王蛸世界に入り込んだパイレーツドちゃんと人質ロ君「ご覧、ジョン。シンヨコの海が見えてきたよ」
「ヌー!ヌヌイ!」
晴れ渡る青い空、煌めく波……ではなく星々の瞬く紺色の夜空とそれを映した穏やかな波に揺られ甲板の上でバンダナを頭に巻いたマジロを右腕に抱き、左腕の先に嵌められた鈎手で行先を示す。長く続いた航海も漸く終わりが近付き、船員達も疲弊を忘れて歓声を上げた。
〜〜〜
「シンヨコの海には海の魔女が守る財宝が眠ると言うではないか!真祖にして無敵の海賊吸血鬼・ドラルク様がその財宝を頂きにあがったぞ!」
「んなもんある訳ねぇだろ!」
「……というかその海の魔女って私の事だと思うんだよね」
あっという間にシンヨコ国の誇る海軍に拿捕されたにも関わらず、尊大な態度で胸を張る自称真祖にして無敵の海賊吸血鬼を呆れた表情で見下ろす第2王子ロナルドとその妻であるドラルク。奇しくも海賊と同じ名前で更に容姿まで瓜二つときて、妻のドラルクがロナルドに頼んで謁見と相成ったのだが、海賊のドラルクから告げられた言葉におずおずと手を上げて見せる。
「君が?でも君は人間ではないか?」
「いいや?陸の王子様に恋をして人の脚を得た海の魔女さ。よく見ていて」
訝しむ海賊に微笑んで見せると紫のローブを被ったドラルクの下半身がみるみるうちに黒く太い8本の触手へと変化していく。粘液を纏った触手の内1本をドラルクへと伸ばして両腕に嵌められた金属製の手錠を撫でた。残りの触手は愛おしげに隣に立つ王子の脚へと絡み付いており、王子もドラルクのそれを優しく撫でている。
「ほう、人魚姫は泡へと帰さず想いを成就させたのか、目出度い事だ」
「ふふ、信じて貰えたようで何より。……ところで、そちらのお嬢さん?は……」
「あぁ、ここに寄る前に襲ってきた船を返り討ちにした時に捕らえられていたから、保護したんだ」
ロープで何重にも縛られ不機嫌を隠しもしない銀髪に赤いドレスを纏った人質へと視線が集まる。ドラルクが捕らえた訳では無い事を知ると王子達に安堵した空気が漂う。
「しかし彼女、一言も喋らないんだ。ロープを解こうとしたら拒絶されてしまって……言葉が違うのかなぁ」
「なんだかロナルド君に面影が似ているね、生き別れの妹だったりして」
「俺の妹はヒマリだけだ……というか似てるかぁ?」
〜〜〜
「え、君にも使い魔が?しかも名前がジョン?すごい偶然だねぇ!」
「ほう、君のジョンはウミガメなのか」
すっかり打ち解けた2人のドラルクは互いの使い魔を褒め合い、その使い魔達は主人を褒め合う。可愛いの4乗にロナルド王子の表情はすっかり弛んでしまうものの、問題は赤いドレスのロナルドだ。
「海賊ドラルクを捕まえるはずが逆に捕まるってな……」
「仕方ねぇだろ、偽情報掴まされたんだよ」
「まさかお前もロナルドとはなぁ。私設の警備団をやってるなら俺の海軍入らねぇか?」
「ドラルク以外に興味ねぇ」
海賊ドラルクが退室したのを確認して口を開いた人質から告げられたのは自分が私設警備団に属しており海賊ドラルクを追っていたロナルドというハンターである事、ハンターとして顔が知れている為女装してドラルクの船に人質のフリをして乗り込み確保するつもりが偽の情報を掴まされ危うく売り飛ばされる所をドラルクに助けられたという事だった。
「海賊のドラルクってそんなに悪い奴には見えねぇんだよなぁ……俺のドラルクに似てるからかな?」
「あいつは竜の一族の吸血鬼だ。変な奴に捕まって売り飛ばされる前に俺が捕まえて保護すんだよ」
「……なんか他人とは思えねぇな……」
〜〜〜
「え、あのお嬢さんって君だったの!?レディにしてはガタイが良いとは思っていたけど……」
「ドラ公、今日こそは俺に捕まってもらうからな!」
「君も懲りないねぇ……私はまだ見ぬお宝を求めて海を行く真祖にして無敵の海賊吸血鬼ドラルクだよ?私を陸に縛り付けておこうだなんて烏滸がましいと思わないかね?」