甘味僅かな物音に意識が浮上する。薄らと開けた瞼に月明かりでぼんやりと浮かぶ人影に気がつく。
「ふみやさん?」名を呼ぶと引き寄せられたように天彦の横にドサリと倒れ込んだ本人から返事は無い。
「夜這いですか?ふふ…、セクシーなことをしてくれますね。この天堂天彦の胸でお眠りに……、って、寝てる?」
居心地の良い場所を探るようにもぞもぞと動く姿はまるで猫のようだ。唸るように漏れる声と、眉間に皺が寄っていたが、落ち着く場所が決まったのか皺は取れ、年相応のあどけない表情から寝息が聞こえる。
「部屋を間違えるなんて珍しいですね」
体が冷えないようにと肌触りの良いブランケットをかけてやり、心地良い人肌の温かさに天彦もすぐに意識は夢の中へ落ちていった。
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PPPPPPPPPPーーーー!!!
「先生、おはようございます!朝です!今日も清々しい朝がやって来ました!早起きは三文の徳!規律正しく過ごせば一日が素晴らしい日となります!」
「理解、うるさい」
「ふみやさん?!なぜあなたが先生のベッドに?!」
え?と寝ぼけた思考で周囲を見渡すと、見覚えはあるが自身の部屋ではない空間に昨夜の事を思い出す。
「え、夜這い?」
「よよよ、夜這いぃぃいい??!!先生!!どういうことか説明してください!場合によっては未成年への性犯罪で通報しなくてはいけません!」
「ん〜……理解さん、もうちょっと、ボリュームを落としてください。」
「天彦」
「おや、寝ぼけ眼のふみやさんもセクシーですね、おはようございます。」
普段後ろに撫で付けられた髪は無造作に下ろされていた。髪を整えるように頭を撫でると、嫌がられると思いきや、喉を鳴らす猫のように擦り寄ってくる彼の可愛い一面に笑みが零れる。
「先生!!説明を!!!」
「説明も何も寝ぼけたふみやさんが部屋を間違えただけですよ」
「本当ですか?!ふみやさん!!」
「俺は記憶にないことを話せないよ。天彦がそう言うなら、俺は部屋を間違えたらしい。」
頭を撫で続ける天彦の手を払い、覚醒しきらない思考は枕に埋まる。力を抜いた体は重力に逆らうことなく低反発の衝撃と一緒に、ふわりと甘い匂いが体を包む。
「ふみやさん!!起きて!!朝です!」
騒がしい理解に無理やり起こされ、甘い匂いが離れていく寂しさを残す。
「ふみやさん、またのご指名をお待ちしてます♡」
さっき離れた甘い匂いがまた近づき、無意識に吸い寄せられる。美味しそう、という感想と共に気付いた時にはかぷりと天彦の喉仏を噛んでいた。
「嗚呼!!朝から積極的ですね!!」
「天彦さん!!!秩序を乱さない!!」
「モアセクシー!!!」
ホイッスルを鳴り響かせる理解に我慢が出来なくなった慧が部屋へと怒鳴り込んできて、より騒がしさが増す。そこに目を醒ました他の住人たちもクレームを言いに次々と集まってくる。
これが俺たちの日常。カリスマシェアハウス。