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    60_chu

    @60_chu

    雑食で雑多の節操なし。

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    60_chu

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    過去作

    カケタイ

    #カケタイ
    tie-dyeing
    #Dom/Subユニバース
    dom/subUniverse

    鱗をもたない僕たちは 外国人の英語教師とはまた違った発音でカズオは俺を呼ぶ言葉を発した。土曜日の朝、ひとり湯船の中で遅めのフロにつかるそいつはいつものように眼鏡をかけたまま、戸口に佇む俺を呼んだ。おいでc o m e。そう呼ばれると俺の体は何よりも従順になってあいつの元へと向かっていく。そんな時、小学生の頃に道徳の授業で習ったことを思い出す。「わたしたちは男性や女性などといった他に『褒めたい性』と『褒められたい性』に分類されます」。Dom、Subの名前の方が知られているけど、教科書に沿って敢えて言うなら俺は『褒められたい性』だ。
     おいでの一言に俺が抗えないのは俺がその『性』だからで何も悪くない。そういったことは学校の授業は教えてくれたけれど、湿ったタイルにハーフパンツが濡れるのにも構わずに膝をつくことの気持ちよさは教えてくれなかった。
    おすわりk n e e l
     この一言にも俺は言うとおりにするしかない。湯船の縁に肘をついて見上げる瞳は結露に覆われたレンズ越しに、しゃがみこむ俺をじっと覗いた。曇ったガラスに期待に満ちた俺の顔が写る。褒められたい。今すぐ頭や頬を撫でていい子だと教えてほしい。湯船からあふれたぬるま湯が俺の膝元を波のように濡らしてはひいていく。ぐしょぐしょになったハーフパンツの生地が肌にはりつく。
    「何しにきたにょお? まさかノゾキ?」
    「んなっわけ、アレ、忘れて」
     俺は顎をしゃくって鏡の一つを示した。その前にはポツンと青い紐が残されている。
    「あー、ミサンガ」
    「外したの置いてたら忘れちまったんだよ」
     ふうん、とカズオは息をつくと腕をたたんでその上に突っ伏した。顔だけをこっちに向けて。そして、意味ありげに片頬をあげる。揺れる湯がまた脚を濡らした。
    おいでc o m e。もっと近く。そのままでc r a w l
     カーブを描いた天井に反響する声が俺の脳味噌をいつも以上におかしくさせる。こもったあいつの呼び声が耳奥を舐める。手をタイルにつくと貝の裏側のようなつるりとした感触がした。掌もすぐに水濡れになる。尻をあげて膝に重心をかける。片手と片膝を交互に前進させて縁へと近づいた。水滴があいつの肩を滑り落ちていく。レンズの向こうの金色の瞳は四つん這いの俺から逸らされることは絶対にない。見ないでほしい気持ちとちゃんと見て俺がどれだけカズオの為に頑張っているのか見てほしい気持ちが渦を巻く。やっと、縁に手をかけられたと思ったら、カズオは湯船に潜って沖の方へと泳いでいった。橙色の髪が広がってイソギンチャクみたいに水中で踊る。と思えばすぐに水面から顔を出し、すうと力を抜いて仰向けに浮いた。
    「タイガくーん、助けてえ。溺れちゃうよお」
     天井に投げられたしらじらしいSOSは壁に水面に跳ね返って俺の全身をくすぐりまわす。カズオは脚をゆるくダウンキックしてさらに遠ざかった。
    「しっかり泳いでんじゃねえか!」 
     へたっていた脚に瞬時に力がみなぎる。飛沫を立てて俺はカズオを目指して飛び込んだ。湯の中に体が沈むと世界から音が消える。無音の中で俺とあいつの間にあるのは泡と水だけ。わざと水中で瞳を閉じて息を止めて俺を待つ馬鹿を救いに俺はぬるい海を蹴る。入浴剤のハッカの匂いが鼻をついた。まといつく服が前進の邪魔をする。漂う体に追いつくと力のないふりをした肩を掴んで引き揚げようともう片方の手を掻いた。
    「ここは人工呼吸っしょ、人魚姫サマ」
     そんな台詞が聞こえた気がして、そして泡と波の中で唇が塞がれた。ぬるい唇を離すたびに呼吸が弾けて水面へと昇っていく。本当に溺れてしまいそうなほど俺たちは何度も水の中でくちづけを繰り返した。舌が侵入すると窒息するかと思うくらい水が口を流れていったが気にする余裕はなかった。裸のカズオの体が俺を捉えて離さない。カズオが腕を回すたびにタンクトップが鰓みたいに体の周りを跳ねた。
     数えきれないキスの後、俺達はほぼ同時に水面から顔を出した。肩をそびやかして大きく息をつく。肺に酸素が行き渡るのを感じる。おいでと呼ばれなくても済むくらいにカズオは近い距離にいた。水中から海獣の鰭のように自然に右手を伸ばすと俺の頬に触れた。全身がその挙動を歓迎する。皮膚が粟立って顔に熱が集まるのがわかる。早く撫でろと言わんばかりに俺は無意識に触れられた頬をその手におしつけた。
    「タイガ」
    「ん」
    「眼鏡がどっかいっちゃったから探してきてくれにゃあい?」
     濡れてしおれた癖毛は毛先から雫をいくつも落とした。それは波紋を作ってまだ荒れる水面に模様を描く。俺は落胆と苛立ちを露わにすると、あてつけるようにさっき以上に飛沫を立てて水中に潜りこんだ。目当てのものはあいつの足元近くに転がっていた。さしこむ照明の光の一筋がレンズを照らす。指先にそれを引っかけると、水面を目指す。舌打ちの代わりに唇を歪めると肺から貴重な空気が逃げていった。
     水中から頭をあげると同時にカズオの両手に後頭部を捕まえられた。俺は新鮮な空気を吸いたかったのにカズオの唇がもう一度塞ぐからそれは叶わなかった。ただでさえ不足気味だった酸素を奪われて体から力が抜けていく。ちぅ、ちぅとさっきのキスの時には聞こえなかったさえずりがぼおっとした脳味噌にこだまする。
    「か、ず……」
     息が苦しいことを伝えようとすれば髪をゆっくり梳きながら耳元でいい子good boyと返された。
    「んんっ」
    いい子だよ> g o o d b o y]]、タイガ。[[rb:いい子good boy
    顎を支えるように両頬をつままれる。涎か水かわからない液体がカズオの指を伝った。
    「こんなにびしょぬれになって俺っちのとこまでかけつけてくれるなんて、タイガくんってばなんて健気なんだろ」
    「かずお」
    「そんなタイガくんにはご褒美あげなきゃね」
    「ごほうび」
     そうだよ、ご褒美。囁きながらカズオの白くて長い指ははりついた服を剥がしにかかっている。水を吸ったタンクトップは湯船をゆらゆら泳いで俺達から離れていった。風呂に入るときは裸が当たり前なのに、今は鎧を奪われたような気がする。
    「タイガは何してほしい?」
     剥き出しの金色の瞳に射すくめられた俺はすっかり冷えた湯の中でハーフパンツのウエストに手をかけた。


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    60_chu

    DOODLE過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
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    60_chu

    DOODLE過去作

    カヅヒロ
    シンデレラは12センチのナイキを履いて まるで二人にだけピストルの音が聞こえたみたいに、まるきり同じタイミングでカヅキとヒロは青信号が点滅し始めたスクランブル交差点に向かって走っていった。二人はガードレールを飛び越えてあっという間に人ごみに消えていく。さっき撮り終わった映像のラッシュを見ていた僕は一瞬何が起こったかわからなくてたじろいだ。
    「速水くん達どうしちゃったのかな?」
     僕の隣で一緒にラッシュを確かめていた監督もさっぱりだという風に頭を振って尋ねてくる。
    「シンデレラに靴を返しに行ったんですよ。ほら」
    はじめは何がなんだかわからなかったけれど、僕はすぐに二人が何をしに行ったのか理解した。
     赤信号に変わった後の大通りにはさっきまであった人ごみが嘘のように誰もおらず、車だけがひっきりなしに行き交っている。車の向こう側から切れ切れに見える二人はベビーカーと若い夫婦を囲んで楽しそうに話していた。ぺこぺこと頭を下げて恐縮しきっている夫婦を宥めるようにヒロが手を振った。その右手には赤いスニーカーが握られている。手のひらにすっぽりと収まるぐらい小さなサイズだ。カヅキがヒロの背を軽く押す。ヒロは照れたように微笑んで肩をすくめるとベビーカーの前に跪いた。赤ちゃんは落とした靴にぴったりの小さな足をばたつかせる。ヒロはその左足をうやうやしく包んで爪先からスニーカーを履かせていく。
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    recommended works

    cross_bluesky

    PROGRESSパラロイ本(ブラネロ)の冒頭部分。
    CRITICAL ERROR 鳴り響くエラーメッセージ、動かなくなるボディ。辛うじて稼働していた聴覚センサーが最後に拾ったのは、見知らぬ男の声だった。

     高層ビルの真ん中を薄紅色の花弁が舞い、眩しい光と音に溢れたネオン街──フォルモーントシティ。そこでは人間の他に、アシストロイドと呼ばれる人の手によって作られた機械たちが暮らしている。
     整備と機械化の進んだハイクラス・エリアとは違い、階級社会の底にあるワーキングクラス・エリアには治安の悪い場所も決して少なくない。法の目をかいくぐった非合法な店が立ち並ぶ中、管理者不明のアシストロイドたちはメンテナンスもされず、ただ使い捨ての道具のように各々の役目を全うすべく働かされていた。
     ──フォルモーント・シティポリスのもとに大規模な麻薬取引のタレコミが入ったのは夕方過ぎのことだった。ワーキングクラス・エリアの歓楽街の一角で、違法アシストロイドたちと引き換えに、隣接したシティから大量のドラッグが持ち込まれるという。人の形を精巧に模したアシストロイドは高値でやり取りされるのだ。特に違法アシストロイドは、人の心に取り入りやすいよう愛らしい見目をしているものが多いから尚更。
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