「買い物に付き合ってほしい」
デートで訪れた新オープンのカフェで、生クリームたっぷりのパンケーキを食べながら葵が告げた。
「珍しいな」
ジェンティーレはよく、葵にプレゼントを渡す。それは花束に始まりアクセサリー、服飾、インテリア雑貨と、とにかく、ありとあらゆる物品をプレゼントする。紳士として当然だ、と頑としてポリシーを曲げないことは葵ももう、承知済みだ。
だから、支払いを済ませてくれることがわかっている買い物に、葵から誘うことなど今の今まで、一度たりともなかった。
「で、何を買いたいんだ」
ここで、何が欲しいんだ、と野暮な言い方をしないのも、ジェンティーレのダンディ流儀だ。
「ブラジャー」
可愛い恋人が突然放つ刺激的な単語に、思わず飲んでいたアイスコーヒーを吹きそうになった。
「なっ……、こういう場で言うことか!?」
「だってぇ……」
やんわりたしなめてはみるが、顔は特に反省していない。葵は皿の上のさくらんぼをフォークで突きながら、モジモジしている。
「だって……小さくなって……」
「小さく?」
「ジェンティーレが揉むからおっぱい大きくなったんだよ、それでブラが小っさくなったの!」
カラン。ジェンティーレが右手を添えるグラスの中の氷が、タイミングよく冷ややかな音を鳴らした。
「責任取って……可愛いブラ、選んでよね」
頬をほんのりさくらんぼ色に染めて少しやけっぱち気味に、葵はフォークを置いてさくらんぼを摘み、口の中に放り込む。照れているのか拗ねているのかわからない表情が、いっそう可愛いくて仕方ない。そう感じたジェンティーレは、さっそうとスマホを取り出し、何かを検索しはじめた。
「なに調べてるの?」
「このあたりのランジェリーショップだ」
「ショップ?」
「下着専門店だ。少し遠いがあるな」
「ええ〜、そこのイオンの2階とかでいいよ」
「バカ言え。この俺にファミリーがたくさんいる前で下着売り場をウロつけというのか」
言われてからきょとん、と葵は目をパチクリさせる。考えてもてもみなかった。しかし、
「……それはそれで面白いかも」
「オイッ!」
精一杯の低い声すらも、なんだか愛おしく思え。葵はいつもの、弾けるような笑顔を見せた。