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    monamona_gnsn

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    リオヌヴィ。冒頭だけ。続きはないけどハピエン想定です。

    ※モブがよくしゃべる。
    ※ヌヴィはほぼ出てこないけどリオヌヴィ。

    #リオヌヴィ

    結婚狂想曲(リオヌヴィ)「僕はもう我慢なりません!公爵、すぐにでもヌヴィレット様と結婚なさってください!」

     開口一番、耳をつんざかんばかりに執務室に響いたその声に、リオセスリは思わず、米神に当てていた指先をそっと耳元にずらした。
     公爵と五分間だけ話がしたい。服役中にコツコツと貯めたそれなりの量の特別許可権を全て叩いてまで懇願されたそんな願いに、その意気や良し、と承諾したのが今から三日前のこと。偶々空いていたスケジュールの隙間にその囚人との面会を差し込み、さあ入ってくれ、よく来たね、とにこやかに迎え入れてみれば、いっそ芝居がかった程に息せき切って駆け込んで来たその男は、まさに、もう我慢がならないとばかりにくだんの言葉をリオセスリに向かって吐き出した。
     肩で息をする、とはまさに今の彼の姿をそのままに表現したような言葉であるのだろう。リオセスリは、いっそ悲壮感すら感じられる男の様子を執務机の向こう側でゆったりと一瞥し、息を吐き、そして少しばかりの動揺を紛らわせるように徐に脚を組んでリラックスの姿勢を取る。

    「……ギュモーヴくん、君はとても『模範的』な囚人だと聞いている」

     リオセスリのそんな言葉に、呼ばれた男は恐縮したように肩を竦め、とんでもありません、と、いかにも素直に表情を崩す。成程、聞いていた通りに、この男は「愚直」という評判に違いはないらしい。

    「君の日々の態度は至って健全で勤勉であり、よく働きよく休み、『医務室』の世話になることも殆どない程良くしてくれているそうじゃないか」

     だからこそ。一旦そこで言葉を区切り、リオセスリはもう一度だけ浅く息を吐く。

    「だからこそ俺は、そんな『模範的』な君が不敬罪で刑期を伸ばされたいようには如何にも思えないんだが……。先程の言葉は俺の聞き間違えだと信じてもいいのかな?」

     普段浮かべている表情をそのままに、目の前の男をじとりと見据える。大概の者であれば、リオセスリのその獲物を品定めする狼のような視線を受けると途端に萎縮し言葉を失ってしまうものだが、如何にも、この男はそういった者とは違うらしい。
    いいえ、間違いではありません。そう、前のめりに応える男の瞳は爛々とした輝きを失っておらず、それどころか、更に何かを言い募ろうと一歩二歩とリオセスリの方へと歩を進めても見せた。
    鈍感なのか、命知らずなのか。リオセスリは、そんな男を前に、軽々しく嘆願を承諾してしまった数日前を少しばかり後悔したが、今となってはそれももう遅い。重く吐き出しそうになる溜息は喉の奥に押し留めたまま表情を崩さずにいると、リオセスリの沈黙に先を促されたのだと愚かにも勘違いしたその男は、更に意気揚々と言葉を続ける。

    「俺、聞いてしまったんです!モヴリムが公爵に失礼なことを言っているのを!」
    「へえ、失礼なこと?」
    「はい!だからもう、俺はそれが腹立たしくて、腹立たしくて……」

     曰く、男は一週間程前にこの要塞にやって来た囚人の女が、リオセスリを嘲るかのようなことを他の囚人にのたまっていたのを偶然耳にしたらしい。「公爵」も所詮はただの男、自分の色気にかかればイチコロだ、だの。自分が少し粉を掛ければすぐにも籠絡出来る程度の男、だの。まあ、言ってしまえばよくある軽口であり、特別気に留めるようなことでもないとリオセスリ自身はそう思ってしまうのだが、この「クソ」が付きそうな程に真面目で愚直で「心優しい」男にとっては、そうではないらしい。
     あれもこれもと男の口から飛び出して来る熱心な訴えを話半分で聞きつつ、そう言えばこの男がそもそもここへやって来ることになったのも義憤のためだったか、と、そんなことをふと思い出す。元々、フォンテーヌ邸にある小さな商会に勤めていたこの男は、同僚の女性が上司にセクハラ紛いの振る舞いをされていたのが我慢ならず、上司を殴りそのままお縄となった。審判の時も、「自分は暴力に訴えてしまったから裁かれるべきだ、だが後悔はしていない」と言って憚らず大人しくここへやって来たのだとは報告の一環として以前聞いてはいたが、まさか、こんな妙な訴えを起こす程の正義感を持っているとは恐れ入った。
     リオセスリが口を挟まず黙り込んでいる間も尚男の熱弁は止まらず勢いを増す一方で、「君の話はわかった」と堪え切れず口を挟んでしまったのは、流石にそろそろその声量に耳が痛くなって来たからだった。

    「つまり、君は俺が身を固めてしまえばそんな流言飛語も無くなる筈だ、と?」
    「はい!それも、ヌヴィレット様のような、容姿にも人柄にも、そして何より社会的地位にも優れた素晴らしい方でなければなりません!」

     だから結婚すべきです、と。何が「だから」なのかは正直言って全くわからないのだが、少なくとも、この男の中では筋の通った訴えではあるらしい。
     如何にも崩れそうになる調子を持ち直すように脚を組み替え、瞬きを数回。再び男に視線を向けるも、尚も男は先程の勢いを失っている様子は無く、鼻息も荒くリオセスリからの返答を待っている。

    「とりあえず、君の言いたいことはわかった。だが、そこで何故最高審判官殿の名前が出て来るんだい?」
    「それは勿論、ボム・ブラザーズからの情報です!」
    「成程。きっと君はスチームバード新聞の熱烈な読者でもあるんだろうね」

     どうしてお分かりになるんですか、などと素直に驚いている男に頭が痛くなるのを感じつつも、リオセスリは表情を動かさないまま内心で嘆息する。
     要するに、この男はリオセスリと最高審判官ヌヴィレットが「懇意」である、というゴシップを仕入れ、信じ込み、ならば背中を押さない手はあるまいと今回の強行に至った、と、おそらくはそういう事なのだろう。そのゴシップとやらの出所に心当たりが無いわけでも無かったが、どうあってもそんな反応を返すわけにもいかず、リオセスリは肯定も否定もせずに、ただ「成程」と同じ言葉を返した。
     ……正直に。正直に言おう。確かに、リオセスリはヌヴィレットに対して一種の「特別なもの」を抱いてはいるし、確認したことこそ無いが、ヌヴィレットにも同様に想われているという自惚れはある。そんな自惚れを抱けるくらいにはリオセスリは彼と親しく接して心を通わせてきた自負もあり、結婚、とまではいかずとも、それなりに距離を縮めたいという気持ちも無いわけではない。
     だが、それはそれ、これはこれ、だ。いくらなんでも「結婚」だなどと、そんなものはいくら何でも突飛過ぎる。しかも、自分はメロピデ要塞の「公爵」であり、相手はあの誰もが知る公正無私の法の番人、最高審判官ヌヴィレットだ。そんな大物が結婚、だなどと、スチームバード新聞の三面記事程度で済む筈がない。そんな軽率な行動が取れる筈も無いことなど少し考えればわかるだろうものだが、この、義憤に駆られ、一刻も早くリオセスリへの侮辱を止めさせたいと熱く燃える男には考えもつかないのだろう。

    「だから公爵!結婚してください!」

     いよいよもってリオセスリの着く執務机の前まで躍り出て来た男が、一層芝居じみて強く拳を握る。そんな男を尚も冷めた目で見つめるリオセスリは相も変わらず表情こそ動いていないが、内心は、この厄介な状況をどう切り抜けたものかと嘆息が止まらなかった。

    「……わかった」

     諦めたように息を吐き、そう返したリオセスリの言葉を、男は如何やら「承諾」だと受け取ったらしい。途端に喜びが浮かぶその双眸と表情をリオセスリは反して冷たく見据え、今度ははっきり聞かせるように大きく息を吐いて見せた。
    男は自分の嘆願が受け入れられたと素直に喜んでいるようだが、正しくは、これは結婚に対する承諾などではなく「君の話はわかった」というただの返答でしかない。だからこそ、この男にははっきりと伝えるべきだろうとリオセスリは言葉を続けようと口を開きかけたのだが、そこに来て不意に耳に届いた、カツリ、という硬質な足音に、咄嗟に口を噤んだ。
    恐らくその音は、しばらく前からこの執務室まで届いていたのだろう。だが、リオセスリがこの男に気を取られていたこと、そして何よりこの男の声量があまりにも大きかったことが相俟って、「その人」がいよいよこの部屋へ入って来るまでリオセスリも、そして目の前の男もそのことには気がついていなかった。
    ヌヴィレット様?!と、男が恐縮したような、高揚したような声でその人を呼ぶ。

    「面会中だったのか。すまない。邪魔をするつもりは無かったのだが、可及的速やかに君に確認したいことがあった故、入らせて貰った」
    「ヌ、ヴィレットさん……あ、いや、これはだな……」

     淡々と告げるヌヴィレットの表情は常と変わらないものだが、リオセスリの直感が「これはまずい」とそう告げていた。現にヌヴィレットは、確認したいことがあったと言った傍から「だが、また今度にしよう」などとあからさまに足早に立ち去る始末で、リオセスリは急激に肝が冷えていくのを感じつつも予期せぬ事態に椅子から立ち上がることすら出来なかった。
     無様にも、ヌヴィレットが去って行く背中に縋るように伸ばされた指先が宙で小刻みに揺れる。この「まずい」状況の元凶である男は、憎々しくも、わけもわからず階段の先とリオセスリを不思議そうに見比べ「ヌヴィレット様、どうかなさったんですかね」などと場違いに呑気なことを言っていた。

    「……五分経った。面会時間は終わりだ。お引き取り願おうか」

     暫く呆然とした後持ち直したリオセスリは、男に視線は向けないままにそう言い置いて足音も荒く執務室から出る。今から急いでもおそらく彼の人の背中には追いつけないだろうが、それでも、何もせずあのまま呆然としているわけにもいかなかった。

     久方ぶりに水の上へと上がったリオセスリが、激しく吹き付ける豪雨を目にして更に頭を抱えることになるまで、あと数分。
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