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    無駄にスマホ料金を払ってる三井

    #リョ三
    lyoto-3

    「あんたまだその機種使ってんの⁉」
    「なんだよ、わりーかよ……壊れてねぇんだから良いだろ」
     広いソファに座りながら、半分オレに乗り上げた宮城がデカい声を出す。久々に会った宮城は、数カ月前に会った時と比べてまた一段と焼けたようだった。
     誰にでもメンチを切っていた高校生時代と比べると愛嬌と外面を身に着け、ここぞという時に可愛こぶって上目遣いをしてくる目が、オレの手元を見て限界まで見開かれている。
     そんなに驚くことだろうか。七世代前のスマホを現役で使っているというのは。
    「なんかレンズ小さいとは思ってたけど……今乗り換えも安くできるし機種代なんて一世代でも前にしたら一円とかで買えるんだよ。オレこないだ機種変して通話代三千円になったけどそれ毎月いくら払ってんの」
    「わかんねぇ、一万円ぐらい……」
    「通話とラインしかしない癖に⁉せめてインスタぐらいやれよ! 何に金払ってんだよ⁉」
    「あーあーうるせぇ、いいんだよオレの相棒はコイツで……」
     かつては日付と時間とどちらが通話料金を払うかを決めて心して番号を押さなければならなかった国際通話も、今となってはベッドに寝転んだままちょっと声が聴きたかったから、なんて軽い理由で掛けることができる。
     流石にこの間自家発電に勤しんでいる最中に掛けたらサイアクと怒鳴られたけど、そんなおふざけも気軽に出来るようになった訳だ。オレとしてはそれだけで月一万円を払う価値があると思っているんだが、宮城にとってはオレが無駄金を払っているように見えるらしい。
    「だって三井サンほとんどらくらくホンにあるような機能しか使ってないじゃん。オレの方が多機能使ってんのに安く済んでるんだよ。シンプル損じゃん」
    「機種変更しに行くのがダルいんだよ。なんかよくわかんねーこといっぱい言われるし」
    「にしても一万円は高すぎ。ちょっと見せて」
     未だに指紋認証が現役の相棒は、パスコードを打ち込むまでもなく呆気なく宮城の指紋で開く。買った当初設定の仕方が分からず、宮城に手伝って貰ったらいつの間にか宮城の指紋でも開くようになっていたせいだ。
     少しぐらい警戒心持ちなよ、と勝手に登録した本人に呆れられたが、オレとしては何というか、オレの持ち物に宮城のデータが登録されているという状況が悪くないと思えたのでそのままにしている。アレだ、気分としては、昔ガラケーの電池パックにプリクラを貼っていたのと同じというか。
    「うっわ! ありえねぇ!」
    「んだよ」
    「一応聞くけどこのキャラクター興味あんの? 三井サン」
    「ねぇけど」
     宮城が見せてきた画面には、ギリギリ名前が分かる程度のキャラクターが何匹か表示されている。やたらとファンシーなそれらに興味があるはずもない。
    「こいつらの映画が見放題ってプランに加入したままになってるよ。月額千円」
    「は? 登録してねぇぞ」
    「あとこのヘルスケアアプリと音楽聴き放題も。これさぁ、多分契約した時にお試し三ヵ月無料とかで自動的に加入させられるやつだよ。三ヵ月以内に解約しないと金掛かりますって説明されなかった?」
    「……されたかもしんねぇ」
    「三井サンみたいなのがいるからこういう騙し討ちみたいな商売って無くならないんだろうね」
     即日解約が鉄板でしょ、と言われて黙り込んでしまう。確かに、言われてみればそんな説明があったような気もする。もう何年も前のことだから詳しくは思い出せないが、説明を受けたその時は無料と言うなら三ヵ月くらい使ってみるか、と思ったのだ。結局、どのアプリも一度も開かなかったが。
    「……つまりオレは、使ってもいないアプリに毎月何千円も課金してたってことか?」
    「そういうこと」
    「無駄じゃねぇか……」
     明確な金額を提示されると今までちまちまと節約した思い出が頭をよぎってぐったりと身体の力が抜けてしまう。
     なんだよ、それ。オレは国際通話を気軽にできるって感謝で高い電話料を払ってるつもりだったのに。
     今でこそバスケ一本でそれなりの高収入を得ているので月数千円の出費も痛くないが、このスマホを購入した当初はまだバスケで食っていけるのかも分からず、日々少ない給料でやりくりしている時期だった。
    「だからそう言ってんじゃん。あーあ、この金あったら食べ盛りの時期に毎月焼き肉行けたのに」
    「……別に焼き肉とかはいいけどよぉ……この金あったら、一回くらいお前に会いに行けたかもな」
     思い出すのは、弱音が消されたエアメールと隠せない寂しさを滲ませた国際通話だ。別にオレがあの時アメリカに行ったって何にもならなかったかもしれないが、それでも一人孤独に異国で奮闘する宮城に、何度親から金を借りて抱きしめに行ってやろうかと思ったことか。結局これ以上親に甘えることは出来ないと自分を諫めて宮城が一時帰国するまでの三年間会うことは叶わなかったが、あの時会いに行けた可能性があったかと思うと何て自分は無駄な金を払ってきたのかと後悔が押し寄せる。知りもしないキャラクターより、オレは宮城のことが知りたかったのに。
     当時はバスケの技術で渡米した宮城に少しの嫉妬や羨望もあったが、年をとった今となっては当時の宮城がどれだけ心細かったのか痛いほど分かる。偏見や差別に晒されながらも崩れずに立ち続けたかつての宮城を思い、じわりと瞼が熱くなった。
    「えっわぁ~~~っ⁉ちょっと泣かないでよ三井サン‼なに、どしたの」
    「オレがバカだったせいでお前に無駄に寂しい思いさせちまったなって思って……」
    「えぇ、そんなこと考えてたの。オレあの時に三井サンに会ってたら全部決壊してダメになってた気がするからあれで良かったと思ってるよ。エアメールと電話ぐらいの距離感だったから頑張れたの」
    「頭撫でてやりたかった……」
    「たまに出るあんたの甘やかし癖、オレにとっては劇薬だから使い時間違えないでよ」
     目の前にいる宮城はすっかり身体もゴツくなり未熟さや線の細さとは程遠い存在となったが、せめて今更でも、と両手を広げると嬉しそうに飛び込んできた。かつての寂しさを埋めてやるようにぎゅうぎゅうと抱きしめて、セットされていない頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
    「もうオレはこの会社に金を払わねぇ」
    「まぁ、普通にそれはその方が良いと思うけど。明日オフでしょ、一緒に新しいやつ買いに行こ」
    「全部お前が設定してくれ」
    「はいはい」
     宮城の機嫌が妙に良いのでどさくさに紛れて面倒な作業を押し付けたが、宮城は二つ返事で了承してくれた。これで妙なサービスを契約させられても宮城が解約してくれるだろう。
    「せめて自撮りぐらいうまくできるようになってよ。それでたまにはオレに送って」
    「なんだよ、オカズにすんのか?」
    「ブレない写真撮れるようになってからデカい口叩いて。オレあんな写真で抜けないから」
     呆れたような顔が腹立たしい。
     絶対にエロい写真を撮って送ってやると覚悟したオレに対し、宮城は送信先の確認の重要性とクラウドサービスのセキュリティについて話し始めた。
     よく分からなかったので、オカズはビデオ通話でいいかと思った。
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