目の前を歩く男が誰なのか、判断するまでに一瞬の間があった。
水戸洋平だ。
バスケ部にとっても恩人と言える存在ではあるが、二人で話したことはない。それどころか、直接声を掛けたことすら無いかもしれない。大抵は桜木の隣りか桜木軍団の中にいて、同じ会話を共有することはあれど直接話しかけられた記憶も無かった。
もう随分と遅い時間だ。自宅にいるとついバスケのことを考えてしまうからと、予備校の自習室に閉室ギリギリ粘っていたせいでとうに夕飯の時間も過ぎ去っていた。
そんな時間帯に、この男は一人で何をフラフラと歩いているのか。不良相手にこんなことを思うのもおかしな話かもしれないが、それでもつい数か月前までは中学生だった相手だ。いつも桜木と並んでいるせいか小柄な印象があるし、何となくこんな夜道で見るには危なっかしい背中だった。
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