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    k_ikemori

    遙か7メインで過去作ポイポーイ。

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    Xデーはすぐそこ

    ##遙か7

    黒田家スッポン騒動「あ、長政さん! 見てください」
    にこにこと満面の笑みを浮かべる七緒とは対照的に、側に控えた使用人たちの顔色は優れず長政は疑問に思いながらも七緒の傍にある桶の中にある包みへと視線を落とした。
    「また厄介事でも持ち帰ったか」
    「もう、そんなんじゃありませんよ。イイモノですよ」
    嬉しそうにぱらりと包みを解いた七緒の笑顔のその先にあるその物体が何かと認識した瞬間、長政は笑みを保ったまま思考を停止させた。
    そこには逃げようと必死にもがくまるまる太ったスッポンがいた。
    「……七緒」
    わずかに低くなった声で七緒を呼べば、その声の硬さに尻込みしたのか七緒は眉を下げた。
    「あの、最近長政さん元気がないって、みんな心配してて…」
    確かに最近の暑さと執務の多さに参ってはいたが、七緒が言う所の元気がないと、長政が思う所の元気がないは似て非なるもので、家臣も七緒寄りの考えなのだろうが七緒自身はスッポン
    に滋養強壮の効能があることは知っていても、夜の効能も含まれていることはおそらく知らない事なのだろうと長政は深い溜息を吐いた。
    「さすがに、川に入って捕まえてきたのは浅はかでしたけど……」
    なおも言い募ろうとした七緒の言葉に長政は目頭を押さえた。
    徳川の養女として黒田家へと嫁いできた龍神の神子が、川に踏み入れ、自らスッポンを捕まえてきたのか。
    薄く目を開き、七緒の後ろへと控える者たちへと視線をやれば『わたしどももお止めしたのです』と必死にな目線で訴えかけてきて、長政は七緒が制止も聞かず川へと入って行ったのだろうことを安易に想像できた。それくらい、お転婆なのだ。
    公の場では淑やかにしている七緒だが、私の部分では元来の元気の良さもあり先頭に立ち走ることが多い。それに付き合わされ止めきれず、長政から叱責を受ける家臣が一番の功労者であることは家臣団一同が知るところである。もちろん長政も七緒の好きなようにと通達していることであるので、叱責も軽いものではある。
    「……─スッポンの噛む力は侮れん。指の一本でも食われてみろ、お前を止めようとした家臣は責任を取って腹を切りかねん。──少しは人にやらせるという事を覚えろ」
    七緒のやりたいことを取り上げるのではなく人の手に渡せと助言する長政も結局の所七緒には甘いのである。
    「──はい」
    しょんぼりと肩を落とした七緒に長政は溜息を零す。
    「……お前は、俺の体調に気を遣ってくれたのであろう。礼を言う。……スッポンは泥を抜かねば食えぬのでな、七日もすれば食えるであろう。それまでに、今の執務を片付けておこう。……楽しみだな」
    そう言って笑った長政の言葉の裏にあるものが分からず、額面通り受け取った七緒は首を傾げながらも「そうですね」と一緒になって笑った。
    もちろん、その場にいた家臣たちにはその意図が伝わった。伝わっていないのは当事者である七緒だけだった。



    翌朝、桶に真水を張られた中でゆらゆらと動くスッポンを見下ろし、七緒は柔らかな甲羅をつるりと撫でる。
    「これが、コラーゲンの塊……」
    令和にいた頃に、よくテレビので『すっぽんにはコラーゲンがたっぷり!お肌がつるつるになります!!』という触れ込みのサプリメントの通販番組も見たし、グルメ番組ですっぽんを食べて『美味しい』と絶賛する俳優さんやタレントさんを見てきた。
    今まですっぽんを食べたことはないが、いつかは食べてみたい食材の一つではあったが、まさかここに来てその夢が叶う事になるとは、と目元を緩ませて笑った。
    「すっぽんってどんな味なのかな……。カエルは鶏肉っぽいっていうけど……」
     楽しみだなぁ、と食べる時の事を考えていた七緒は、もちろん、食べ終わった後の事は考えもつかなかった。
    最近ますます多くなった長政の政務だが、長政は「大事ない」と言うだけで七緒は内心気を揉んでいた。精を付くものを、とせっかく捕ってきたすっぽんだが、それを食べる前に長政が身体を壊してしまいそうで七緒は短い溜息をついた。
    「七緒」
     その背中へと声が掛かり、七緒はパッと振り向く。
    「お前はまたそうやって安易に手を出しおって……」
     大きなため息とともに呆れた声が掛かって、濡れた指先を咄嗟に隠すがもう見咎められた後ではそれも無駄な行動であった。
     にへり、と笑えば長政は更に呆れた溜息を大きく吐くと七緒を手招きする。
     素直に長政へと近付けば懐から出した手巾で濡れた指先を拭われて、その優しい力加減に胸が高鳴る。
    「……そんなに、」
     揶揄いを帯びた長政の声に耳を傾ける。
    「そんなに楽しみにしているのか」
     童女のままだな、と言われたようで七緒は頬を膨らませた。
    「だって、初めてなんですもん。よく美味しいって聞いてたから、楽しみなのは仕方がないじゃないですか」
    くつくつと喉を震わせた長政がするりと七緒の掌を撫でる。
    「まあ、あと数日待て。それまでに俺も政務を一区切りさせておく」
    いつも仕事ばかりの長政の言葉に七緒は僅かに目を見張る。
    「スッポンを食べた次の日は休みにするよう調整をしておく」
    「えっ、本当ですか? 久しぶりのお休みでは!?」
     声を弾ませた七緒がその休みに長政とゆっくり過ごせるのではと目を輝かせた。話したいことが山とあるのだ。
    「せっかくの休みを堪能せねばな……」
    「ええ、その通りですね!」
     漫勉の笑みでそう言った七緒とは対照に長政が含みを持たせた微笑を浮かべていた事に七緒が気付くはずもなく、長政と七緒の傍にいた近習と女中は表情を崩さぬままにそんな二人を見守っていた。

    じわじわと近付くその日が七緒にとって教訓になることは間違いない。
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    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117

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    MOURNING2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990

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