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    k_ikemori

    遙か7メインで過去作ポイポーイ。

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    k_ikemori

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    天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…

    ##遙か7

    この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない人の肩へと防寒着を掛けてやる。
    「風邪をひくから、ちゃんと着ていてください」
    「──…そんな物など無くとも寒くはない」
    凍える夜に、更に凍えさせてくるような鋭利な声が返ってくる。
    たとえこの一枚だけでも十分暖かいという謳い文句があるヒートテックを着ていたとしても、薄手のタートルネックセーターを着ているだけの軽装とも呼べる服装に七緒はブルリと身を震わせた。
    「長政さんはそうかもしれませんが、私が見ていて寒いので着ていてください。あと、明日はお客様が沢山来ますし、風邪でもひかれたら大変」
    返事の代わりに小さな舌打ちが返ってきたが、七緒は慣れたもので気にも留めず長政の隣にあるミニテーブルからタンブラーを手に取った。
    「コーヒーでいいですか」
    空になったタンブラーの外側はキンと冷えており、七緒の体温が奪われていく感触に肌が粟立つ。
    「…ああ」
    こちらを見ないまま簡潔に頷く長政をその場に残して、七緒は小部屋へと戻る。
    先程七緒が出勤した際に暖房を付けていたので、先程よりは温かく感じる室内に七緒はホウと息を吐くと、どのコーヒーにしようかと引き出しの中を漁り始めた。
    ドリップコーヒーをゆっくりと淹れながら七緒は明日の為に、なにからしようかなと楽し気に思考を巡らし始めた。



    徐々に集まり始めた参加者の点呼を取りつつ、七緒は空いた隙間でフウと白い息を吐き出して空を見上げた。
    ──本日は晴天なり。
    まさにその言葉の通りに、今日は月明かりの影響はほぼゼロに近く、空は澄み渡り星々が煌めいていた。時折強い風が吹くものの絶好の観測日和だ。
    七緒は名簿に目を落とし、参加者はだいたい揃ったなと思案しているとその背中へと声が掛かる。
    「揃ったか」
    今夜の空のように澄んだ声の主の姿を目に留め、七緒は眉を上げて小さくため息を零す。
    「…まだ数名来られておりませんが、大体は…」
    名簿を小脇に挟むと、七緒は長政へと手を伸ばす。
    「…長政さん、前をちゃんと締めてください。何度でも言いますが、見ていて寒いんですよ」
    いつもの防寒着を羽織っているものの前を締めておらず、時折強風に煽られてはパタパタと裾が靡く。
    「お前が気にする事でもないだろう」
    放っておけと、口では言うものの七緒の手を制止することはせずグッと引き寄せた防寒着を合わせてジッパーを引きあげた。
    上までは締めず、胸元あたりで手を離すと目の前の長政へと視線を移す。
    長政は普段望遠鏡を覗く際はメガネを掛けているが、こんな観測会の際は視野が広くなるからという理由でコンタクトを使用している。前に聞いた話では、裸眼でも十分生活が出来るらしいのだが、よく見えるようにと矯正器具を好んで使い分けているようだ。
    好きが高じてここで勤務しているだけの事はあるなと七緒は顔だけはやたらと整った上司兼同僚を呆れた目で見てから、参加者達が集まっている方へと視線を移した。
    「そろそろ始めますか」
    「…そうだな。この時間であれば少なくはあるだろうが童たちには充分だろう」
    時々零れる様々な古風な呼び方にももう慣れた。
    「あまり遅くなってしまっては酷ですしね」
    前回の観測会でも途中で夢の中へ旅立ったこどもが何人かいた事を想い出して七緒はクスリと笑い、では、とその場に集まった人たちへと声を掛けた。
    「みなさま、本日はご参加くださりありがとうございます。そろそろいいお時間になってきましたので始めたいと思います。──説明は台長である黒田が致します」
    七緒がそう言うと、長政へ向かい軽く目礼する。
    「みなさま、こんばんは」
    ニッコリと老若男女全てをを魅了するような甘い顔と、耳へと馴染む声色でこの場に集まったこどもたちとその保護者へと笑いかける。
    その顔を見るたびに七緒は胡乱な視線をついつい長政へと向けてしまう。
    胡散臭いとかではないのだが、どうしても普段の絶対零度に近い鞭状態を知っているだけにその落差に風邪をひきそうだ。
    そんな事を七緒が考えている間に長政は一通りの説明を済ませ、今日の流星群の話へとこどもたちへ問いかける。
    「今日の流星群はなに座か分かる人」
    子供たちは元気よく手を上げて、長政は一人の男の子を指名する。
    「ふたご座です」
    「そう、ふたご座流星群」
    ぱちぱちと長政が軽く手を叩けば伝播していくように子供たちも手を打つ。
    「ふたご座はよく耳にするが、実際の所どこにあるのか知らない人が結構多い星座ではないかと思う。けれど、ふたご座のすぐ傍にメジャー級の星座があることを知っている者は?」
    勢いよく数人が手を上げたが、長政はそれを目の端におさめ、口元を緩めて笑うだけに留めて空を見上げる。
    「冬の空を代表するオリオン座。三ツ星が並んでいるから分かりやすいな」
    ベテルギウス、プロキオン、シリウス──この三つを結んで冬の大三角であると語る声はいつになく弾んでいる。
    「そして、オリオン座のベテルギウスとこいぬ座のプロキオンを結んだ直線の上にあるのがふたご座だ」
    今の時間帯ちょうど天頂にあるため、ずっと見上げていると首がおかしくなってしまいそうになる。もちろんそれは織り込み済みであり、参加者を募った際に用意するものをいくつか記載した。
    「ふたご座流星群と言ってはいるが必ずしもふたご座から流れる訳ではないからな。…さあ、長ったらしい話はここまでだ。みな、シートと布団はちゃんと持ってきているな?では各々好きなところで観測してくれ」
    長政がパンと手を打つと子供たちは歓声を上げて保護者の手を引き駆けて行き、寝転んで空を見上げ始めた。
    こどもたちからの視線がなくなると長政はいつも通りの表情に戻り、軽く息を吐いた。
    「照明を落としてくる」
    「えっ、それくらい私が行きますよ」
    参加者が揃い、鑑賞会が始まれば天文台へと続く道と、駐車場の照明を落とすようになっていて、そのスイッチは天文台の中にあった。
    七緒は長政が責任者なのでと、制するが長政は短く「いい」と呟き天文台へと足を向ける。
    「お前が行くと暗い所で転びそうだしな」
    揶揄うように笑われ七緒は憤慨する。
    「転びませんよ!灯りだって持ってますし!」
    しかしその言葉を聞いた長政は更に可笑しそうに笑った。
    「それでも転ぶのがお前だろう」
    「もう!」
    心外だとばかりに声を上げて叫ぶと同時に、星が流れたのかこどもたちの歓声が夜空の下に響いた。
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    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117

    k_ikemori

    MOURNING2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990

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