特急便で今すぐあなたにゲームを通販する時、無関係な猫のグッズを見てしまうことが増えた。彼女とは無関係と分かっていても、つい親しみを持ってしまう。
あなたにオススメの商品一覧――猫の画像で埋め尽くされたそこに、場違いにも思える品が、一品。
(用法容量……アルコール度数……?)
スズさんはお酒に強い。飲み会も好きだ。惑星タラの品だと書かれた商品説明に、彼女の好みに合うかもしれないと当たりを付ける。
オススメの商品、一点。割れ物。天地無用。
――セールのゲームと一緒に気が向いてカートに放り込んだ嗜好品で何が起こるかも、知らずに。
「スズさん……今日は僕の家で、飲みませんか?」
「え? 飲むって、お酒? レムナン弱いでしょ」
「……そんなこと、ないですよ」
「弱い人はみんなそう言うんだから。この間も潰れたくせに」
「それは! …………そう、ですけど」
本当はこの間だって酔ってないと、説明はしないつもりだ。少し、都合が悪いから。
「いいじゃないですか……家の中なら、酔っても寝るだけですし」
「珍しいね。良いお酒でも手に入れた? それともつまみ?」
「実は――」
仕事が終わるまでが待ち遠しい。
彼女にとっては飽きるほど繰り返している飲み会の一つに過ぎないとしても、僕にとっては特別な出来事だ。部屋の清掃擬知体に「いつもより細かいところまで綺麗に」とお願いする、くらいには。
ロックグラスの中に浮かぶ氷ひとつ、グリーゼでは人工的な精製水を瞬間冷凍するか輸入で手に入れる。
一苦労して手に入れた氷がグラスの中でからん、と音を立てた。
「レムナン、そんなに飲まないでしょ? 随分種類あるけど……」
「その、どれがあればいいのか……よく分からなくて」
「聞いてくれれば買い出しくらい一緒に行ったのに」
買い出し。あまり二人で外に出かけたことはない。
「次は……スズさんに聞きます」
「またやる前提なんだ」
「……嫌、ですか?」
「それはレムナンの酔い方次第かな。……吐くのはやめてねとりあえず」
「そんな無茶な飲み方は、しませんよ」
そんな余裕のある会話ができたのはほんの一瞬だった。
「………………」
「スズさん……?」
「………………」
「すずな、さん……」
「………………ん」
もう、寝ているのか起きているのか分からないほど反応が返ってこない。
グラスの中のアルコールはまだほんの数口分を減らしただけで、後は溶けた氷でみるみるうちに増えていく。
すずなさんは酒に強い。飲み会で誰よりも飲み、その後酔い潰れた人の介抱をしながら、大きな声で店員に注文を通す。
こんなアルコールの何口かで酔うような人では、ないのだけれど。
そっと、テーブルに並んだ瓶の中から、お急ぎ便で届いたばかりのものを探す。
『お酒は基準年齢になってから!』
『猫人御用達一級品』
『水割り五:百』
『ソーダ割り一:百』
ロックグラスに充分な割り材もなしで注がれた酒に、申し訳程度のレモンや蜂蜜を添えたものをちらと見る。
アルコール度数が高いのだろうか? ラベルに書かれたおすすめの飲み方は、やたらと、「とにかく他の液体で薄めろ」と主張している。こんなに希釈しろと書いてあるものをほとんど原液で口に入れたのだから、おかしなことにもなるか。
所謂、酔っているだろう彼女を見たことは今までなかった。
酔った人はもっと感情の起伏が激しくなるものだと思っていたのに、目の前の彼女はひたすら眠そうにしているだけだった。
思うことは二つ。
酔うと暴れるタイプではないようで良かったな。
……もう少しくらい、普段と違う姿を見たかったな。
「ほら、そんなところで寝たら……だめですよ」
「……ねて、ないってば」
酔っている人は皆そう言うんだから……と、彼女の言葉を思い出しながら考える。
「ちょっと、失礼しますね……」
抱え上げた身体はやたらと軽くて、ちゃんと食べているのか疑問が浮かぶ。
「なに、してるの……寝ないってば……!」
そっと彼女を降ろしたベッドの上、うつらうつらとする彼女はそれでもどうにか目を開こうとして閉じ、を繰り返している。こんな、酔っている時まで意地を張らなくても良いのに。
――少しくらい、弱みを見せてくれても、良いんですよ。
例えば、そう、今。
貴女が僕の袖を握って離さない、些細な出来事だとか。
そんなわがままを……普段から見せてくれたって構わないと、僕は思っているんですけど。