夢から覚めても「待ってくれパーシヴァル。落ちつきなさい。一旦状況を整理しよう。これは……」
「バーソロミュー。待ちません。私は貴方に告白しなければならない」
バーソロミューの部屋。
椅子に腰掛け優雅にティータイムを楽しんでいた。
湯気が出る紅茶をテーブルに残し、バーソロミューは立ち上がって壁際まで逃げる。
パーシヴァルが自分の身体と壁をもってバーソロミューを追い詰める。
「バーソロミュー、私は……」
真摯な顔と真剣な声でパーシヴァルが告げかけた時、ピンポンパーンと船内放送の音が鳴った。
『ダ・ヴィンチの緊急放送だよ〜! 今! サーヴァント達の中で白昼夢が流行っている!!』
白昼夢は流行るのもなのか? 魔術的攻撃という事だろうか?
バーソロミューとパーシヴァルは一旦、自分達の話を脇に置き、ダ・ヴィンチの声に耳を傾ける。
『白昼夢は昼に見る夢、願望を空想し、現実と願望の境が曖昧になる現象だ。つまり、願望を夢に見て、その夢が現実とごっちゃになってるサーヴァントがいる。例えば、ケーキを食べたいという願望をもっていたとする。そこでおやつにエミヤが特製のケーキを焼いてくれる約束をした、そんな白昼夢を見る。目が覚めてもその幻想を現実だと思い込み、エミヤが特製のケーキを食べられると行動する。分かりにくいけどそんな感じだ! これだけならエミヤに頑張ってもらえばなんとかなるかもだけど!』
なんでさ!
という声が聞こえた気がした。
『資材集めのメンバーから外れるだとか! 逆にシミュレーターで戦闘しまくるだとか! 人体実験とか! 問題がでてくる可能性もある! 幸い、魔術に造詣が深いサーヴァントならセルフチェックで自分の異変に気づける、深くないサーヴァントも白昼夢を見始めてすぐならば自分の記憶と照らし合わせれば気づける、後は第三者から異変を伝えられれば気づけるので、白昼夢に罹患したと思う者、医務室やメディカルルームに足を運んでー!』
ブツリと船内放送が終わる。
パーシヴァルは壁から手を離し、一歩後退して、バーソロミューを解放する。
「話はまた後日。今は“白昼夢”を。私はセルフチェックをしてみるよ」
そう言ってパーシヴァルは胸に手を当てれば、五秒ほどして目を開いた。
「……なにか、魔力の流れに違和感がある」
「え。本当かい? 君が白昼夢を?」
バーソロミューが声に少し心配を滲ませて問えば、パーシヴァルは頷き、次にバーソロミューの手を握り、自分の胸元へ引き寄せる。
「得意というわけではないが、この程度なら私でも……」
パーシヴァルが目を閉じる。
パーシヴァルに握られた場所が温かくなり、じんわりと体温が伝達するかのように、身体の中に何かが入り込んできた。
不快感はなく、パーシヴァルを見つめていれば、十秒ほどで彼は目を開いた。
空色の瞳が、戸惑ったようにバーソロミューを見おろす。
「……貴方にも私と同じ違和感があるね」
「あ〜、つまり二人ともかぁ。まぁお部屋デートが医務室デートになったと思えば」
じゃあ行こうかと、バーソロミューは恋人の手を握り返した。
医務室に長蛇の列ができていた。メディカルルームも同じ状況。
これではいつ診察してもらえるか分からず、マスターは白昼夢に罹患していないサーヴァントと解決に奔走していると聞き、自分達で白昼夢を突き詰めようと決める。
まずは二人で互いに何か違和感がないか話し合いながら廊下を歩く。
「んー、これと言ってないなぁ。まだ数ヶ月とはいえ恋人なのだから、分かってもよさそうなものだが」
「悔しいが私も分からないな。本当にささいなものなのかもしれないね」
「パーシーにメカクレになって欲しいとか?」
「バートにもっと食べて欲しいとか?」
ふふふと二人で話し合い、廊下の先、目的のサーヴァントを発見した。
「……ふむ。恋人達である自分達で分からなくとも、パーシヴァル卿と付き合いの長い円卓ならと」
ガウェインは話を聞き、パーシヴァルとバーソロミューを見やる。
彼はニッコリと爽やかに笑うと、「分かりません」と言ってのけた。
「んで、次は拙者のところと」
昼間からBARにいた黒髭は、パーシヴァルとバーソロミューを交互に見て、うげぇ〜という顔をする。
「ラブラブのカレピが分かんない事、拙者が分かるわけないでしょ〜」
しっしっと追い払われた。
「まかせろ」
ドゥリーヨダナの部屋にいたカルナに話を聞きに行けば、うんうんと嬉しそうに頷かれる。
今はこれしかないがと花をまかれた。
パーシヴァルとバーソロミューがなんだと戸惑っているところに、アシュヴァッターマンがフォローをいれた。
「あー、マスターがもうすぐ“白昼夢”解決するらしいからよ、わざわざ歩き回って突き止めなくとも、部屋戻って安静にしてればいいんじゃねぇか?」
その後も数騎に聞いたがなにも情報は得られず、アシュヴァッターマンがもうすぐ解決するお言っていた事もあり、そういえばティータイムの途中だったなと部屋に戻る。
部屋の前に辿り着き、自動ドアを開ける。
「紅茶を淹れなおそう」
「では私はカップを洗おう」
二人とも部屋に入り、後ろで自動ドアが閉まっていく。
閉まりきり——ふつんと夢から覚めた。
「つっ!?」
「なっ!?」
数時間前部屋を出てからずっと身体の一部が常に触れ合うほどの距離にいたというのに、バーソロミューが飛び退くように距離をとる。
パーシヴァルはそんなバーソロミューを、顔を赤くしながらも、熱っぽい目で見つめる。
「バーソロミュー」
「待ってくれパーシヴァル。落ちつきなさい。一旦状況を整理しよう。これは……」
「バーソロミュー。待ちません。私は貴方に告白しなければならない」
壁に逃げるバーソロミュー。
追い詰めるパーシヴァル。
「数時間前も同じやりとりしたね!」
「貴方も同じ白昼夢を見てくれて嬉しく思う。現実でも私を恋人に」
パーシヴァルの真摯な告白に、バーソロミューは目を逸らせずただ顔を赤くする。
まだ友だった二人。
バーソロミューが逃げ回っている状態で、気のないふりを続けていたのだ。
そんな中での白昼夢。
バーソロミューは話を聞きに行った面々の反応を思いだし、自分から外堀を埋めてしまった事を悟ったのだった。