ってきた。煙草を咥えたまま志津摩の腕を引っ掴んだ。
    「ひ、えっ、……!」
     志津摩が恐怖に固まっていると八木はフンと鼻で笑った。
     煙草をぽいとそこらへ抛り捨てると志津摩の袖をぐっと捲る。冷たい空気に触れてぶるりと身が縮こまる。志津摩には抵抗する権利はなくされるがまま凍り付く。
    「お前、気づかんかった? ちゃんと処置してねえだろ」
     指摘されて「あれ」と目を丸くした。
     腕から出血があり袖が赤く染まっている。ちゃんと傷の手当はしたはずだったが、腕に怪我があったと見落としていた。確かに少し痛いが大した痛みじゃなくて、どこもかもぶつけていたのでその程度だろうと傷も確認せず放置していた。
    日中の訓練で志津摩の機は動作不良で軽い事故を起こした。訓練通りに避難できたものの身体のあちこち打ち付けるし、死に物狂いだし、初めての事故に志津摩は酷い緊張と興奮と恐怖で息を切らしていた。無事に基地に戻るとホッとして力が抜けた。
    それでも夜になってもふと思い出し、友が訓練で亡くなったことまで蘇り、なんだか上の空だった。
    「あ、ああぁ、えへへ、すみません、ぼうっとしてて。明日診てもらいます、」
     苦笑いで頭を掻くと八木は黒いえり巻きを外した。
    「わっ、よごれます!!」
     有無を言わさずそれでごしごし乱暴に志津摩の血を拭った。
    「お前、えり巻きももってねえのな」
     また鼻で笑われ志津摩は何やら気恥ずかしくなる。ごしごし擦られると痛くなってきた。
     痛くなかったのに、八木に擦られると痛い。乾いた血もあるせいか性格が雑なのか八木は強く血を擦り取る。
    「八木中尉、よごれます、大切なえり巻き、」
    やめてと言えるはずもないがおずおず話しかけると、八木は息を吐いた。
    「いいんだよ、黒いだろ? 血なんかわからん。それにもともと既にぼろだ」
     志津摩は胸を突かれハッと八木を見上げた。八木はなんてことなさそうに「はいおわり」と志津摩の傷をじろじろ見てぺちりと手で叩いた。
    「もう血は止まっとる。よかったな、袖濡らしてるからまだ出てるかと思った」
     八木はえり巻きを掴んで志津摩の肩をばしばし叩いた。
    「しなんでよかったな」
     独り言のように告げられて。志津摩は俯いた。
    「あ、あのっ……!」
     声をかけるが八木はすでに背を向けて尉官部屋の方へと歩き出していた。
    「なんだよ、はよ戻れ、ちくるぞ」
     鬱陶しそうに吐かれて志津摩はすこしだけ笑う。
    「あ、ありがとうございました!」
     ばっと頭を下げて叫ぶと、八木はびくりとして、慌てて人差し指を立てた。
    それからこしょこしょ声で、でもはっきりと「しずかにしろ!」と志津摩を叱った。
    八木にしっしと手で追い払われる。志津摩はどうしてか胸が弾んで。
    笑ってまた敬礼をして、八木の背が見えなくなるまで見送った。







     
     
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