プレゼントは特等席 人間にプレゼントをするなら一体何がいいのか。
ここ最近のネメシスはこの話題で持ちきりだった。それというのも、メガトロンが自分の専属カメラマンだと豪語する小さな存在に、日々の労いも込めて何か贈りたいと言いだしたのだ。しかしながら人間の勝手がよくわかっていない彼らにとって、贈り物を考えたり選んだりすることは至難の業だった。だからこそ、ディセプティコンでも上から数えたほうが早い面々が顔を突き合せて神妙な表情で話し合いをしているのだ。
『ふむ、やはり人間にパーツを送るのは止めた方が良いのか』
『当たり前でしょうメガトロン様…どうやって人間に金属パーツを組み込むんですか?いくら医者だからって私はやりませんからね?』
『そうか…ならば何を贈ればいい?』
たしなめられるように言われた言葉にメガトロンは考え込み、そして自分の意見だけだはまとまらないと考えたのか部下たちに話を振った。沈黙が続くかと思ったが、意外にも真っ先にスタースクリームが声を上げた。
『能天気な奴ですし、正直何贈ってもアホみたいに喜ぶんじゃないっすかねぇ』
『ふむ』
『<ここはやはり本人に聞くのが一番なのでは?>』
『うむ』
考え込むように唸るメガトロンの眉根がどんどん寄っていく。スタースクリームの意見にもサウンドウェーブの意見にも賛同はできる。だが、どうせなら本人が欲しがっている物を贈りたいし、それにサプライズで喜ぶ顔も見たい。いい反応を示さないメガトロンにじゃあと今度はドレッドウィングが手を挙げた。
『では実用的な武器などはどうでしょうか?我々の持つサイズでは大きいですが、小さく改良すれば護身用にもなると思います』
『ほう、その意見はなかなかよいな』
やっと顔を上げたメガトロンは続けろと言わんばかりにドレッドウィングに妖しく光るオプティックを向けた。
『やはり物を贈るのが一番だとは思いますし、実用性も兼ね備えられれば喜ばれるのではないでしょうか』
『それもそうだな』
『!、そしたら武器よりも食べ物の方がいいと思いますメガトロン様』
『食べ物、か…それは何故だウォーブレークダウン?』
ここにきて新たな提案をしてきたブレークダウンに、メガトロンも興味深そうな声を零した。じっと見据えられたブレークダウンは、メモリー内で過去の記憶を再生しながら話しているせいか表情を崩し締りのない顔で喋り始めた。
『なんていうか、食べ物を食べてるときってすっごい幸せそうな顔をして食べるんですよ。見てるとこっちも笑顔になれるっていうか…とにかく喜ばれるっていうなら食べ物が一番かと』
『なるほど』
納得したように頷くメガトロン。喜ばれるのならブレークダウンの意見が一番だろうと、ニタリと口角を上げた瞬間、呆れを前面に出した声が響いた。
『っも~!男共は何にもわかっていないッシャ!女子が喜ぶ贈り物と言ったら宝石に決まってるッシャ!』
『…宝石』
同性であるエアラクニッドの意見に、まとまりかけていたメガトロンの思考がまた迷い始める。
『女子はみ~んなキラキラした物が好きなんですよメガトロン様!破壊大帝様がこのくらい知っておかないと女の子にもてないッシャよ?』
『そうか、宝石か』
満足げに鼻を鳴らすエアラクニッドの蛇足的小話をさらっと聞き流しながら、メガトロンは腕を組み顎に手を当てた。そして今日一番といえるほど眉根を寄せ、ふむと考え込んでしまった。
『…っは~』
静寂が支配していた空間に響いた深い深ぁい排気。その発生源にいたのは腕を組みながら壁に寄り掛かるノックアウトだった。
『全く…貴方方は誰一体として彼女のことを理解していない』
『ほう、ではメディックノックアウトよ、貴様にはやつを喜ばせるいい案があるとでも?』
『勿論ですメガトロン様』
手を胸に添えて頭を下げるノックアウトだが、そのオプティックはメガトロンを見据えたままでいる。いつも以上に自身に満ちているその様子に、メガトロンも感心したように声を零した。
『そうか…ならばその案を聞こうではないか』
『簡単なことですよ』
その場にいた全員がノックアウトへと顔を向ける。注目されて満更でもないノックアウトは、もったいぶるように話し出した。
◇
「っひゃーーー!」
『楽しいか?』
「はい!とっても楽しいです!」
エイリアンジェットのコックピットの中で歓喜の声を上げる小さな存在に、メガトロンの口角も上がる。ノックアウトに言われたようにビークルモードに乗せてやるだけでこんなに喜ぶとは思っていなかったメガトロンは気をよくし、必要以上にアクロバット飛行を披露していた。
『このままオーロラでも見に行くか』
「え!?いいんですか!?」
『勿論だとも。これは貴様へのプレゼントだからな』
「やったー!破壊大帝さんありがとうございます!」
喜びのまま抱き着くようにコックピットに頬を寄せ、そしてへにゃりと笑いながら心底嬉しそうに言葉を紡いだ。
「こんな最高なプレゼント、私もらったことないです…本当にありがとうございます」
『っ…こんなことでいいならいくらでも乗せてやる』
「へへ、ぜひお願いします!」
『ではオーロラを見に行くぞ』
「はーい!」
元気のいい返事を合図に、メガトロンはジェットをふかしてぐんと加速した。メガトロンの優しさから、コックピットには全く負荷がかかっていない。しかしそんなことに気づきもせずオーロラ楽しみですねーと零す少女にメガトロンも笑みを零した。