エラーでも構わない「千空、お前熱でもあるんじゃねぇか? ヤベーくらい顔が赤いぞ!?」
「……ぁ、そうかもな。動悸も酷ぇ。だが、動けなくなるほどでもない」
そういって目を細めながら千空は話を終わらせた。実際あまり猶予もなく、ここで千空という作戦の要が抜けてはまずいということは誰もが分かっていた。しかも千空にしか分からない、できないクラフトしか残っていないことに、クロムは奥歯を噛みしめる。クロムには千空を言いくるめて休ませることもできない。ゲンならあるいは、と思い外に出ようとすると、それも千空に止められた。
「悪ぃがクロム、テメーに抜けられたら困るンだよ。任せられる段階になったらちーっと休ませてもらうから、しっかり覚えやがれ」
つかまれた腕に伝わる千空の体温の高さにドキリとする。本当に大丈夫なのか、と千空を見れば、少し瞳孔の開いた紅い瞳と目が合った。
「ッ! ほんっとうに大丈夫なんだよな!? 千空が無茶して倒れたらって考えたら、ヤベーほど怖ぇよ俺は!」
千空の肩をつかんで、互いの顔を突き合わせる。千空の考えていることを少しでも読み取ろうと丸く見開かれた瞳を必死に覗き込んだ。じわじわと体温がクロムに移っていき、まるで溶け合っているみたいだ、と頭の片隅で考えたとき、どくどくと激しく脈打つ己の心臓に気が付いた。
「おいクロム! どうした!? もしかしてただの風邪じゃなくて空気感染…… いや、飛沫感染するタイプのウイルスだったか!?」
額に千空の手のひらが押し当てられ、体温を確認される。先ほどまで熱いと感じていた千空の手は、むしろ少し冷たいと思うほどだ。てきぱきとラボを封鎖していく千空を見てクロムは肩を落としながら呟いた。
「こんな時に、足引っ張って悪ぃな……」
「何言ってやがんだ? どう考えても俺の落ち度だろーが。ここ数日、誰と会って、誰と話した? 大体は俺とここに籠ってたから多くはないはずだが……」
皮に文字を書き連ねていく千空は、何かの指示書を作っているようだった。文字の読めないクロムはなんとなくでしか分からないが、おそらくゲンに向けた内容なのだろうと察していた。
「一応サルファ剤でも飲んどけ。症状的に俺と同じならあまり意味はないかもしれねぇが……」
「? 千空、顔色戻ってねぇか?」
クロムの言葉にぴたりと千空の動きが止まった。手首に指を押し当て、脈を確認しているしぐさを見せる。そして、ぐるんと顔をクロムに向けるとじっと見つめ始め、みるみる顔を赤くした。
「~…… くそっ、合理的じゃねぇな……」
何かの答えに行き当たったらしい千空が頭を掻きむしった。
「なんだよ! 病気じゃねぇのか!?」
ラボの封鎖を解く千空をまぶしく思いながら、答えが分からないクロムが叫ぶ。
「ククク…… 知らねぇ方がマシなんじゃねぇか? ま、今はそんなことしてる場合じゃねぇがな」
そういって口角を上げた千空の表情に、クロムの心臓はより一層強く脈打った。