仲間の証「……えっ⁈ カキツバタ、なに俺のヘアバンドさ勝手にしてんだべ‼︎」
入浴を終えたパジャマ姿のスグリが自室に戻って見たものは、先に風呂から上がった、同じくパジャマ姿のカキツバタが、黄色いヘアバンドで髪を上げている姿だった。
「いやぁ、元チャンピオン様のトレードマーク、一回オイラも使ってみたかったんだよねぃ」
「だからって、無断で……」
「だってぃ、元チャンピオン様に貸してっつったって、どうせ嫌がるだろい⁈」
「まあ……そうだけど、そもそも人の嫌がること、……今更か、何度言っても嫌な呼び方してくるし……」
はぁ〜、と溜息を吐くスグリの横で、カキツバタが嬉しそうに手を叩いて笑う。
「……で、満足したなら返してくれる?」
差し出された手のひらからわざとらしく目を逸らしたカキツバタが、これまたわざとらしい鼻歌を歌いながらまたバスルームの方へ歩いていく。ねぇ!、と言いながらスグリも追いかけるが、カキツバタは何食わぬ顔でバスルームに入り、洗面スペースの鏡の前でヘアバンド付きの髪型を整え、様々な角度でポーズを決め始めた。
「……」
「う〜ん、オイラカッコいい〜! シビれちゃうねぃ! どう思う、元チャンピオン⁈」
しかしカキツバタがニヤけ顔で振り向いた時、そこにすでにスグリは居なかった。
「お〜い、元チャンピオン様〜?」
口を尖らせてバスルームを出たカキツバタと、ベッドの前で紫色の布を抱えて少し途方に暮れたような顔をしたスグリの目が合う。
「おおう? そいつが気になるんでやんすかい?」
「……俺も仕返しに巻いてやろうかと思ったけど……。多分、俺だと引きずっちまうし……」
「いけねぇのかい?」
スグリが眉を下げ、伺うような視線をカキツバタに投げる。しかし、視線だけではカキツバタが何も答えてくれないのを察して、スグリはもう一度口を開いた。
「大切なものだったりするのかなって……。刺繍もあるし、肌触り良くて高そうだし……、ボロボロなのに使い続けてるみたいだし、それに、カキツバタのくせにいつもわざわざ畳んで置いてるし」
カキツバタが大きく笑い声を上げた。抑えきれないとでもいうくらいに大きく。スグリが驚いてその布をベッドの上に戻そうとし、しかしその腕は掴まれた。
「いいんだ、いいんだ。スグリ。オイラが着せてやるからじっとしてろぃ」
布を受け取ったカキツバタは、バサ、と音を立ててその布を広げた。そのまま上下左右を確認し、机の上にあった書類を束ねていたクリップを二つ外し取る。
「ちょ、カキツバタ! 俺の資料さぐちゃぐちゃになっちまうべ!」
「まぁまぁ。スグリならちょっと混ざったってすぐ戻せるだろぃ! いいから、前向いてな」
「……そういえば、さっきから、ちゃんと名前、」
スグリの言葉を遮るようなタイミングで、布の端を持ったカキツバタがスグリのパジャマの襟に触れた。
「あれ? 腰じゃないの?」
問いにも答えず、カキツバタがクリップを使ってうまく布の端をスグリの胸元に固定する。
「上出来上出来! スグリ、こっち来て鏡見てみろぃ!」
「わや……!」
三たびバスルームに戻ったスグリは鏡越しに紫色の布を肩から羽織った自分を見て、目を見開き、口元を綻ばせた。
「マントみたい……! わやかっこいいべ!」
「へっへっへ……お前さんも、相棒はドラゴンだしな。いつか、……」
「?」
何か言いかけたカキツバタをきょとんとしたスグリが見上げるが、カキツバタはそれ以上何かを言及することはなかった。代わりに、風呂上がりでまだ湿ったその頭をポンポンと叩いた。
「……やっぱり、これ、大事なもの、」
「さ、今日はそろそろお休みなさいといくかねぃ! 今日もツバっさんの腕の中で良い夢見ろぃ!」
「暑いからあんまりべたべたしてほしくないんだけど……」
嫌そうな顔をするスグリを見て、カキツバタは嬉しそうに笑い、未だ肩に掛かったマント越しにスグリを抱き寄せ、キスをした。
「……あれっ、カキツバタ! 俺のヘアバントさ付けたまま寝ないでよ!」